『裸の銃を持つ男』は、僕の大好きなコメディ映画シリーズの一つだ。「マジメな顔をしてバカなことをする」レスリー・ニールセン主演のこのシリーズは、素晴らしくバカバカしい。そのシリーズ第1作目、レスリーがヒロインのプリシラ・プレスリー(!)とデートをするシーンがある。僕はそのシーンのBGMが、ハーマンズ・ハーミッツの”I’m into something good”(邦題は『朝からゴキゲン』)と気付いた時、笑いを通り越して感動すらしてしまった。 1964年から66年にかけて、本国イギリスより特にアメリカでビートルズ以上の人気と売り上げを誇ったハーマンズ・ハーミッツ。メンバーは全員、フロントマンのピーター・ヌーンの引き立て役だ。ティーンエイジャーのアイドルとなるべく「作られた」バンドであり、売れる作曲家の売れる音楽を大量生産した流行のグループであった彼らの風化は早かった。 そんな彼らの大ヒット曲が、ピーター・ヌーン自身による「この映画のための」再録バージョンで挿入されているのだ。いわばこれは往年のティーンエイジ・アイドルの「自己パロディ」なのだ。なんという開き直り!自分のキャラクターを素直に受け入れる健全さ! ハーミッツの活躍したスウィンギング・ロンドンの時代とエイティーズは、どことなく似ているように思う。底にあるのは「売れてなんぼ」の精神だ。いわば「売れればなんでもいい」時代である。語弊があるならこう言い変えよう、「いいものが売れる」時代であったと。売れるいいものに対して、この二つの時代は明らかに素直だった。下手な理想よりも、純粋な娯楽こそ「正しい」のだ。 この曲はシングルカットされ(アメリカで19位のヒット)、PVまで制作された。そこにはレスリー自身も登場し、決して自虐的にならず陽気に歌うピーター・ヌーンの横でハチャメチャやっている。僕はそこに、二つの幸せな時代の姿が重なるのを見て、その奥深さに心を打たれたのだった。 裸の銃を持つ男 監督:デヴィッド・ザッカー 出演:レスリー・ニールセン, プリシラ・プレスリー, ジョージ・ケネディ, O.J.シンプソン 日本公開:1989年(昭和64年)4月1日
2016.04.18
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