2022年 5月25日

佐野元春「名盤ライブ SOMEDAY」みんな生き抜いてきた40年のヒストリー

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佐野元春の映像作品「名盤ライブ SOMEDAY」がリリースされた日
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アーティストとして広く認知されたアルバム「SOMEDAY」


2022年5月25日、佐野元春の『名盤ライブ「SOMEDAY」』が発売となった。これは2013年11月に東京と大阪で開催されたアルバム『SOMEDAY』の完全再現ライブのブルーレイ映像作品で、11月16日に東京・Zepp DiverCity Tokyoでのライブが収録されている。

1982年5月に発表された佐野元春のサードアルバム『SOMEDAY』は、彼がアーティストとして広く認知されることになった作品だ。しかし、アルバム・リリースから30年あまり後にこのアルバムに特化したライブが行われるということはそうそうあることではない。そして、さらにそれから10年近く経って映像作品化されるという事実だけでも、このアルバムが日本のポップスヒストリーのなかできわめて “重要な作品” だということはわかるだろう。

佐野元春がデビューした1980年は新人ラッシュの年だった。主なところだけでも、シャネルズ、HOUND DOG、村下孝蔵、ルースターズ、子供ばんど、山下久美子、ジューシィ・フルーツ、EPO、葛城ユキなど、80年代の音楽シーンに大きな足跡を残しているアーティストがたくさんいる。アイドルシーンにまで目を向ければ、松田聖子、河合奈保子、岩崎良美、柏原よしえなど、こちらも錚々たる顔ぶれがデビューしている。

佐野元春も、こうした新人ラッシュのなかにいた。デビューシングル「アンジェリーナ」、そしてアルバム『BACK TO THE STREET』は、疾走感のあるロックビートの中に、都会で生きる若者の感性が鋭く、しかし繊細な手触りで描かれた作品だった。僕自身、デビュー時に彼の音源だけでなくパフォーマンスも観ているけれど、どこか屈折感を漂わせながらも、自分の世界を貫いていこうとする強いエネルギーを感じたことを覚えている。

しかしこれらの作品は、セールス的には芳しい結果を残すことにはならなかった。その志や音楽性には卓越したものがあったけれど、“時代” のテンションとはまだシンクロし切れていないという気もした。

佐野元春と伊藤銀次による “時代” とのチューニング


1980年10月に発表されたセカンドシングル「ガラスのジェネレーション」、そしてアルバム『Heart Beat』(1981年2月)は、まさに “時代” とのチューニング作業ともいえる作品だったのではないかと思う。自らプロデュースを行うと共に、伊藤銀次をパートナーに迎えてサウンドに磨きをかけていった。

1981年6月に4枚目のシングルとしてリリースされた「SOMEDAY」は、佐野元春と伊藤銀次による “時代” とのチューニング作業がツボを捉えたことを示す作品だったと思う。

この曲は、もともと『Heart Beat』のためにつくられたものだという。しかし、手直しがあったためにアルバムには間に合わず、単独のシングルとして発表されている。

またまた個人的な話になるけれど、僕は初めて「SOMEDAY」を聴いて「来た!」と思った。

それまでの佐野元春の楽曲は、文句なくカッコ良いし、彼がリスペクトしているロックのテイストやビジョンはイメージできるのだけれど、同時にどこか観念的な匂いも感じられた。けれど「SOMEDAY」から伝わって来たのは、理屈抜きに完成のスイートスポットを突いてくるロマンティシズムだった。早い話、一発でやられたのだ。

もちろん、ウォール・オブ・サウンドの手法を取り入れたり、60’sポップスのテイストを効果的に引用したサウンドづくりも特筆すべきものだったが、なによりも佐野元春が、自分の音楽をアメリカン・ポップスの文脈の中に明確に位置づけたこと、それも単に形式だけではなく、ていねいに磨かれたサウンドと、彼の声の魅力を最大限に引き出したヴォーカルの相乗効果によって、ポップスとしてのトキメキのテイストをしっかりとレコードに刻み込んだことが、「SOMEDAY」を特別な曲にしたのだと思う。

実はシングルリリースされた「SOMEDAY」もヒット曲にはならなかった。しかし、セールス面とは別な所で、この曲が認められていた。

ちょうど同じ頃、大滝詠一は、1976年に発表した山下達郎、伊藤銀次とのコラボレーションアルバム『ナイアガラ・トライアングル Vol.1』の続編を企画しており、コラボレーションの相手を探していた。山下、伊藤よりも若い世代で、大滝詠一と違和感なくクロスできる音楽性の持ち主であること、という条件に合う候補者探しは難航していた。

そこに登場したのが「SOMEDAY」だったこの曲を聴いた大滝詠一のスタッフが、実際に佐野元春のライブを観に行き、参加を要請することを決めたという。

佐野元春初のヒットアルバム


佐野元春、そして杉真理が参加した『ナイアガラ・トライアングルVol.2』は1982年3月にリリースされ、約50万枚を売れ上げるヒットアルバムとなった。

そして、この『ナイアガラ・トライアングルVol.2』と並行して制作された佐野元春のサードアルバム『SOMEDAY』が5月に発売され、彼にとって初のヒットアルバムとなった。

