僅か9か月の間に立て続けにリリースされた3枚のアルバムによって、日本の音楽業界は大きな変革の時を迎える。
1980年9月21日
ザ・ロッカーズ『WHO TH eROCKERS』
1980年11月25日
ザ・ルースターズ『THE ROOSTERS』
1981年6月21日
THE MODS『FIGHT OR FLIGHT』
80年代初頭。博多、北九州出身のビートグループが立て続けにデビューした時期を前後して、マスコミは地域性と物珍しさから「めんたいロック」という言葉を用意した。しかし、彼らの奏でる音楽は、そんな一過性の安易なネーミングとは相反していた。
世間との迎合を拒否するかの如く不敵で、時代に風穴を開けるトリックスターのような不良性に満ち溢れていた。その秘密は彼らが流行に媚びず、ルーツミュージックへの愛情を貫き通した音楽性にあった。それはさしずめ、温故知新型のニューウェイブとでも言っておこうか――。
ブルース、ブリティッシュビート、パンク、ロカビリー… 50年代、60年代、70年代の音楽をマッシュアップし、見事に最先端のサウンドとしてドロップ。東京に撃ち放たれた彼らのロックンロールはテクニックやルックスが先行し画一的な当時のメジャーシーンとは一線を画していた。そして、彼らのビートには、海を越え長い航海を経て渡ってきたような郷愁と切なささえも垣間見られた。
日本のリヴァプールと呼ばれる街、博多。ここから巣立っていったバンドは、デビュー当時のビートルズと相通じるものがあった。それは、リヴァプール出身であるビートルズが、結成当初、エディ・コクラン、バディ・ホリー、チャック・ベリーといったアメリカンメイドのロックンロールを感度のよいアンテナでキャッチし、自らの感性で洗練されたポップミュージックに仕上げていったという点だ。
ビートルズと同じように、彼らもまた、洗練された独自のアンテナを張り、テレビからもラジオからも聞こえてこない海の向こうのマニアックかつ良質なロックンロールを吸収し自らの音楽の基盤としていた。そして、その深みがデビュー当時の独創性を際立たせる。特に博多の音楽シーンで中心的存在だった3つの伝説的なグループは、三者三様の異なる顔を持っていた――。
2019年4月に38年ぶりのニューアルバム『Rock’n Roll』のリリースを控えた陣内孝則率いるザ・ロッカーズ。
彼らはファーストアルバムのキャッチコピー「このスピードについてこれるか!」という言葉そのままに、ラモーンズの持つスピード感を継承。ニューヨーク・ドールズのようなグラマラスなステージングを基盤としている。そこにエディ・コクランや、60年代のガレージグループ、ミュージックエクスプロージョンのエッセンスなどを抽入、断崖絶壁をフルスロットルで駆け抜けるようなバイクの疾走感を体感できるスリリングなサウンドを得意とした。
一方、ザ・ルースターズはセカンドアルバムの「オーソドックスだけど、一番新しい」というキャッチコピーそのままに Dr.フィールグッドが奏でるシンプルかつ無骨なパブロックや、ローリング・ストーンズのブルースフィーリングを匂わせるバンドだった。そんな黒っぽさや危うさを研ぎ澄まされた演奏力で昇華、圧倒的なインパクトを放っていた。また、大江慎也の狂気とイノセントの狭間を行くヴォーカルスタイルは唯一無二だ。
博多最後の大物と言われ、「不退転のロッカー」という称号と共にデビューした THE MODS。
デビュー当時の彼らはバンド名からも想起できるようにザ・フーやスモール・フェイセズなど、湿り気のあるブリティッシュビートのメロディにスリリングなパンク的アプローチを抽入、レゲエフィーリングも垣間見せながら独自のビートを加速させていった。音の奥行きが深く、ヒリヒリとした痛みを伴うその世界観は新しい風となり東京を席捲していった。
―― 言ってみれば、80年代末から90年代初頭にかけて数多く登場した「ビートパンク」と呼ばれるバンドは、そのほとんどが、こうした博多、北九州出身バンドの模倣であった。
ザ・ロッカーズが82年に解散をし(その後、再結成)、ザ・ルースターズは83年前後から、内省的なネオアコースティックなサウンドに変貌していく… そして、THE MODS のみがスタイルを崩さず孤軍奮闘している時代を経て、平成を越えゆく今でも彼らのロックンロールは多くのフォロワーを生み続ける。
80年代の幕開けに時代を映してきた大いなる軌跡は、決して懐メロとして腐ることなく、その輝きが失われることはなかった――。
そんな博多 北九州のバンドを爆音でスピンする DJイベント、『博多ビートパレード』(場所:スポットライト新宿)が2019年4月13日(土)に行われる。 博多 北九州サウンドの源流にあり、シナロケの鮎川誠氏のキャリアのスタートとしても知られるサンハウス。そして、アメリカンロックンロール、DOO-WOP が根付いたフィフティーズの街、久留米が生んだ大スター、チェッカーズ等々…。
ビートパレードと銘打った通り、80年代前半からの “博多ビートミュージック” をたっぷり堪能できるスペシャルな1日。どうぞ、気軽に足を運んでみてください。
2019.03.02