MTVが開局したのは、1981年8月1日のことである。最初に放映されたミュージックビデオがバグルスの「ラジオ・スターの悲劇(Video Killed The Radio Star)」だったというのは有名な話だが、この時、MTVが事実上の白人専用チャンネルだったことを、皆さんはご存知だろうか。
MTVは開局から最初の24時間に116曲分のビデオを延べ209回放映したが、62曲目に白人黒人混成バンドであるザ・スペシャルズの「ラット・レース」が流れるまで、非白人アーティストが画面に登場することはなかった(但し、バック・ミュージシャンとしては、3曲目に放映されたロッド・スチュワートの「ダンスは一人じゃ踊れない(She Won't Dance With Me)」で、ジャマイカ人ベーシストのフィル・チェンが演奏している)。
こうしてMTVで非白人アーティストの動画が普通に流れるようになったことは、冒頭に紹介した『Top 100 Videos Of The 80's』のランキングからも見て取れる。100曲の中にマイケル・ジャクソンが4曲、ホイットニー・ヒューストン、プリンス、ジャネット・ジャクソン2曲ずつ、他にも何人かの非白人アーティストの作品が1曲ずつ入っている。
1988年のMTV最優秀ビデオ賞(Video of the Year)作品。アルバム『Kick』に収録。元のビデオでは「ニード・ユー・トゥナイト」と「メディエイト」がメドレーで繋がっている。廃工場のような場所でメンバーが代わりばんこに単語の書かれたフリップを投げ捨てていく様が、まるでボブ・ディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」である。なお、途中に出てくる「981945」は、1945年8月9日、つまり長崎に原爆が投下された日を意味しているらしい。
1984年の最優秀グループビデオ賞(Best Group Video)作品。アルバム『イリミネイター』に収録。行く先々で嫌がらせを受けていた靴屋の女性店員が、謎の美女3人組の登場をきっかけにハッピーに転じるという、しょーもない内容のビデオだが、その馬鹿馬鹿しさに何故か中毒性がある。でも、僕のお気に入りは、動画の中に登場する “もふもふ” な毛皮に覆われたギターとベースだ。
【第5位】 ボン・ジョヴィ 「ウォンテッド・デッド・オア・アライヴ」
アルバム『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ(Slippery When Wet)』に収録。このビデオは、1986年から87年にかけて行われたワールドツアー “Slippery When Wet Tour” の記録映像である。リハーサルや移動中も含めて、彼らの巡業暮らしの様子を垣間見ることができるので、きっとファンにとっては、どれほど豪華な演出よりも嬉しいプレゼントに違いない。
【第4位】 デフ・レパード 「シュガー・オン・ミー(Pour Some Sugar On Me)」バージョン2
1986年のMTV最優秀ビデオ賞(Video of the Year)作品。アルバム『ブラザーズ・イン・アームス』に収録。87年に「MTV Europe(現:MTV Global)」が開局した際に最初に放映された楽曲にもかかわらず、実は歌詞の中でMTVに出ているスターたちを思いきり皮肉っている。かと思えば、後ろでスティングがポリス「高校教師(Don't Stand So Close To Me)」のメロディーに乗せて「I want my MTV」とコーラスしていたり、何だかよく解らない所が面白い。
【第2位】 ピーター・ガブリエル 「スレッジハンマー」
1987年のMTV最優秀ビデオ賞(Video of the Year)作品。アルバム『So』に収録。ビデオは、全編に渡ってピーター・ガブリエル本人をコマ撮りした映像をクレイアニメに繋ぎ合わせた形で作られているが、とんでもなく手が込んでいて頭が下がる。まさにMTV時代の傑作である。この前衛的・実験的な映像表現、面白さと気味悪さが同居する感じの世界観に触れてしまうと、彼がなぜジェネシスを脱退したのか、ちょっと解った気がする。