3月8日

中森明菜の成長と変化、デビュー3年目「ミ・アモーレ」にみる歌声の魅力

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まずはアイドル、そしてアーティストへ


歌を歌う事を生業としている人の呼び名は、現代でも80年代でも、総称では “歌手(シンガー)” というのは共通の認識だと思う。

もっと大きく言えば、“ミュージシャン” という呼び名もあり、もう少しカテゴライズされた、以前からある呼び名としては、アイドル、演歌歌手、ロックシンガー、ポップスシンガー、ジャズシンガー、シンガーソングライター… といろいろとあるが、いつの頃からか、歌手に対して “アーティスト” という呼び名も定着している。

現代では、デビューの時点で既にその姿形や本人の認識でアイドルとアーティストと、自然に区別されて呼ばれる。その一方で80年代には、アイドルからアーティストへと、その “カタガキ” が移行する流れがあった――。

それは、カテゴリーとしての “横への動き” ではなく、“格” という意味合いで、上に上がるというイメージが強かったと思う。名称というよりは状態… という感じが近いだろうか。ただ、完全にそれに成功した例はそう多くはなく、成功した人には相当な努力があっただろうし、なんとかその方向にというよりは、むしろアイドルの肩書に誇りを持っている人が総合的な実力で、いつの間にかそうなっていたという感じがする。ここでは、その実力の一部、歌唱力・歌声に焦点を当てたいと思う。

中森明菜の成長変化率、類い稀なる歌唱力の変遷


現代の若いアーティストは、デビュー前に既に様々なレッスンを受けていたり、昭和の時代とは違い、洋邦問わず、湯水のごとく数えきれないほどの楽曲に簡単に触れ、耳にする事ができるため、デビューの時点で、ほぼ完成された状態で出てくる。これに対し、80年代のアイドルの多くは、デビュー前にある程度のレッスンを受けてはいても、未完成のままの状態でデビューしていた印象が強い。

当然、元々の素質やその後のトレーニングへの向き合い方によって、大きな差が出てくるわけだが、当時は発売した1曲に対して、今とは全く比べ物にならない頻度で歌の披露の場もある。そのため、デビュー時と数年経った時の歌唱力が大きく変わってくる。その筆頭に挙げられるのが、なんと言っても中森明菜である。

厳密に言うと歌唱力にもいろいろとあり、彼女の場合、“ピッチ(音程)” の面では少々危うい部分もあるのだが、それは別の機会に触れるとして、“成長変化率” については文句なしだ。

19歳の中森明菜、歌声に “柔らかさ” を感じる「ミ・アモーレ」


80年代のシングルA面に限って見てみよう。

デビュー曲「スローモーション」(1982年5月1日発売:16歳時)と、17枚目「TANGO NOIR」(1987年2月4日発売:21歳時)。この2曲を続けて聴くと、同一人物とはとても思えない。

私個人の見解だが、この「スローモーション」から「TANGO NOIR」まで、大きく分けると3回の変化が起きている。その段階は全部で4つの期間があり、仮に①未完成期 ②成熟前夜期 ③成熟期 ④熟成期… と呼ぶ事とする(その詳細は、また別の機会に)。

私が一番魅力的だと強く思う歌声は、③成熟期であり、シングルでは、1985年3月8日に発売され、彼女の代表曲のひとつである「ミ・アモーレ」(作詞:康珍化 作編曲:松岡直也)、明菜19歳の時の歌声だ。それ以前と比べると、細やかな音程の調節ができるようになったことで表現の丁寧さが増し、さらに、少女から女性への変貌期とも重なり、情感の表現の豊かさも増している。

その中に、“柔らかさ” を感じるのだが、この “ ” をつけたのがミソで、その後に続く④熟成期には感じられなくなってしまう。そういった、かわいらしさと色っぽさが、ちょうどいい具合にミックスされ、何とも言えない魅力があるのだ。例えて言えば、焼き立てのパンや卵焼きのような、ふわふわっとした、固まる直前… そう、完成の手前のような感触、または弾力と言ったところだろう(ちなみに、④熟成期では彼女の特徴である、低音の野太さや声量の迫力が増し、凄みが出てきて、別物の魅力になっていく)。

