6月23日
1984 ー 風営法改正直前のギラギラした歌舞伎町で親父の逆噴射!
20
2
 
 この日何の日? 
映画「逆噴射家族」が劇場公開された日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます

 
 1984年のコラム 
アイドル?声優?シンガーソングライター? 飯島真理の萌える歌声

ドッキリ!夢・体・験 安田成美の魅力を開花させた初主演映画

緊急発売体制! BORN IN THE U.S.A.の国内盤が店頭に並ぶまで

原宿 伝説の理容店、一世風靡セピアとリーゼント

縦横無尽なリズムの怪人、世界はプリンスに追走するのに必死だった

日本における「カノン進行」の源流を探る旅(その3)

もっとみる≫

photo:ナカレコ2号店  

1984年6月、初めて歌舞伎町に足を踏み入れた。理由は観たい映画があった、ただそれだけ。『トゥナイト』の風俗街リポートで山本晋也監督が連呼していた「ほとんどビョーキですネ!」というセリフそのままの街の猥雑さに正直二の足を踏んだ。

歌舞伎町のゲートから映画館まで200メートルちょっとの距離が恐ろしく長く感じられる。まだ日も明るいのに客引きが跋扈し、風俗店の前では丈の短いセクシーなワンピースを着たお姉さんたちが道行く男たちに視線を送っていた。

中には水着ではないかと一瞬見紛うほど、露出の激しい服を着た子もいた。だから偶然視線が交錯すると強い緊張を強いられる。そんな風に彼女たち一人一人を通り過ぎる度にファンデーションの匂いが鼻をかすめていく。

地面を見て一気に足早に歩く。大人の世界の熱にあてられて、驚きと居所のないような情けない気持ちがない交ぜになって、行き着く先さへわからなかった。欲望の街とはよく言ったものだ。目の前にはギラギラとした原色の世界が広がる。酔ったような気分で酷く汗をかき、ようやく劇場に着いた。

目的の映画は、小林克也サンが父親を演じる風変わりなホームドラマだった。歌舞伎町の強烈な毒気から解放されたはずの僕は、再びこの『逆噴射家族』という名の映画から、さらに強い猛毒を噴射されることになる。

主人公は小さいながらマイホームを手に入れ、馬車馬のように働いてきた父親。家に帰れば、妻からのエロ過ぎる求愛に額から脂汗を流し、受験戦争の真っ只中にいる息子には何かと気を遣う。アイドルを夢見るちょっとオツムのゆるい娘がいつも心配でならない。

そんなある日、田舎に住む兄夫婦に追い出された爺さん(主人公の父)が転がり込んでくる。一向に帰ろうとしない爺さんに家庭内が何やらギクシャクし始める。仕方なくリビングルームの床下に穴を掘り、地下に爺さんの部屋を作ろうとするのだが、そこから無数のシロアリが這い出してくる。日頃のストレスが積み重なって一家の大黒柱はついにプッツンする。

死ぬっきゃない!
死ぬっきゃないのんじゃ~~~ッ!

父親は工事用の電気ドリルを振り回し家族全員を相手に戦争を始める。マイホームに響き渡る轟音と家族の怒声。

すると、その怒りを煽るかように激しいビートが劇場内に響き渡った。音楽を担当するのは、ルースターズから派生したユニット「1984」。彼らの放つエキセントリックな旋律がありきたりな日常に潜む暴力性を露わにする。

キッチンで武装し包丁を研ぐ音を響かせる妻、ヒステリックなお経を唱え続ける爺さん、金属バットを振り奇声を発している息子。父親は狂気の中で家に火を放ち、リビングはガス爆発に巻き込まれる。そして、耳鳴りのようにキーンと響く攻撃的な高周波。マイホームの中で憎悪は激しく膨らみ、まるでメタルパーカッションのように打ち鳴らされる。

観ている者の神経を逆なでする数々の不協和音は、先ほどまで歌舞伎町の路上で僕を悩ませていた空気そのものだった。『逆噴射家族』で描かれる家族は、ごく普通の家族だ。急激な経済成長の最後の上り坂、バブル景気へと続く道のりの中にいる。敷かれたレールの上をこのまま走って行っていいのか? マイホームを夢見て働くような人生がこれからも続いていくのか? この映画は皆が心に描いていた想いや一抹の不安を乗せて走り出し、最後にすべてを壊し逆噴射してみせた。

映画館を出るころには日も沈み切って、原色の灯りをまとった街はさらに喧騒に包まれている。バブル直前の渦巻くような騒音と相まってこの映画は心に深い爪痕を残し、僕の平穏な日常という繭に小さな風穴を開けた。映画の中で植木等サン演じる爺さんが「百鬼夜行!わしゃ、なんでこげな恐ろしか家に舞い込んだんじゃーッ」などと叫んでいたが、まるで同じような気分をこの街で味わった。

風営法の大幅改正「新風営法」が施行される直前の歌舞伎町、僕はその混沌とした腹の中で目に見えぬ怪異に囲まれていた。そして、そのとき僕の頭の中ではずっと… 1984の「親父の逆噴射」が鳴り響いていたのである。

2017.11.14
20
  YouTube / consumed


  YouTube / Johnny Heyward
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。


おすすめのボイス≫
1970年生まれ
ジャン・タリメー
石井監督,後にも何本か好きな映画はあるのですが,80年代の作品が(『狂い咲き』を含め)どれも見ても切なくて好きです.
2017/11/15 08:03
3
返信
1966年生まれ
鎌倉屋 武士
破滅に向かって突っ走る映画多いですからね~。強烈なアドレナリンが出てます。切なさと背中合わせの荒涼とした映像、ノイバウテンのドキュメンタリー映画も良かった。
2017/11/16 00:13
0
1970年生まれ
ジャン・タリメー
爺さんを受け入れる.部屋がない.建て増しは不可.じゃぁ下に掘ればいいんだー.という発想のまっとうさと可笑しさ.大好きな映画です.
2017/11/14 08:49
3
返信
1966年生まれ
鎌倉屋 武士
じゃぁ下に掘ればいいんだー(笑)。

監督・石井聰互、音楽・1984(ルースターズ)、脚本原案・小林よしのりと…中枢を担うクリエイターが福岡出身者で固められてるところも面白い。言うなれば、めんたいムービーですネ!
2017/11/15 03:09
1
カタリベ
1966年生まれ
鎌倉屋 武士
コラムリスト≫
51
1
9
8
0
ルースターズの最新型ロックンロール、オーソドックスだけど一番新しい
カタリベ / 本田 隆
29
1
9
8
4
MVチラ見のお預け状態、史上最強サントラ「フットルース」が席巻した夏!
カタリベ / goo_chan
27
1
9
8
5
スタローンと結婚したいっ!初めて買ったLPは「ロッキー4」のサントラ盤
カタリベ / clake
120
1
9
7
9
戦国自衛隊のサントラは10曲すべてがメインテーマである
カタリベ / 鎌倉屋 武士
11
1
9
8
1
伝説のカルト映画「ルシファー・ライジング」をめぐる2枚のサントラ
カタリベ / 後藤 護
42
1
9
8
4
ストリート・オブ・ファイヤーが教えてくれた「俺のロック」の在り方
カタリベ / ソウマ マナブ
Re:minder - リマインダー