2022年 5月25日

平山みき・橋本淳・筒美京平「Jazz伯母さん」粋な東京人トライアングル

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未発表曲をレコーディング、橋本淳・筒美京平コンビの新曲


うれしい。私が敬愛する橋本淳・筒美京平コンビの “新曲” が、それも平山みきのニューシングルとして聴けるなんて。

橋本・筒美コンビは過去、平山に43曲を提供。5月25日、配信シングルとしてリリースされた「Jazz伯母さん」は44曲目、9年ぶりのニューシングルとなる。一昨年、筒美は逝去。本来ならもう新譜は出ないはずだが、“未発表曲をレコーディング” という奧の手があった。

“新曲” といっても、実は15年前に書かれた曲で、平山は「先生、ジャズっぽい歌が歌いたい」と筒美に “おねだり”。そのたっての望みを聞き入れて筒美が書き下ろしたのである。平山はライヴで、たびたびこの曲を歌唱。ただしレコーディングはされないままだった。

リリース情報によると、平山は筒美が亡くなったのを機に、「この曲をきちんと音源として残したい」と要望、レコーディングが行われた。当初のボサノヴァ風のアレンジをジャズアレンジに変更。歌詞も、舞台をアメリカの地方都市から三軒茶屋に書き変えた、とのこと。

さっそく聴いてみた。イイ! なにより本人が「Jazz伯母さん」になりきってノリノリで歌っているし、平山の独特の声が際立つような“見せ場”を筒美が随所に作っていて、平山も「もう、先生ったら、ニクらしいほどわかってるんだから~」とばかりに “クセ全開” で熱唱。それが絶妙なアクセントになっているのだ。

舞台は東京・三軒茶屋、平山みきが歌う「Jazz伯母さん」


歌詞もステキだ。

 Jazz伯母さんは時間通りよ
 三軒茶屋を今出たところ

 Jazz伯母さんはバスが好き
 隣の客とお喋りしてる

…… 冒頭のこの下りだけでもう、“Jazz伯母さんのキャラクター” がパッと頭に浮かんでくる。しっかり者で、バイタリティ溢れる、人なつっこいご婦人。

「おばさん」じゃなく「伯母さん」なのが、また品があっていい。

 パパの写真に話しかけ
 元気をもらって飛び出すわ

… とあるので、おそらく夫に先立たれたのだろう。だけど独りでも淋しくなんかない。なぜなら、

 三軒茶屋は生まれたところ
 お隣さんに恵まれてるの

世田谷区って、けっこう “人情の街” だったりする。そういえば、東急田園都市線の三軒茶屋の2駅隣・桜新町は “サザエさんの街” として有名だ。ちなみにサザエさんのテーマ曲は、筒美京平作品である。

手作りドレスを着てバスで都心に向かい、ジャズをスイングしながら、パスタランチを楽しみ、東京タワーに登るJazz伯母さん…… 粋だなぁ。江戸っ子とはまたちょっと違う “東京人”。実は橋本・筒美コンビも東京人なのだ。

筒美・橋本の秘蔵っ子、平山みき


二人とも旧・東京市牛込区の出身で、青山学院大学の先輩・後輩。筒美は幼少時からピアノを習い、橋本は童話作家の息子として生まれた。どちらも “いいとこの子” だ。だから二人が書く曲はつねに洗練されていてオシャレだし、粋なのである。

で、二人の “秘蔵っ子” としてデビューした平山みきもまた、東京・大田区出身だったりする。そう、このトリオは “東京人トライアングル” なのだ。

平山はもともと、ナベプロが直営していた銀座のライヴハウス「メイツ」で専属歌手として歌っていた。そこで日本コロムビアのディレクターの目に留まり、「メイツ」の専属を辞めたあと、彼の紹介で橋本・筒美コンビのもとへ連れて行かれる。

筒美は、平山の強烈なハスキーボイスに惹かれ「これから毎日事務所に来なさい」と言い渡し、連日レッスンを施した。平山が最初に所属した事務所が、橋本・筒美が運営する「宝島音楽事務所」。三人にはそんな深い縁がある。

“粋”な精神は決して忘れない


思うに、筒美が平山を愛弟子として可愛がったのは、単に声の魅力だけではなく「東京生まれ・東京育ち」というバックボーンも大きかったような気がする。「彼女なら、都会を舞台にした曲を新しい感覚で歌いこなせるんじゃないか」とピンと来たのだろう。黒っぽいフィーリングの野心的な曲をどんどん書き下ろしていった。

橋本も同じことを感じたからこそ、「ブルー・ライト・ヨコハマ」の姉妹曲にあたるデビュー曲「ビューティフル・ヨコハマ」を書き、続いて大ヒット曲「真夏の出来事」を書いた。どちらの主人公も、都会を漂い、恋をし、自分の生きたいように生きる女の子。これまでの歌謡曲になかった女性像だ。

そんな奔放な女性が、やがて結婚。年を重ね、地元・三軒茶屋で心温まるご近所付き合いをしながらも、かつて遊び歩いていたときの“粋”な精神は決して忘れない…… それが「Jazz伯母さん」なんじゃないか。


筒美京平、橋本淳、平山三紀のメモリアルアルバムもリリース




カップリング曲「ラスト・ラブ・ソング」も、

 この命追いつめて奪うつもりなら
 眼をつむり引き金を私は引くわよ

なんて挑発的な歌詞が出て来る、一筋縄では行かないラヴソングだ。この2曲、決して過去に書かれた曲ではない。まさに“今の曲”なのだ。

新曲リリースと同時に、過去、橋本・筒美コンビが平山に書き下ろした曲を集めたメモリアルアルバム『トライアングル 筒美京平☆橋本淳☆平山三紀 3人の絆』(新曲2曲も収録)と、配信アルバム『平山三紀 コロムビア・イヤーズ』がリリースされるのもうれしい限りだ。

改めて思う。歌手・平山みきが現役で“粋”に歌い続ける限り、筒美京平もまた、生き続けているのだと。

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2022.05.30
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カタリベ
1967年生まれ
チャッピー加藤
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