心地よい、柔らかで、伸びやかなロングトーンのビブラート


そして、モノマネでも強調され彼女の代名詞とも言えるロングトーンでのビブラート、波長の幅の大きな「ア~~~」。これは、歌詞の母音が「ア」でなかったとしても「ア」になるのが特徴なのだが、「ミ・アモーレ」のオリジナル音源では、サビの最後の「アモーレ」の「レ」の母音「エ」が、原型をしっかり留めていて、ビブラートの波長の幅もそこまで大きくないので、かわいらしさが残っていて、怖くない(笑… ただ、歌唱を重ねるうちに、年末のレコード大賞時には「ア」になっていくのだが)。よって、レコーディング時から、リリース後しばらくは、心地よい、柔らかで、伸びやかなロングトーンを堪能できる。

その魅力的な歌声は、B面の「ロンリー・ジャーニー」(作詞作曲:EPO 編曲:清水信之)にも顕著に現れている。個人的にはB面曲で一番好きな曲。楽曲のよさは言うまでもなく、ぜひ両面とも、この歌声に注目しながら、改めて聴いていただきたい。


あと歌声だけでなく、ジャケットも本当に綺麗でかわいい。デザインでは他のシングルにもお洒落で素敵なものはいくつかあるが、綺麗かわいさでは、シングルジャケットの中で1番だと思う。この翌月に発売されたアルバム『BITTER AND SWEET』(1985年)も同じ風合いのジャケットで、この時期、本当に最高の魅力を醸し出している。

このアルバム、中身も相当な傑作なので、これもまたの機会に触れたい。同年、近藤真彦と共演した映画『愛・旅立ち』が劇場公開されているが、そういったことも、この時期の彼女の魅力に反映されているのだろう。一ファンとしては複雑な気持ちではある。何しろ私は当時、小学生の女の子ながら、シングル、アルバムを全部制覇し、自分の部屋にパネルを飾るほどの大ファンであったから。

―― と、まぁ… そういった感情は置いておいて、これは以前から常々感じていた彼女の歌声の変化を、発売時から35年経過した現在、少々歌の勉強をしてきた者の一人として、客観的に彼女の声に向き合った上での見解です。それでも、まず最初に彼女を取り上げたかったのは、好みと思い入れが大きく影響していることは否定できません。あしからず。

聴く楽しみいろいろ、アーティストの成長や変化を追いながら…


私の個人的な大きな想い出として―― 小学5年生の時の林間学校。私は移動中のバスの中で、「ミ・アモーレ」を自らの意志で歌った。多分、音楽の授業以外で、人前で歌を披露した最初の経験だったと思う。ちなみに授業で、唱歌や合唱曲などで求められるような、まっすぐ歌う歌い方は、歌いづらいといつも思っていた。自分の声が低めで、教科書に載っている曲のキーと微妙に合わないのも、その理由のひとつだった。

今、思い出したが、バスの中で歌おうと思って手を挙げるまでの間と歌い始めはとても緊張していた。それなのに、なぜそこで「ミ・アモーレ」を自ら歌おうと思ったのか…。

幼稚園の頃から、『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』など、数々の音楽番組を観ていて、そこから流れてくる歌を口ずさむようになり、いつからか自分は歌うことが好きだと気づいた。そんな中、自分の低めのキーや、自分の中の陰(いん)の部分がシンクロして、中森明菜に引き寄せられていった。

一人自分の部屋でレコードに合わせて歌っているうちに、そんな気持ちが日に日に増し大きく膨らんだ。だから、家族ではない人前で、自分の歌をちゃんと聴いてもらいたいという欲求が生まれていたのだと思う。その時初めて自分の意志で選曲し、歌った歌で拍手喝采を受けた。「ミ・アモーレ」は、そんな大事な1曲。それは、少なからず、今も歌を歌っていることにつながっている。

そして、最後に… 最初から卓越した技術を持ったアーティストの歌を堪能する楽しみ方がある一方で、歌唱力の成長や歌声の変化を追いながら聴くのもまた、もうひとつの楽しみ方であると思う。今後も、その両面で曲を紹介していきたいと思っている。


※2019年3月8日に掲載された記事をアップデート

2020.07.13
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