あこがれの先輩や片思いの同級生に、バレンタインチョコを渡した。
卒業式で、制服の第2ボタンをもらった。
そんなあまずっぱい、中学時代の思い出を持つ女性は多いだろう。傍らにはきっと、発破をかける友人がいたはずだ。「ほら、先輩こっち来たよ。今がチャンスだよ!」なんて言う、友人に背中を押されたのではないか。そんなことを思い出したのは、ニック・ヘイワードが来日公演をしたからだ。
2018年8月16日、ニック来日ライブ3日目。ヘアカット100、そしてソロ初期の頃、彼の大ファンだった私は、同世代の友人たちとともに、ビルボードライブ東京へ向かった。そして、ステージを下りたときにサインをもらいやすいという席に陣取った。ビルボードライブは、1日2回公演がお約束だが、セカンドステージ後は大抵サイン会がある。
「ライブ終了後にサイン会やるなら、この席でなくてもよくない? 別に、ステージ下りたときにもらわなくても…」
と言うと、ビルボード通の友人はこう言った。
「必ずサイン会があるとは限らないよ。アーティストが疲れてて、ないときもあった。だから、ステージを下りたときに、絶対サインもらうべきだよ!」
うーん、そういうものか。他の友人たちも、「絶対、平さんにサインもらってほしい。私たちも応援する!」と言うじゃないか。
あれ、こんなこと、むかーーしもあったな。中学2年生のバレンタイン、友人に励まされながら、あこがれのN先輩にチョコレートを渡した思い出がよぎる。
肝心のライブは、ヘアカット時代から、最新アルバムの曲まで、自身のキャリアを振り返る、出し惜しみしない完璧なセットリスト。昔と変わらないキラキラ笑顔の素敵なオジサマ、ニック。もちろん、昔の曲もいいが、なにより最新アルバム『ウッドランド・エコーズ』の曲が素晴らしい。現在進行形のニック・ヘイワードを堪能できたことが、一番の収穫だった。
だが、うっとりばかりじゃいられない。終了に近づくにつれ、頭の中はサインをもらうタイミングでいっぱいに。実は、ニックの最新アルバムだけでなく、ソロ初期の12インチレコードを2枚持参し、ペンも用意してきた。演奏が終わってニックがステージを下りると、友人に背中を押された私は、あわてて彼にレコードとペンを渡し、サインを書いてもらった。
ライブ終了後のサイン会もしっかりあったのだが、緊張しまくって、何をニックに伝えたいかパニックった私から出た言葉は “Give me a hug, please!”―― 彼がうなずくのも待たず、ガシッとニックに抱きついてしまった。ニックもぎゅっと抱きしめてくれたが、もしかして私、相当図々しいんじゃ?
中学時代のあまずっぱさ、よみがえる… なんて思っていたのだが、やっぱこれって、中年女の図々しさよね。中学生じゃ、ありえない。なんだか恥ずかしい。
でも帰り道、「よかったね!」と、わがことのように喜んでくれる友人たちの笑顔を見て、ま、いいか、中年女の図々しさ万歳だ! と、都合よく思うのであった。
2018.08.28
YouTube / Nick Heyward
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