6月21日

ハイクオリティ堀ちえみ!サブスク時代の今こそ評価されるべき「glory days」

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“花の82年組” のひとり、堀ちえみ


つくづくいい時代になったと思う。サブスクリプション(定額制音楽配信サービス)の普及によって、かつては入手困難だった音源に容易にアクセスできるようになったのだから。

最近の吉報はなんと言っても堀ちえみだろう。ビッグアイドルが名を連ねる “花の82年組” のひとりであり、ヒット曲は多数。名曲・名盤揃いと評価されながら、長いことアルバムの単体復刻(一部は実現)や配信がされていなかった。それが2月8日にポニーキャニオン時代の全音源がサブスク解禁された。「ついに!」と快哉を叫んだのは筆者だけではあるまい。

その堀ちえみは1982年3月のデビュー以来、シングルを年4作、アルバムを年2作のペースでコンスタントにリリース。本稿で取り上げる『glory days』は1986年6月21日の発売で9作目のオリジナルアルバムにあたる。当時の彼女はデビュー5年目の19歳。同時期に放送されていた主演ドラマ『花嫁衣裳は誰が着る』(フジテレビ系 / 1986年4月~10月)が最高視聴率18.5%(関東地区 / ビデオリサーチ調べ)を獲得するなど、女優としても目覚ましい活躍を示していた。

しかし、本人は歌一本で活動したかったようだ。その想いはどの時代のインタビューでも吐露していることだが、彼女を取り巻く環境がそれを許さず、結果的に1987年春の引退表明に繋がってしまう。その前年の1986年は相当な葛藤があったことは想像に難くない。ここからは本人のコメントを交えつつ、『glory days』を紹介したい。

“ちえみサウンド” の確立を目指した「glory days」


「確実に “ちえみサウンド” というものを築いていきたい。それが当面の目標です」
「初期の頃のイメージって、まだ強いと思うんですよね。いつまでもそれじゃないから、自分なりの詞の世界、曲の世界を確立したいんです」

ともに『オリコンWEEKLY』1986年4月14日号における発言である。音楽活動に対する並々ならぬ意欲が伝わってくるが、それもそのはず。当時の音楽シーンは前年に登場したおニャン子クラブが大ブームを巻き起こす一方、84年組の菊池桃子、岡田有希子、荻野目洋子、85年組の斉藤由貴、中山美穂、本田美奈子.、南野陽子らが続々とトップ10ヒットを放つなど、堀の後輩にあたる女性アイドルがひしめいていた。

今と違って「アイドルは期間限定」が常識だった当時(松田聖子が結婚・出産を経て “ママドル” として活躍を始めるのは1987年のことである)、彼女が「いつまでもこのままではいられない」と考えたのは至極当然。2005年に発売されたカバーアルバム『80’s IDOL SONG COLLECTION』のブックレットでは「アイドルというポジションからアーティストに成長したいという焦り」があったと、その頃の心境を綴っている。

アイドルからアーティストへの脱皮――。それは多くの82年組が直面していた課題でもあった。ちなみに同時期の松本伊代は林哲司作曲の “恋愛三部作”(1986~1987年)で、早見優は気鋭の男性ミュージシャンたちとコラボしたアルバム『SHADOWS OF THE KNIGHT』(1986年)で、石川秀美はロンドン録音盤『PASTICHE』(1986年)で、それぞれ新機軸を打ち出している。

とはいえ堀ちえみの場合は「5年目を迎えて急に」ではなく、デビュー以来、漸次新しい路線を開拓していた。それは彼女のプロデューサーだった渡辺有三の方針であった。『歌謡曲 名曲名盤ガイド1980’s』(2006年 / ウルトラヴァイヴ)のインタビューで渡辺はこう答えている。

「新しいオリジナリティのあることを立ち上げようといつも考えていました」
「僕は大体3部作シリーズです。3作でやりたいことが完結する。アルバムも含めて、それでひと区切り。次に狙ったコンセプトに進んでいきました」

確かに、金井夕子の尾崎亜美3部作と筒美京平3部作、岩崎良美のヨーロッパ3部作、岡田有希子の竹内まりや3部作など、渡辺がプロデュースしたアイドルには3部作が多い。堀ちえみに関しても、キラキラした少女性を訴求した1年目の3作(「潮風の少女」「真夏の少女」「待ちぼうけ」)や、岩里祐穂(作詞)・岩里未央(作曲)による2年目の3作(「さよならの物語」「夏色のダイアリー」「青い夏のエピローグ」)がそれに該当すると言えるだろう。

だが、そのあとはシングルもアルバムも1〜2作ごとに曲調を替えて堀の成長を促していく。1984年以降は作家にロック系ミュージシャンを起用することが増え、テクノやニューウェイブにも挑戦。アルバムでは全編曲をひとりのアレンジャーに任せることでサウンド面の統一が図られた。チャレンジの連続で、歌う堀は大変だったと思うが、それに応えられる情熱とポテンシャルがあると見込まれたからこそのディレクションだったに違いない。

