大学3年生の夏休み、男も女もひっくるめて仲のいいクラスメイト10人くらいと、伊豆でプール付きの貸し別荘を借りて数日を過ごしたことがある。
何をしていたのかほとんど記憶に残っていないから、たぶん食料の買い物以外どこにもでかけず、ただ飲んで食ってプールサイドで寝そべっていただけなのだろう。それ以降、プール付きの貸し別荘など使ったこともないから、今思えば優雅な大学生活だったに違いない。まだバブルは始まってもいなかったが、ある意味、バブル期の名コピー「くうねるあそぶ」よりも悠長に、「くうねるのんだくれる」くらいのことしかしていなかったのだ、きっと。
でも、その曖昧な記憶のなか、はっきりと覚えていることがひとつだけある。
別荘に集まった友だちのなかに、八重歯がかわいくて笑うとちょっと松田聖子に似てる女子がいて、プールサイドで缶ビールを飲みながらぼくは彼女と話してた。友だちという以上の好意をぼくは持っていたから、きっと多少はときめいていたはずだが、何を話してたかは覚えていない。
もちろん口説いていたわけでもない。ただ、その「時間」がしあわせだったことを覚えているのだ。誰かが持ってきたラジカセから大滝詠一の「スピーチ・バルーン」が聴こえてた。
ぼくらの間では『A LONG VACATION』の人気は凄まじかった。一瞬で空気がきらめくサウンドの素晴らしさはもちろん、松本隆さんの詞も、ジャケットに使われた永井博さんのイラストも、大滝詠一さんのボーカルも、その頃のぼくらのどこかドリーミーな気分にジャストフィットしたのだ。
ぼくのなかでは、その伊豆の記憶のテーマソングのようになっている「スピーチ・バルーン」が実は切ない歌だということも、当時はそんなにわかっていなかったかもしれない。
2016.04.02
YouTube / kame3ch 2
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