九州男児と言えば、
男らしい。
行動力がある。
礼儀正しい。
情に厚い。
そんなイメージが巡ってくる。好きになったら一直線! 叶うかどうか分からない恋だとしても、まるで臆することなく火の玉のように走り出してしまう「のぼせもん」―― そんな福岡生まれの友人がこれまでに何人かいた。こちらがぐずぐずしているとスタート前にフライングしたままゴールしてしまうので注意しないと一気に持っていかれる。
たしか石橋凌サンが、奥様である原田美枝子サンに告白したときの言葉は「すいとう」。これは博多弁で「好きだよ」「I Love You.」という意味だ。思ったらすぐ実行するものだから、その場にいた泉谷しげるサン(東京出身)は、二人が盛り上がる度にカットイン。「コラッ、美枝子! ロックの男と話すな!」と言ったとか、言わなかったとか…
何にしても九州男児は礼儀に厚い男が多いから、憎めないのが悔しいところ。泉谷サンの気持ちが僕には痛いようにわかります。そんな訳で「東京男は九州男に絶対敵わない説」に僕はずっと心を悩ませたままだ。そして、80年代、僕たちが憧れた九州男児のトップアーティストといえば、やはりチェッカーズだろう。
郁弥の甘く “かっこよか” ヴォーカルと “あいらしか” 笑顔へ送られる全国からの黄色い声援…。享クンの “わるそう” な眼光に釘付けになった女子たちの潤んだ瞳がいまだ忘れられない。そして、もうひとつ忘れられないのが14枚目のシングル「WANDERER」。この曲には良くも悪くも九州男のエッセンスが詰りまくっている。
作曲は鶴久政治。一人の女を想う男の心臓の鼓動(ドラム)に虚勢を張りながらも泣きたくなる心情を映したサックスが交差する。そして、九州男のラヴソングが幕を開ける。
女はその時 へたな嘘を聞いていた
テーブルに視線を移し 崩れ落ちてゆく
男はその後 時の流れも 気づかず
静かにいつまでも 残る涙 みつめてた
今は 眩しさだけが浮かぶよ
臆病になるほど 叫びにかわってゆく
OH WANDERER
作詞は藤井郁弥… 感情を内に秘めた優しいヴォーカル。男は郁弥サンの分身なのだろうか。彼は愛するがゆえについた嘘で女を傷つけてしまう。そして、いつまでも男と女の心はすれ違い彷徨う。
OH WANDERER
確かめ合っても 心の足音聞けやしない
OH WANDERER WANDERER
嘘はおまえを守る 愛しかただったよ
確かめ合っても心の足音が聞こえなくなるほど二人の距離は離れている。男の嘘に駆け引きはなく、真っすぐだからこその嘘なのだろう。そして、気が急いて結果を求めるあまり、待つこと、時間をかけることが上手くできない… そんな愚かしさも見えてくる。恋愛の駆け引きを楽しみたい女性にとっては、少し物足りない男かもしれないが、僕の見方は違っている。彼は情に厚い、ただ不器用なだけの九州の良い男だ…。
先日放送されたフジテレビ『ダウンタウンなう』(2019年3月15日放送)で、久しぶりに郁弥サンを見た。「女性は、時効がないよね。本当に30年くらい前のことを昨日のことのように言う」と語り始めるとステージ上で歌詞を間違えても動じることがないという彼が、“カミさん” だけは世の中で一番怖いと言った。その言葉の意味は、彷徨い続けた九州男児と待たせた女の物語の結末だったのだろうか。
「WANDERER」―― それは、30年くらい前、1987年7月8日にリリースされたシングル。
さて、2019年4月13日(土)、スポットライト新宿と Re:minder が都内で DJ イベントを打つという。題して
『博多ビートパレード~サンハウスからチェッカーズまで』、九州男児が世に放った強烈なビートロックの狭間で聴くチェッカーズの名曲たちは、僕たちの心に一体どのような響きを残すのだろうか…。
2019.04.11