60年代の終わりから70年代の半ばにかけて、音楽は分かりやすかった。極端に言えば、演歌、歌謡曲、フォーク、ロック。これくらいしかなかったのだ。もっと極端に言えば、テレビで歌われる音楽は演歌か歌謡曲、テレビではほとんど聴けないのがフォーク、ロック。そんな感じだった。
当時、フォークソングにかぶれてしまっていたぼくは、だからテレビから流れてくる音楽をほとんど聴かなくなった。そんなぼくの個人的な思いだけでもっともっと極端に言えば、(単なる感覚としてだが)テレビで流れる音楽はニセモノ、流れない音楽こそホンモノ、くらいに思っていたのだ。
長い前置きになってしまったが、1990年の大晦日、紅白歌合戦を実に久しぶりに見た。初出場の長渕剛が、前の年に東西を隔てていた壁がぶっ壊されて統一されたドイツ、ベルリンからの中継で3曲を歌い、その演奏時間が予定より長すぎたとか生意気な発言をしたとかでNHK側とモメて出禁になったいわくつきの紅白だ。
まあ、そんな事情はともかく、長渕は衝撃的な演奏を海の向こうで繰り広げていた。不機嫌そうに歌っていたが、とりわけ3曲中の1曲「親知らず」を聴いたときは、彼のとんがった思いが突き刺さってきて、なんとも痛快な気持ちになった。TBSドラマでヤクザを演じた頃(88年「とんぼ」)からかな? ぼくは素っ裸な印象のその歌に少しずつシンパシーを感じ始めていて、このときも、自分の内側にある思いをさらして歌いちぎり、音楽に文学の匂いもぷんぷん漂わせる長渕の強い個性に改めてシビレた。
「俺の祖国 日本よ! ちかごろふざけすぎちゃいねえか!」
今聴いても、彼が歌ったそんな言葉に、うんうんと頷いてしまったりするんだなあ。
2016.05.30
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