5月21日

山口百恵の姉御シャウト「ロックンロール・ウィドウ」までの道のり

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photo:SonyMusic  

■私の「山口百恵」との出会い

私は75年生まれの割には、80年辺りからリアルタイムで覚えている曲が多いのだが、山口百恵に対する記憶は、リアルタイムではギリギリで、引退以降、テレビでよく流れた「懐かしの~」的な番組を見ての記憶の方が、恐らく強い。

彼女の歌を意識して聴くようになったのは、小学校高学年~中学生辺りで、レンタルレコード(CD)店に足繁く通うようになってからである。ベスト盤を借りて聴いていたので、その頃から、“最初の頃と引退間際では歌の上手さが全然違うな~” と思っていた。また、「さよならの向こう側」が好きで、カラオケで最後に歌うのにも持って来いの曲なので、よく歌ってきた。


■私の「ロックンロール・ウィドウ」との出会い

彼女が「さよならの向こう側」をファイナルコンサートで最後に歌い、マイクを置いたことはあまりにも有名だが、その直前のシングル、「ロックンロール・ウィドウ」のド迫力ヴォーカルには、聴くたびに度肝を抜かれる。

私が、この曲を意識して聴き込んだのは、現在に近く、2013年のことだった。私自身、ライブ活動をしており、その際にいつもテーマを決めて選曲している。6月9日。この日は「ロックの日」だったので、セットリストの1曲に、この「ロックンロール・ウィドウ」を選んだのだ。小中学時代とは違い、歌の訓練を続けてきた私の耳に飛び込んできた、彼女のヴォーカルの “すごさ” に、驚愕した。


■山口百恵の「ロックンロール・ウィドウ」までの道のり1 ~ デビューから「横須賀ストーリー」の直前まで

その “すごさ” を語る前に、それまでの彼女の歌唱力をたどってみる。以前に書いた中森明菜の時と同じく、その変遷を段階分けしてみた。今回は6段階。

①未完成期 ②成熟前夜期 ③成熟期 ④熟成前夜期 ⑤熟成期 ⑥超熟成期

この段階分けは完全なる個人見解だが、今回は最初に自分の耳だけで分析した後、制作ディレクター川瀬泰雄による著作『プレイバック制作ディレクター回想記』を入手できたため、“答え合わせ” をしてみた。

変化の時期や、各曲の歌に関する注目すべき点で、詳細の表現は違えど、大枠の一致を確認できたので、臆することなく、書かせていただく。

①未完成期
デビューのきっかけである『スター誕生!』では、審査員の阿久悠に「君は、青春スターの妹役みたいなものならいいけど、歌は… 諦めた方がいいかもしれないねぇ」と言われている。

確かに、デビュー曲「としごろ」から6曲目「ちっぽけな感傷」までの歌唱力は、下手ではないが、幼さが目立ち、上手いとは言えない。ちなみに、阿久悠の著書には、上記の発言に対する真意(言い訳?)が書かれており、この件に関しては、また別の機会に触れてみたい。

②成熟前夜期
最初の大きな変化は7枚目シングル「冬の色」で見られる。それまで、口の前方だけに響いていた歌声が、喉の奥から頭全体に響く歌唱法に変わりつつあるのだ。

この時点で、深い響きを出せる歌唱法としては変化の入り口だが、この曲のレコーディングの際、自ら、3パターンの違う歌い方を用意してきたと、彼女を担当していたプロデューサー酒井政利が自身の著作の中で語っている。この時、弱冠15歳。

③成熟期
10枚目シングル「ささやかな欲望」。この時点で※ミドルボイス(※詳細はこちらを参照)が獲得できていて、サビでは、中高音域での綺麗で声量のあるロングトーンが聴ける。

川瀬氏に、全てにおいて、細部の表現まで、既に “完璧” と言わしめている。14枚目シングル「赤い運命」では、より深い伸びやかなビブラート表現が出てくる。大人びた “聴かせる” 歌声に成長している。


■「ロックンロール・ウィドウ」までの道のり2 ~ 宇崎竜童・阿木燿子との出会い

④熟成前夜期
ここまでに既に14枚ものシングルを発売していたことに、今回驚いた。山口百恵と言えば、言うまでもなく、宇崎竜童・阿木燿子との出会いが大きい。大きいどころではなく、この出会いによって、生まれ変わった。

ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「涙のシークレット・ラブ」を聞いて鳥肌が立ったという、彼女の強い希望がきっかけで、宇崎・阿木コンビとの縁が始まった。彼女は、少女から大人の女性に成長する過程で、男性の作詞家目線で描かれた、少女心理の世界を歌う事に、ストレスを感じていたのだ。実際、阿木燿子の歌詞を、宇崎竜童によって歌われたデモテープを聴いた彼女は、「初めて自分の歌ができあがったと思った。」と言ったという。

