ヨーロッパで流行りそうな音楽を志向したベルリン
1986年から1987年にかけ、この曲は街のあらゆるところで流れていた。1987年のお正月映画として日本公開された青春恋愛アクション映画『トップガン』の挿入歌、ベルリンの「愛は吐息のように(Take My Breath Away)」である。大抵の人は一聴すれば「ああ、これかー」となるだろう。まさに「キング・オブ・エイティーズ」と言っても過言ではない。
さて、あまりにも大ヒットしたがために、ワン・ヒット・ワンダー(一発屋)の部類に入れられることも多いベルリンだが、これ以前もそこそこのスマッシュヒットは出していた。そもそもがアメリカ西海岸のエレクトロポップバンド(今で言うEDM)で、アメリカよりもヨーロッパで流行りそうな音楽を志向するエッジの効いたグループだった。1982年にリリースしたシングル「その時、私は…(Sex I'm A....)」なんて曲はいくつものラジオ局で放送禁止になって結構話題にもなったり。
大ヒット映画トップガン、「愛は吐息のように」は各国チャート1位に
そこへ舞い込んだ大作映画からのオファー。曲を手掛けるのは、ダンスミュージック界をリードし、フラッシュダンスではアカデミー歌曲賞を受賞したイタリア人プロデューサー、ジョルジオ・モロダー。バンドは悩みながらも喜び勇んだことだろう。結果、映画は世界的大ヒット。トム・クルーズをトップスターに持ち上げ、このシングルも各国のチャートで1位を獲得することになる。しかし、ベルリンはこの曲に続くヒットを出すことはできなかった。翌年に出したシングル「Like Flames(炎のハート・ブレイク)」は最高87位、その後もチャート上位を賑わせたことは一度も無い。
バンド自身はこのタイアップをきっかけにしようと思っていたはずだ。しかしながら、あまりにもヒットの規模が大きすぎた。さらに、この曲がベルリンの本質を表していたかといえば、決してそうではなかった。「彼らの音楽ではなく、映画の音楽だった」ということに尽きるのだろう。その代償として、ベルリンは解散への道を足早にたどることになる。そしてその刹那の輝きこそが、この曲に80年代の空気を強烈に纏わせている理由かもしれない。
2022年に公開「トップガン マーヴェリック」
2016年にトップガンはパート2の製作準備が始まり、2022年、『トップガン マーヴェリック』として日米同時公開が決定。トム・クルーズも出演。ベルリンのボーカル、テリー・ナンも活動を続けている。そして、この曲に勇気をもらった大勢の人も世界中で生き続けている。さあ、それぞれの道は再び交差するのだろうか。
※2016年4月30日に掲載された記事をアップデート
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2021.12.06