2021年 9月1日

伊藤蘭の “今” を表現した「Beside You」アグレッシブに攻めた本気のソロ活動

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一世を風靡したアイドルグループ、キャンディーズ解散後の動き


9月1日、伊藤蘭のセカンドアルバム『Beside You』がリリースされた。

一見シンプルなニュースだけれど、このインフォメーションにさまざまな想いを抱く人も居るだろうと思う。

伊藤蘭は、もちろん70年代に一世を風靡したアイドルグループ、キャンディーズのランちゃんのこと。1978年4月にキャンディーズを解散。その後、大森一樹監督の映画『ヒポクラテスたち』(1980年)出演を皮切りに女優として活動をしてきたが、歌手活動は行ってこなかった。

キャンディーズのメンバーで、その後にいちばん早く歌手活動を行ったのは藤村美樹(ミキちゃん)で、1983年にシングル「夢・恋・人。」とアルバム『夢恋人』を発表している。

この時点で、伊藤蘭、田中好子の二人は女優として活動を再開していたが、藤村美樹は芸能界復帰はしておらず、これはあくまで期間限定の歌手活動だった。

藤村美樹(ミキちゃん)、田中好子(スーちゃん)の歌手活動


『夢恋人』は藤村美紀のアーティストとしてのクオリティの高さを示した魅力あふれるアルバムだった。全10曲中5曲を彼女自身が作曲しており、その他、細野晴臣が4曲、仲井戸麗市が1曲を提供。作詞は松本隆と松尾由紀夫が手掛け、編曲には細野晴臣の他、高橋幸宏、白井良明、大村憲司も参加している。

しかしこれ以降、藤村美樹は一切の芸能活動をしていない。

1984年には田中好子(スーちゃん)もシングル「カボシャール」とアルバム『好子』を出している。斎藤ノブ作曲の「カボシャール」は中森明菜あたりが歌っても似合いそうな、ちょっとアダルティなポップ歌謡で、『好子』も来生たかお、丸山圭子、馬飼野康二など、手練れのポップス系作家陣が名を連ねている。キャンディーズ時代には、田中好子自身も作詞・作曲も手掛けていたが、ここでは歌手に徹している。

伊藤蘭とほぼ同じ時期に女優活動をスタートさせていた田中好子だったが、歌手としてレコードリリースしたのはこの時だけだった。

ファーストソロアルバム「My Bouquet」音楽活動を再開した伊藤蘭


藤村美樹、田中好子が1980年代に音楽活動を行ったのに対して、ずっと音楽活動を行わずに来た伊藤蘭が2019年5月にファーストソロアルバム『My Bouquet』を発表した。なんとキャンディーズ解散からは41年の時が過ぎていた。

この音楽活動再開について、伊藤蘭は気負いを見せずにこう語っている。

「もう何十年も元気でいられるかというところに来ていますよね。だからといって尻込みせずに、出来そうなこと、楽しいことはやっていきたいと思います。挑戦みたいな感じですけど」

おそらくいままでの常識では、40年ものブランクを経てのソロデビューというのはあり得ない話だろう。しかも、ただでさえ活動期間が短いとされてきた女性シンガーがそれを実現させてしまったということは、実はかなり画期的なことだ。伊藤蘭のケースはかなり特殊かもしれない。それでも、彼女が自分のペースで活動できる新しい時代を切り拓こうとしていることは確かだと思う。

『My Bouquet』には11曲が収められており、作家陣として井上陽水、トータス松本、門あさみ、陣内大蔵、若田部誠、平井夏美など新旧のヒットメーカーが名を連ねており、伊藤蘭自身も4曲作詞を手掛けている。

『My Bouquet』は、今どきの大人が共感できる情感たっぷりのポップスアルバムとして好評を博し、6月には東京と大阪で彼女にとって初のソロライヴとなる『伊藤 蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019』を成功させた。翌2020年にも『伊藤 蘭 コンサート・ツアー2020~My Bouquet & My Dear Candies!~』が企画され、コロナ禍のために地方公演は中止となったが、東京公演(10月)は3回のステージが行われた。

セカンドアルバム「Beside you」で示した本気のソロ活動


2020年12月にシングル「恋するリボルバー」が配信リリースされた。そしてこの「恋するリボルバー」を先行シングルとするセカンドアルバム『Beside you』がリリースされたことで、伊藤蘭が、一過性のものとしてではなく本気でソロ活動を行っているのだという姿勢がはっきり示されたと言っていいのではないかとも思う。

『Beside you』は、前作『My Bouquet』の流れを受け継いた大人のテイストにあふれたポップアルバムだ。しかし、聴いてみると前作よりもアグレッシブというか、攻めたアルバムという印象がある。もちろんアダルティなバラードも魅力的なのだけれど、今どきの最先端の音楽動向もしっかり押さえた上で彼女なりの世界観を構築しているという感じがするのだ。

作曲家陣に多保孝一、IKEZO、japeといった新しい世代の作家を積極的に起用するなど、コンテンポラリーな音楽性を意識しているのも目につく。しかし、一方的に今のサウンドに寄せるのではなく、佐藤準、森俊之と言ったベテランを編曲に置いてしっかりバランスをとっている。

詞の面に注目すると、伊藤蘭自身も2曲の作詞を手掛けているが、森雪之丞、岩里祐穂など言葉の感覚に定評のあるベテランを起用するなど、詞の面からも “伊藤蘭の今” を表現するためのていねいな配慮がされていることが感じられる。

それぞれの世代に共感できる音楽が影響しあえる距離感をもったアルバム


もちろん『Beside you』は理屈抜きに楽しめるアルバムだ。とくに1970~80年代に青春時代を体験した世代には沁みるものがあるハズだ。けれど、これはけっして昔を懐かしむアルバムでも、キャンディーズ時代のオマージュでもない。誤解を恐れずに言えば、このアルバムが僕たちに教えてくれるのは、今の60代は1980年代の60代とはまったく違うということだ。

1980年代の60歳といえば戦争の時代に青春を過ごした世代であり、男性であれば実際に戦地に行っていた人も多いはずだ。そんな彼らにとって青春時代の音楽と言えば軍歌などの戦意高揚音楽であったり、戦後直後に流行った歌謡曲や米軍によってもたらされたジャズ、ハワイアンなどの洋楽であったろう。

つまりこの世代はロマンティックな音楽は知っていても、“激しく心をときめかせる青春の音楽” を体験せずに大人になった世代と言えるではないかと思う。だから、1980年代の若者にとって当時の60代はとは音楽的な価値観がまったく違う世代だった。

そう、2020年の60代はまさに1980年代に20代を過ごした世代だ。もっと言えば、ビートルズをリアルタイムで聴いていた世代が今の70代なのだから、当時の若者にとっての60代とはだいぶ状況が違う。音楽に関する世代間の距離は大幅に縮まっているのだ。

だから、1980年代であれば60代になって本格的に音楽活動を始めるということはなかなか考えにくかったと思う。けれど、今の60代にとって自分のペースで音楽活動を行うことはけっして不自然なことではない。

つまり、今はそれぞれの世代に共感できる音楽があって、同時にそれらの音楽同士が影響しあえる距離感で共存する時代… と言えるのではないだろうか。

『Beside you』の最後に収められているバラード「家路」(作詞:森雪之丞、作曲:布袋寅泰)を聴きながら、そんなことを思った。

特集 伊藤蘭!2ndアルバムリリース記念

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