宇崎竜童の得意な、こぶしが似合う和風ロックと出会ったことで、この曲から、“こぶし” や “しゃくり(実際の音より少し下から音を出し始める手法)” などの技術が身についている。ただ、この技術も、この運命の楽曲に出会う前に、14曲ものシングルを経て、歌唱力のベースができていたことで、成り立ったものだ。

まさに、タイミングである。歌手と作家との相性が、いかに、歌手を原石から宝石に光らせるか、楽曲を引き立たせるかを左右するということがわかる。しかし、それと同時に、彼女の歌への向上心と努力によって、この「横須賀ストーリー」(編曲:萩田光雄)という傑作が生まれたのだ。この時、まだ17歳。

⑤熟成期
「夢先案内人」では、その歌声にさらに色気が入ってくる。彼女には珍しいメジャーコードで、柔らかで幸せな世界観も完璧に表現している。♪ Wink and Kiss~ ♪ の色気がたまらない。その後の楽曲でも、宇崎・阿木コンビによる、ザ・山口百恵ワールドが広がり、細かな技術獲得が積み重ねられていく。

⑥超熟成期
B面曲ではあるのだが、「曼珠沙華」は外せない。ここから声の深みが最高潮に増してくる。元々同タイトルのアルバム収録曲であったが、あまりの出来の良さに「美・サイレント」のB面に収められることとなった。

川瀬氏も “百恵の最高傑作” と言い切っている。この曲の世界観を表す迫力がすごい。サビの声量はとにかく、圧巻。そして、声量があるのに、ピッチが安定していて、歌声にブレがない。理想的な呼吸法が確立されている。盛り上がる部分のロングトーンで、若干シャープ(#)するのがまたよい。


■「ロックンロール・ウィドウ」の姉御シャウト

ここで、ようやく「ロックンロール・ウィドウ」(阿木&宇崎&萩田チーム)の話に戻れる。この曲の歌唱力の “すごさ” は、ここに至るまでの、彼女の歌との真剣勝負が生んだもので、その過程抜きには語れないのである。

この時点で、総合的な表現力において、この上なく完璧な域に達している。声量がとにかくすごい。「プレイバックPart2」で身に着けた “ドス” も、各段に違う。巻き舌も出現、“ドス” に拍車がかかる。

そして、新たな武器として、「シャウト」が出てくる。聴き心地のいい「シャウト」というのも変な表現だが、歌唱力を兼ね備えた「シャウト」なので、聴いていて気持ちがいい。まさに、♪ シャウト “聴く” のがエクスタシー~ ♪ である。この時点では結婚経験すらないのに、“ウィドウ ”と思わせるほどの、21歳のド迫力の歌唱力、“ついていきます” と言いたくなる「シャウト」に『姉御シャウト』と名付けたい。


■山口百恵という職人

現代の10~20代のアイドルに比べ、昭和のアイドルは大人っぽいという印象があるが、山口百恵は際立っている。デビュー当初は見た目的には年相応の幼さもあるが、彼女が醸し出す大人びた雰囲気は、生い立ちから想像するに、大人にならざるを得なかったのだと思う。

私は、今回彼女の歌声を追って、10代の “女性” の成長・変化に感動せざるを得なかった。同時に、引退に向かって勢いを増していく、職人的な仕事ぶりに、様々な “覚悟” が滲み出ていて、切なくもあった。しかし、彼女の歌への情熱は、純粋に歌が好きだという思いもあったことに安堵した。

73年5月21日、「としごろ」で13歳にデビューし、翌シングル「青い果実」で、♪ あなたが望むなら 私何をされてもいいわ~ ♪ と歌っていた少女。その7年後、21歳の女性となり、80年の同じく5月21日、「ロックンロール・ウィドウ」で、♪ 私あなたのママじゃない~ ♪ とシャウトしているのだから、同性としては痛快であると同時に、覚悟を持った女性の変化には凄みがあると、同性ながら、恐れ入る。

引退後、表舞台には一切顔を出さず、伝説となった。主婦という職人になった彼女に復帰は望まないが、プライベートでは、夫の三浦友和や主婦仲間と一緒にカラオケに行き、自分の歌を歌うという話だから、個人的には、彼女の幸せな状態下にある現在の歌声も、聴けるものなら聴いてみたい。


おまけ
21歳の山口百恵の、“ウィドウ” 経験がないとは思えないド迫力歌唱には到底及ばないが、2013年当時37歳の、“ウィドウ” 経験がある私がカバーした「ロックンロール・ウィドウ」にご興味がある、稀少な方はこちらのリンクもどうぞ。


史実に関する引用・参考文献
*「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 夢を食った男たち(阿久悠 / 文春文庫)
* プレイバック 制作ディレクター回想記 音楽「山口百恵」全軌跡(川瀬泰雄 /学研プラス)
* 誰も書かなかった昭和スターの素顔(酒井政利 / 宝島SUGOI文庫)
* 蒼い時(山口百恵 / 集英社文庫)


2019.05.21
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カタリベ
1975年生まれ
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