7月13日

鬼気迫るパフォーマンス、ミック・ジャガーの凄まじいエネルギー

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photo:YouTube  

僕にとって『ライヴエイド』のハイライトは、間違いなくミック・ジャガーだった。「ロンリー・アット・ザ・トップ」のイントロが鳴り響き、ミックが歌い出した瞬間、エネルギーの塊に突き飛ばされた気がした。怒り狂うように歌うミックの存在感は圧倒的で、僕は強いショックを受けた。

まさに別格。凄いとは聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。不敵な笑みを浮かべるミック・ジャガーに、僕は安易に近寄れない怖さと、人を惹きつけてやまない魅力を同時に感じたのだった。

このパフォーマンスの5ヶ月ほど前、ミックは初のソロアルバム『シーズ・ザ・ボス』をリリースしている。ミックとしてもかなり気合いを入れて作った作品で、曲はどれも粒揃いだし、サウンドは緻密に構築されていた。

ビル・ラズウェルとナイル・ロジャースをプロデューサーに迎え、ジェフ・ベックが全面的にギターで参加するなど話題性も申し分なかった。なによりミックのヴォーカルが素晴らしかった。勢いがあり、常時ハイテンションを貫いていた。

「ロンリー・アット・ザ・トップ」は、アルバムのオープニングを飾るナンバーだ。元々はストーンズのアルバム用にキース・リチャーズと共作した曲で、1979年にレコーディングを試みたが、完成せずにお蔵入りとなっていた。

ストーンズのヴァージョンは全体的にルーズな印象だが、ミックはダンサブルなビートを効かせ尖鋭的な曲に仕上げている。アルバムの中でも、とりわけ魅力的な1曲と言えるだろう。しかし、『ライヴエイド』でのパフォーマンスは、そのスタジオヴァージョンを遥かに凌駕していた。あの凄まじいエネルギーは一体なんだったのだろうか?

あの夜、ミックのステージの後に、ボブ・ディランがアコースティックギターの弾き語りを披露している。そのときバックを務めたのが、ストーンズのバンドメイトであるキース・リチャーズとロン・ウッドだった。今にして思えば、あれは象徴的なシーンだった。ストーンズのメンバーが同じ場所にいながら、別々に演奏したのだ。その背景には、当時のミックとキースの不仲が関係していた。それも、これまでにないほどのレベルでこじれていたらしい。

ミックが『シーズ・ザ・ボス』をリリースした直後に、ストーンズはニューアルバム『ダーティ・ワーク』のレコーディングを開始している。ミックとしては、ソロアルバムを出したばかりなのに自由がきかないことに不満を感じていたようだが、キースにしてみれば、ミックのソロ活動のせいでストーンズの活動がずっとストップしていたことに苛立っていた。他にも長年積み重なった鬱憤があったであろうことは想像に難くない。

『ライヴエイド』の主催者であるボブ・ゲルドフは、当然のことながらローリング・ストーンズとしての出演をオファーしたはずだ。しかし、そうならなかったのは、ミックとキースがとても一緒に演奏できる状況ではなかったことを示唆していた。

そうした状況下での、あの鬼気迫るパフォーマンスである。おそらく、ミックはストーンズなしでもやっていけることを証明しようとしたのだと思う。そこには、満足なソロ活動ができないことや、気乗りしないレコーディングに対する、メンバーへのあてつけも込められていたことだろう。

この時ミックがストーンズを抜けたがっていたとまでは思わないが、改めて自分の実力を世界に知らしめようとしていたのだとは思う。結果的に、『シーズ・ザ・ボス』はプラチナディスクを獲得するヒットとなったが、おそらくミックが期待していたほどは売れなかったし、メディアの評価も今ひとつだった。

「ストーンズの方がいい」、「ミック・ジャガーにああいう音は求めていない」、そんな記事をいくつも目にした。中にはひどい言葉でこきおろしているものもあった。そこまでいくと作品の質に対する評価というよりは、好みの問題のようにも思えた。

ただ、ひとつだけはっきりしたのは、多くのファンにとって、ミックは「ローリング・ストーンズのミック・ジャガー」なのであって、ソロアーティストではないという事実だった。

それでも、あの夜にミックが見せたパフォーマンスを僕は忘れることができない。エゴでもなんでも構わない。全身のエネルギーを集中し叩き付けるようにして歌った「ロンリー・アット・ザ・トップ」は、燃えさかる炎のように熱かった。それは僕が知る中でも最高のロックンロールのひとつだった。

2017.08.20
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  YouTube / LiveAidWizard
 

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カタリベ
1970年生まれ
宮井章裕
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