『SOMEDAY』は佐野元春というアーティストの “想い” を、80年代前半という “時代の空気感” にフィットさせた完成度の高い音楽作品だ。もう少し補足するなら、多くのリスナーは、『ナイアガラ・トライアングルVol.2』によって、大滝詠一がその作品群を通じて展開してきたポップ・ミュージックの体系と通じる音楽家として、佐野元春を “発見” し、彼の音楽作品を理解し、受け入れる姿勢ができたのだ、とも言えるんじゃないかと思う。

その意味で、『SOMEDAY』は佐野元春にとって、新たな出発を意味する作品ではなく、デビューアルバム『BACK TO THE STREET』から始まる音楽アプローチを “成熟した形で示す作品” なのだと思う。

『SOMEDAY』には、「SOMEDAY」以外にも、「ダウンタウンボーイ」「ロックンロール・ナイト」その後も佐野元春のライブの定番となる楽曲も多い。そしてこれらの曲を引っ提げて、彼は全国40か所のライブツアーを成功させ “佐野元春のパフォーマンススタイル” を確立させる。

そして、ツアー終了直後の1983年5月に佐野元春は単身渡米。約1年間のニューヨーク生活を通じて、自分にとっての音楽の意味、そしてコンテンポラリーな表現技法を見直し、ニューヨークレコーディングによるアルバム『VISITORS』(1984年5月)を発表し、新たな活動のステップに入っていく。

これは憶測だけれど、2013年11月に行われた『SOMEDAY』完全再現ライブには、もちろんファンサービスという側面もあるとは思うが、その一方で還暦という人生の節目が視界に入るようになった佐野元春が、活動の原点というか初期における到達点を再確認することで、ここから先の進路を見出す意味もあったのではないかという気がする。

それまでの代表曲を総花的に振り返るのではなく、一枚のアルバムに絞ってその楽曲を曲順通りに演奏する。そのことによって、逆に佐野元春というアーティストの歴史がリアルに見えてくるのではないだろうか。

配信時代のリスナーに問いかける “アルバム” の可能性


発表したアルバムの全曲を曲順通りに再現するというライブが行われたのはこれが初めてではない。たとえば、Mr.Childrenは1996~97年のツアーでアルバム『深海』(1996年6月)の全曲を曲順に演奏している。ただしこの時は他の曲も演奏され、ライブの中のコーナーと言う形だった。最近ではももいろクローバーZも、アルバムをテーマとしたライブでは全曲を曲順に演奏するスタイルをとっている。

しかし、こうしたライブが行われるのは、けっして奇を衒った話題づくりのためではないだろう。佐野元春の『SOMEDAY』完全再現ライブには、佐野元春自身にとっての現在位置の確認とともに、配信時代のリスナーに改めてアルバムという表現形態の意味を問いかける、という意図もあったのではないだろうか。

佐野元春は、その作品において、ボップミュージックだけでなく、ポエット、アートなど、多角的 “表現” の可能性にもアプローチしてきた。その同じ姿勢で、レコード、CDなどのメディアが衰退し、トータルアルバム、コンセプトアルバムという表現形態が忘れ去られようとしている “時代” に、あえてその可能性を問いかけているのではないか。そんな気がしてならない。

『佐野元春 名盤ライブ「SOMEDAY」』は、2013年という時点で佐野元春が発信したメッセージ、さらには1983年に発信したメッセージを今に届けてくれる作品だ。佐野元春の初期を彩ったTHE HEARTLANDと90年代以降の彼の音楽を支えたThe Hobo King Bandが合体した豪華な11人のメンバーによるグルーヴあふれる演奏、そして佐野元春の味わいあふれる歌からは、このライブを必要以上に大袈裟に構えるのではなく、80年代から今までをそれぞれの場で闘ってきた仲間たちの再会を喜び、限られた時間であっても、あの時代のテイストをリスナーとともに楽しもうという想いが伝わってくる。そして、アンコールとして演奏される3曲が、すべて『ナイアガラ・トライアングルVol.2』の佐野元春の楽曲だというところにも、このライブへの想いが感じられる。

だから、この映像作品を視る側も、別に構える必要はない。何の飾りも無いステージで繰り広げられる、ゴージャスな音楽を観客の一人となって楽しめばいいのだ。しかし、『SOMEDAY』の世界をどっぷりと味わいながらも、その演奏の中からごく自然に、“時代” と対峙し続けてきた彼らの不屈の “スピリット” を受け取ることができるハズだ。

そして、同時にそれはあなたの今日までのヒストリーと、どこかで重なっているかもしれない。

アルバム「SOMEDAY」リリース40周年☆特集 Early Days 佐野元春

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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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