武内享… チェッカーズに盛られたひと匙の“毒”
ビートルズもキャリアのスタートはアイドルだったから…
―― このような主旨のコメントをザ・チェッカーズ(以下チェッカーズ)のリーダー武内享が発したのは、彼らがデビュー間もない頃だったと記憶している。この予言のような言葉は、80年代半ばになると、よりリアリティが増してくる。
ヒット曲には、効果的なフックや時代に即したキャッチーさ、誰もが口ずさめる親しみやすいメロディなど様々な要素があるが、そういった表層的な部分だけでは、一発屋で終わってしまうだろうし、後年再評価されることはまずありえない。時代を超えても評価される楽曲やアーティストには、ひと匙の ”毒“ が盛り込まれている。
それは、ビートルズだったらジョン・レノンの「安い席の人は拍手を。高い席の人は宝石をジャラジャラ鳴らしてください」というアイロニカルな視点なのかもしれない。そういった精神性とも言える ”毒” は、音楽にも反映する。これが普遍的な輝きには必須条件だと思う。
チェッカーズに盛られたひと匙の “毒” といえば、そう。リーダーの武内享である。
徳永善也、大土井裕二そして武内享… チェッカーズの強みは “リズム隊”
生粋のビートルズマニアとして知られる武内は、キャロル、クールスを通過したオールディーズやドゥワップの趣向が強いバンドに、まず、ブリティッシュのエッセンスを持ち込んだ。
バッキングに徹したギターのカッティングも良かった。チェッカーズの豊かな音楽性の背景には、リズム隊の素晴らしさも挙げられる。主体となる徳永善也(クロベエ)の攻めのドラミングも最高だし、大土井裕二のベースにしても、ストラップを長く伸ばし、腰の位置でダウンピッキングするようになる中期以降は、レゲエフィーリングも織り交ぜた独創的なリズムを刻むようになる。そして、ここでもあくまでバッキングに徹した武内のギターが解散までチェッカーズの土台となっている。
バッキングに徹しながら、バンドをまとめ上げ、武内は “毒” をバンドにじわじわと盛り込んでゆく。それを最初に感じたのは、1985年にリリースされた彼らのサードアルバム『毎日!! チェッカーズ』だった。ここで武内は自身でリードヴォーカルをとった「ジェイルハウス・ラブ」という楽曲を披露している。ファンキーなサキソフォンが特徴的なイントロにスカのビートをフォーマットにしたリズム。ポストパンク、2TONEを経由したダークな世界観は、まさしく、このアルバムに盛り込まれた、ひと匙の “毒” だった。
デビューアルバム『絶対チェッカーズ!!』から始まり、約1年という短期間にリリースされた3枚のアルバム、つまり初期三部作は、ジャパニーズ・グラフィティとも言える甘く切ない青春の世界だった。ここからの3枚目にあたる『毎日!! チェッカーズ』に注がれた武内のエッセンスが、「チェッカーズってヤバいんじゃないか?」と十代の僕に知らせてくれた。
ビートルズも、スカをフォーマットにしたビートもそうだが、武内の音楽的趣向にはいつも刺激をもらっていたし、これが僕にとってのチェッカーズの大きな側面だった。
一番有名な武内享ソングライティング作品「ONE NIGHT GIGOLO」
確か、1986年だったと思う。武内享のオールナイトニッポンが放送された時、ウルトラマンの主題歌に似ている曲ということで、パール・ハーバーの「SPANISH BOP」をオンエアした。
パール・ハーバーといえば、クラッシュファミリーとして知られる女性ロカビリー・シンガーで、この「SPANISH BOP」が収録されたアルバム『PEARLS GALORE!』はザ・モッズとの共同制作で知られるアルバムだ。僕は武内のこういう自身がインスパイアした音楽をアイドルという立ち位置のままサラリと語るスタンスが大好きだった。ちなみに翌年にリリースした初のセルフプロデュースアルバム『GO』は、ザ・モッズの森山達也をゲストに迎え制作された。
武内がソングライティングした楽曲で一番有名なのは「ONE NIGHT GIGOLO」ということになるだろう。1988年にオリコン3位を記録し、CMにも使われたこの曲も、当時のイギリスのブルーアイドソウルやアシッドジャズの影響が大きく見られる洗練された楽曲であると同時に、どこか陰りというか、ダークさを忍ばせている。これも武内が盛ったひと匙の “毒” ではないだろうか。
チェッカーズはアメリカンオールディーズを起点としながらも、中期以降はこのようにイギリス寄りの音作りに固まっていく。これはメンバーの感度の良いアンテナが様々な音楽を吸収した結果だ。当時、時代の先端を走りながらも、解散から30年経った今も色褪せない作品をクリエイトし続けた。そして、この根底には、デビュー当時からのバンドイメージとは異なる武内の音楽的趣向があると思わずにいられない。
リードギターでもバンドを引っ張るギタリスト
最後に、武内のギターはチェッカーズではバッキングに徹している… と書いたが、彼の弾くリードギターの素晴らしさにも触れておきたい。
以前、武内と師弟関係にあり、大瀧詠一トリビュートアルバム、『大瀧詠一 Cover Book -ネクスト・ジェネレーション編-『GO! GO! ARAGAIN』』にも参加したロックンロールバンド、少林兄弟のステージに武内が参加した時のこと――
確か、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「スモーキン・ブギ」をカバーしていたのだが、武内はミストーンも怖れないほどの攻めっぷりでグイグイバンドを引っ張っていく。さらに、ブルースからのブラックミュージックのエッセンスも垣間見られるリズムで独特のグルーヴを醸し出したのだ。
そのプレイに圧倒された僕は、ギタリストとして「すごい人だなぁ」と改めて実感。これからも幅広いフィールドでの "武内享" の活躍を期待したい。
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2022.07.21