過去の成功や前例に捉われず、常に新しいことを追い求める。そんな “渡辺流” の1つの到達点が『glory days』だった。筆者はそう考えている。実際、作家陣を見ると、作詞が佐伯健三(現・サエキけんぞう)、竹花いち子、神沢礼江、三浦徳子、佐藤ありす、売野雅勇、作曲はタケカワユキヒデ、宮城伸一郎、三谷泰弘、矢島マキ、木下伸司、白井良明、鈴木慶一、町支寛二という、アイドルポップスとは縁遠かったクリエイターが中心。彼らが提供した「海」「夏」「バカンス」をテーマにした作品群を、全編曲を手がけたLight house project(ギタリストの矢島賢、キーボーディストの矢島マキ夫妻らによる編曲プロジェクト)が、10代の歌手の楽曲とは思えぬ「切なさ」や「痛み」「気怠さ」「ノスタルジー」などを感じさせるサウンドでまとめ上げている。

当時最先端のデジタルシンセサイザー「フェアライトCMI」を導入した矢島夫妻は河合奈保子のアルバム『さよなら物語』(1984年)でも全編曲を担当していたが、堀ちえみプロジェクトには先行シングル「ジャックナイフの夏」(1986年4月)から参加。無機質なシンセサウンドに、自ら演奏するギターやキーボード、そして木戸泰弘(現・木戸やすひろ)、比山清(現・比山貴咏史)らによるエモーショナルなコーラスをダビングすることで、新しいエレクトロポップを創出した。



打ち込み主体のサウンドと堀のボーカルの絶妙なマッチング


しかしこの新路線、歌入れでは相当な苦労があったようだ。前出の『オリコンWEEKLY』で、堀は「ジャックナイフの夏」について「3連の16ビートで強弱がハッキリしている。(中略)不思議な魅力を持った名曲ですが、歌うのが難しくて、初めてレコーディングで悔し泣きをしました」と述懐。歌詞についても「くるおしさ」などのフレーズに驚き、「自分もオトナの詞を歌うようになったんだ」とコメントしている。

デビューしたときはミドルテンポの王道ポップスで「女の子は 夢みているのよ」と歌っていた健気な少女が、わずか4年で16ビートに乗せた官能的な詞も歌いこなすようになる。その音楽的な進化こそが80年代ソロアイドルの醍醐味といえるが、『glory days』にはほかにもサンバ調のマイナーアップテンポ「太陽No.1」、矢島のギターソロが冴える「波の中のフューチャー」、レトロなスウィング調の「ルージュの海」、恋の駆け引きをツイストに乗せた「BABY OIL BABY」、浮遊感のあるサウンドと内省的な詞がマッチした「胸にブラインド」、リズミカルなギターポップの「夢色バルーン」、のちの渡辺美奈代作品にも通じる鈴木慶一作曲のオールディーズ風「Follow You-ケンカしても-」と「夕焼けはひとりぼっち」、アルバムを締めくくる珠玉のバラード「恋のための練習曲」…… と、それまでの堀ちえみになかったタイプの楽曲が並ぶ。

本作の聴きどころは打ち込み主体のサウンドと堀のボーカルの絶妙なマッチングに尽きるだろう。この時期、顕著となったハスキーボイスで、ときにセクシーに囁き、ときにハードに歌い上げるメリハリの効いた歌声を聴かせる堀は、先ほど述べた「切なさ」「気怠さ」といった世界観を余すところなく表現。タイトルの『glory days』は「現在よりもよかった過ぎ去りし日々」を偲ぶときに使う慣用句だが、19歳にして失恋の痛みや、過去の恋の追憶や回想まで歌いこなせるシンガーになったことを実証した。

但し、少々先を急ぎ過ぎたのか、セールス面では芳しい成果を得られなかった。デビュー当時のあどけないちえみちゃんにハートを撃ち抜かれた男子たちは、急速に大人になっていく彼女に戸惑いもあったかもしれない。作品のクオリティと商業的な成功が必ずしも結びつかないのは世の習いで、本作はオリコン最高29位にとどまった。

堀ちえみプロジェクトの進取の気性


そのためあまり語られることがなかったわけだが、このたびのサブスク解禁で誰でも聴けるようになったことは喜ばしい限り。今ならリリース時における時代性や商品力など関係なく、純粋に音楽性だけで評価されるに違いないからだ。当時は聴き逃したという方も、まだ生まれていなかったという世代も、この機会にファーストアルバム『少女』から順を追って耳を傾けていただきたい。そうすれば、リスクを恐れず1作ごとに新たなフィールドを開拓していた堀ちえみプロジェクトの進取の気性と、令和の今も色褪せないクオリティの高さを実感してもらえるはずだ。

なお、2月8日に発売された『堀ちえみ 40周年アニバーサリー CD / DVD-BOX』では、本作のボーナストラックとして、アルバム未収録のシングル曲や、シングルA面のオリジナルカラオケの計8トラックが収録されている。やはりLight house projectがアレンジを手がけたGS調の「夏咲き娘」(1986年7月 / 19thシングル)、尾崎亜美が書き下ろしたメジャーコードの「素敵な休日」(1986年10月 / 20thシングル)のほか、テクノ系ビート歌謡の「助手席からI LOVE YOU」(「素敵な休日」C/W)など、多彩な楽曲が収められているので、パッケージ派の方は是非こちらでお楽しみいただきたい。




ーー 堀ちえみ全オリジナルアルバム、ストリーミング配信がスタート!
アルバムアーティストとして、高いクオリティのアルバムを発表し続けた堀ちえみ80年代の軌跡をこの機会に存分に楽しんでみては。


特集:堀ちえみ 40周年アニバーサリー

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2023.02.18
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濱口英樹
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