8月21日

青春との訣別「毎日!!チェッカーズ」どんなバンドでも一度しか作れない傑作アルバム

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全国29ヶ所32公演の「TYPHOON CHECKERS」がスタートした1985年


デビューして丸2年を迎えようとしていたチェッカーズが、1985年8月21日に放った3枚目のアルバム『毎日!!チェッカーズ』は、彼らがターニングポイントを迎えようとしている、そんな空気を感じさせる内容であった。

1985年のチェッカーズは、4月27日に初の主演映画『CHECKERS IN TAN TAN たぬき』の主題歌として6作目のシングル「あの娘とスキャンダル」を3月21日にリリース。4月27日には映画が全国公開され、さらにオリジナルサウンドトラックも映画公開と同日に発売。7月5日には7作目のシングル「俺たちのロカビリーナイト」をリリース。7月7日からは大規模な野外公演を組み込んだ全国29ヶ所32公演の『TYPHOON CHECKERS』がスタートした。





だが、音楽面では、いずれも彼らの原点回帰とも取れる内容である。前述の『TAN TAN たぬき』のサントラには、彼らのルーツであるオールディーズのカバーを多数収録、「俺たちのロカビリーナイト」では、男臭いロックンロールを革ジャン姿で歌っている。また、映画『TAN TAN たぬき』はビートルズ映画『ヘルプ!4人はアイドル』をモチーフに作られているが、ビートルズが『ヘルプ!』から、映画を経て次作『ラバー・ソウル』で音楽面に大きな最初の変化が現れたのと同様に、チェッカーズもこの時期、アイドルグループから、一度原点に立ち返り、次なるステップへ変貌を遂げていく過程にあったといえよう。

ハンドクラッピングとアカペラでスタートする「クレイジーパラダイスへようこそ」


そして本作『毎日!!チェッカーズ』発売へと至るのだが、これまで彼らを支えてきた売野雅勇&芹澤廣明コンビの作品は3曲にとどまり(実質上新曲は1曲のみ)、逆に売野の詞にメンバーの作曲というケースが増え、芹澤が作曲はせずチェッカーズとの共同編曲のみに関わるケースも出てきた。またヴォーカル藤井郁弥(現:藤井フミヤ)の作詞に芹澤の作編曲というケースも見られる。これは、メンバーの楽曲制作力が向上し、プロ作家である売野と芹澤がアルバム全体の構成を支えるサポートに周った形がとられたものと思われる。前2枚のアルバムでは、売野&芹澤作品とメンバーの楽曲は個性が分離していた印象もあったが、ここで完全に両者の共同作業となったのだ。

冒頭、ハンドクラッピングとアカペラでスタートする「クレイジーパラダイスへようこそ」は売野の作詞、藤井尚之の作曲。続く「Summer Rain」はコーラスを主体にしたビーチ・ボーイズ風のサーフソング。藤井兄弟の作による得意の3連だが、甘い声質を持つ鶴久政治をヴォーカルにしたのは正解だろう。その鶴久は、その後チェッカーズ中期以降の作曲面を支えていく存在となるが、本作では売野と組んだ「湾岸物語(ベイサイド・ストーリー)」を作曲。こちらは高杢禎彦のヴォーカルによるネオロカビリータイプの楽曲である。

リーダーの武内享は郁弥と組んだ「Marry Me Tomorrow」と売野との共作「ジェイルハウス・ラヴ」の2曲を作曲。後者ではリードヴォーカルもとっており、サックスがヴォーカルを後押しするようなスピーディな楽曲だ。

藤井兄弟の作品はもう1曲「You Love Rock’n Roll」があるが、こちらはヘビーなロックナンバーで、こうしてみるとメンバーの音楽的方向性が、オールディーズ一辺倒から次第にロックビートのバンドサウンドへと幅を広げていこうという意図が見える。

郁弥のセクシーな声質と、エモーショナルなヴォーカルテクニックが魅力的に響く「哀しみのヴァージン・ロード」


一方、売野&芹澤コンビの作品で注目すべきはラストに配された「哀しみのヴァージン・ロード」だろう。流麗なストリングスを加えたバラードで、郁弥のセクシーな声質と、エモーショナルなヴォーカルテクニックが魅力的に響く。郁弥のバラディアーとしての資質が開花した最初の作品で、プロ作家チームもまた新たなチェッカーズの可能性を提示してきたのだ。

もう1曲の「スキャンダル魔都(ポリス)」は、「あの娘とスキャンダル」の歌詞違いバージョン。大人の男女の恋の駆け引きを描いた詞は、元の詞よりも俄然アダルトな世界である、本来は「Song For U.S.A.」が収録されるはずが、同曲の出来の良さからシングル用にキープされたことで「スキャンダル魔都」が急遽収録されることになったと、売野雅勇は述懐している。実のところ、売野はこちらの方が自分の好みの歌詞だそうで、同時にチェッカーズのプロジェクトにやや行き詰まりを感じていたとも回想している。

「明日結婚しよう」とキラーフレーズが飛び出すプロポーズ・ソング「Marry me tomorrow」


全体にアイドル色が後退していき、バンドの色を強く出しつつあった過渡期のアルバムと言えるが、それは作詞面にも現れている。特に藤井郁弥の作詞に顕著で、「Marry me tomorrow」はタイトル通り「明日結婚しよう」とキラーフレーズが飛び出すプロポーズソングだ。ダンパと喧嘩、ロックンロールに明け暮れていたやんちゃな不良が、男としてのけじめをつけるかのような歌を現役アイドルが歌うのは異例で、このストレートな求愛ソングは多くの女性ファンの胸を撃ったであろう。郁弥は前作アルバムでも「今夜はC(ツェー)まで Rock’n Roll」で、サザンオールスターズを思わせるような、男子の性事情を赤裸々に歌うナンバーを書いている。

売野作品が、基本的には『アメリカン・グラフィティ』の世界観をベースに、小道具とディテール、シチュエーションを駆使した「外枠」から構築していく作風なのに対し、郁弥の詞は若者の生態やリアルな心情を投影した作風が多い。この点からもチェッカーズが単なるアイドルバンドでなかったことがわかる上、こういった内容の楽曲も気持ちよく受け入れる土壌が、彼らのファンの側にあったことも感じ取れるのだ。

結婚というテーマでは、前述の売野作詞による「哀しみのヴァージン・ロード」と聴き比べると、両者の作風の違いがよくわかる。こちらは自分を振った女性を見送る男の歌で、「星屑のステージ」と同様、郁弥のヴォーカルには悲恋がよく似合う。

青春との訣別、ロックンロール少年たちが大人になっていく


このように『毎日!!チェッカーズ』は、メンバーの楽曲制作のクオリティの向上に加え、プロ作家陣との共同作業により新生面を切り開いていった、重要な作品なのだ。同時にロックンロール少年たちが大人になっていく、青春との訣別といった印象を残す。どんなバンドでも、こういう傾向の作品は、その時の一度きりしか作れない。彼らの歴史を振り返るとき、忘れ難い1枚と呼べるだろう。

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2023.09.11
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馬飼野元宏
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