3月7日
傷だらけのティアーズ・フォー・フィアーズと修道女になりたかった私
34
1
 
 この日何の日? 
ティアーズ・フォー・フィアーズのデビューアルバム「ザ・ハーティング」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます

 
 1983年のコラム 
鉛色の空と張りつめた空気感、スティーヴ・リリーホワイトと真冬の日本海

カバーはオリジナルを超えるか? 中島みゆきと吉田拓郎のファイト! 前篇

どれも名曲、サザンオールスターズが名曲を生み出すキーコード♪ ③

あくなき反骨精神、マドンナの知られざるパンク・スピリット

聴き比べ、クワイエット・ライオットの大ヒットはスレイドのカバー曲

ロックの世界へようこそ!すべては中野サンプラザから始まった

もっとみる≫

photo:UNIVERSAL MUSIC JAPAN  

1985年夏、私は高校を中退しようと思っていた。 “学校から、家から、世間から逃げ出したい” という気持ちでいっぱいだった。

そして、修道院に入るつもりだった。“修道女として暮らし、もう俗世間の人には誰とも会わず生きていこう” と強く思っていた。

その頃、ティアーズ・フォー・フィアーズ(TFF)のセカンドアルバム『シャウト(Songs from the Big Chair)』が世界中で大成功し、私も彼らの音楽に興味を持っていた。たまたま耳にした彼らの「ペイル・シェルター」という曲の美しさに、私の心はわしづかみにされた。

美しいアコースティックギターの音色と無機質なシンセサイザーのコンビネーションに、みずみずしく、繊細なメロディと歌声…

彼らのファーストアルバム『ザ・ハーティング』が発売されたのは今から35年前の1983年、その当時私はアイドルにしか興味がなかったので、そんなバンドがあることすら知らなかったはずだ。「ペイル・シェルター」が収録されていると知り、早速LPを購入した。

TFF の二人はいずれも両親が離婚しており、彼らのデビューアルバム『ザ・ハーティング』は、愛に飢えている心情を描いた「ペイル・シェルター」を始め、家庭環境に恵まれなかった彼らが幼少期に受けたトラウマをテーマに作られたという。また、彼らは「幼少時の抑制された感情を再現し、表現する」という「原初療法」を提唱する米国の心理学者、故アーサー・ヤノフに傾倒しており、“Tears for Fears” というバンド名も、「シャウト(Shout)」という曲のタイトルも、彼の理論をベースにしたとされている。

そこで、自分が抱えるものが、まさに「トラウマ」だったと気づいた。

“おお、同志よ…!”

と、「トラウマ」の存在を肯定する彼らに勝手な仲間意識を持って、私はその作品の中に、自分の精神的な居場所を見つけたのだ。

とはいえ物理的な居場所がないので、高校をやめて修道院に行こうと考えていたのだが、そこには大きな問題が3つ立ちはだかっていた。

1:私はクリスチャンではない。

2:修道院では夜中に『ベストヒットUSA』も『MTV』も見られないだろう。

3:ましてやライブに行くために外出などできないだろう。

今思えば非常にバカバカしいが、当時の自分にとっては非常に重要なことだったのである(特に2と3が)。

目星をつけていた修道院に関する記事を最近読んだのだが、そこで暮らす修道女の皆さんは、神に人生を捧げ、朝早くから晩まで一生懸命働き、祈っているという内容だった。

そのようなところを逃げ場にしようとしていたなんて、そんな考えでいた自分の浅はかさに腹が立つし、恥ずかしくてたまらない。世界中の修道女、修道士の皆さんに土下座して回りたいくらいだ。

とはいえ、TFF に傾倒したことから「自分の好きな音楽」の方向性が定まり、その辺から私は英国の音楽にズブズブとハマっていった。それが高じて英語を勉強したり、渡英したりと、自分の人生が自分の手によってどんどん変わっていくのを感じた。そのきっかけをくれたのは紛れもなく TFF だったのだ。

気づけば季節は冬。「高校中退→修道院」いう私の脳内プランも、気づいたらどこかへ消えていた。何故なら秋口に全校マラソン大会が終わっていたから―― 運動が苦手で足が遅い私は、小学生の頃から体育の時間にはいつも教師に怒られていたので、それが「トラウマ」になっていた。私のトラウマなんてその程度だ。

とにかく、私の修道女願望は、“退学すればマラソン大会を回避できる!” という、至極安易な発想から生まれたものに過ぎなかった。

今でも TFF の音楽を聴くたび、山道をヒィヒィ言いながら走らされていたあの頃がよみがえり、胸が苦しくなる。

2018.03.07
34
  YouTube / TearsForFearsVEVO


  YouTube / iasitu
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1968年生まれ
Polco
コラムリスト≫
47
1
9
8
9
ティアーズ・フォー・フィアーズ、UKロックの結晶的作品がコレだ!
カタリベ / 中川 肇
38
1
9
8
9
アダム&ジ・アンツからTFF経由でポール・マッカートニーへと繋がる道
カタリベ / 宮木 宣嗣
26
1
9
8
5
ティアーズ・フォー・フィアーズの憂い「誰もが世界を支配したがっている」
カタリベ / 宮井 章裕
13
1
9
9
7
時を止めるな!ビートルズ以降を鳴らそうとしたオアシスの世代
カタリベ / 浅井 克俊
24
1
9
8
4
UKインディシーンに舞い降りた天使の歌声~コクトー・ツインズ
カタリベ / DR.ENO
25
1
9
8
5
清涼感溢れるUKのフュージョンファンク、レベル42の夏向きヒットソング
カタリベ / DR.ENO
Re:minder - リマインダー