後追い世代にとってのX JAPAN
ノスタルジーで音楽を語ることは苦手だ。現役引退が話題のハンカチ王子と同じ1988年の生まれなので、そもそもRe:minderが扱っている “80年代” に思い出が介入する余地がない後追いというのもある。しかし活動時期が90年代後半まで食い込むX(X JAPAN)くらいになってくると、微妙に幼少期の記憶とシンクロし始めるので、意外とフラットな気持ちで書けないバンドだったりする。
おそらく同年代には共感する人も多いと察するのだが、X JAPANという存在より先にHIDEという名前を知ったのではないか? 要するに物心のつきはじめる、十歳になるかならないかの頃に、1998年のHIDEの死の過剰なまでのメディア報道と、テレビから流れる「ピンクスパイダー」という曲のヘヴィーローテーションのみが強烈に刻まれている世代。それがリアルなX JAPANとのファーストコンタクトだったと思う。
“V系” という括りでみると、僕の学年だと中・高で音楽に目覚めてL'Arc~en ~Cielのファンになるのが結構いたが、ちょっと上世代のバンドという感じのLUNA SEAとなるとファン皆無だったなぁという印象。なのでV系の元祖X JAPANともなれば熱心に音楽考古学をやるような人間か、ファンの兄弟でもいない限り、メディアを通じて入ってくる偏った情報しか入らないわけだ。そうなると若い世代にとっては、倒れた・壊した・帰ったなど伝説の多いYOSHIKIと、洗脳ニュースで当時持ち切りだったTOSHIというメディア露出の多い二人しか目に入ってこない。
YOSHIKI、HIDE、PATA、TAIJI… ヴァラエティーに富んだ「Jealousy」
しかし今回取り上げる1991年リリースの『Jealousy』を熱心に聴けば、バンドが決してYOSHIKIだけの才能で成り立ったわけでもなく、バンドを取り巻く死だの洗脳だのショッキングなニュースなしに優れたバンドだと分るはずだ。初の全編LA録音、製作費は二億円越えと前情報だけでいろいろ驚きの作品ではある。しかし実際に聴いてみて内容にさらに驚いた。YOSHIKIの楽曲が主体だった前作までと違って、本作は他のメンバーの作った楽曲が多数を占めヴァラエティーに富んだ作品になっている。
いぶし銀的な魅力を放つギタリストPATA作曲の一分程度の短いカントリー風のインスト曲「White Wind From Mr.Martin ~Pata's Nap~」と、ベーシストTAIJI作曲の英国トラッドフォーク調の「Voiceless Screaming」と、静謐な二曲が続く中盤の展開でこのアルバムが特別なものと確信した。YOSHIKIが「最も影響を受けた三枚のアルバム」に選んだ『レッド・ツェッペリンⅣ』を個人的に思い出した。
というのもツェッペリンも元祖メタル的なハードロックの爆音のさなかに、英国的で幽玄なトラッドフォークが挿入される静と動のコントラストが魅力だったからだ。ジミー・ペイジのギタリストとしての引き出しの多さに、PATAとTAIJIの二人をもって拮抗しえたというか。
そしてもっと驚いたのはHIDE作曲の「Love Replica」だ。インダストリアルロック的な金属質のノイズに始まり、不穏なハンマービートが脈打ち始めるも、それがなんと軽快でヨーロピアンな三拍子ワルツ調で、なおかつ歌詞は全編フランス語なのだ! おフランスな少女マンガ趣味と、USインダストリアルロックを奇妙に融合させる(ノン)センスはHIDEにしかできない、というかMALICE MIZER(マリスミゼル)の感覚を若干先取りしてないかこの曲?
そしてそれに続く8曲目「Joker」もHIDEの作詞・作曲。西海岸ヘアメタルのような気持ちいいマッチョなハードロック(ちなみにこのアルバムのエンジニアは超マッチョメタルで知られるマノウォーを手掛けたリッチ・ブリーン)。思えば名盤『Blue Blood』収録のガンズ&ローゼズ風のハードロック「Cerebration」もHIDE作曲だったっけ。こうした超どストレートな(おバカでご機嫌な)ハードロックへの偏愛が、個人的にX JAPANの好きなところだったりする。
Xというバンドを成功に導いたYOSHIKIの特異な作曲センス
V系ライター(?)でX JAPANとの深い交友関係で知られる市川哲史によると、このアルバムの唄入れのときに暇になったHIDEとPATAは「恥ずかしもの大会」といって、エンジェルなどB級感のあるハードロックバンドのレコードを流しまくる「馬鹿ハードロック大行進」をやっていたという。構成的でシンフォニックで人間離れしたスピードを好むYOSHIKIの美意識高い系の楽曲のあいだにこういうハードロック曲がはさまるのは、理屈抜きにものすごく気持ちいい。馬鹿になるのもいいもんだな、と。
といって、このアルバムにはリーダーYOSHIKI作曲でX史上最速の楽曲「Stab Me In The Back」や、いかにもこのバンドという感じの定番曲「Silent Jealousy」も収録されている。なんやかんやでハロウィーン的パワーメタルをベースに、スラッシュメタルとハードコアパンクと歌謡曲メロディを天丼させた(引き算ができない?)X印ともいえるYOSHIKIの特異な作曲センスなくして、このバンドのここまでの成功はなかっただろうと痛感させられる。
というわけで、完成度やシーンに与えたショックという意味ではYOSHIKI主体の『BLUE BLOOD』に軍配が上がるのかもしれないが、バンドとしてのX、つまりメンバーそれぞれの魅力がムンムンに出ているという意味では断然民主主義的な『Jealousy』だろう。どっちも聴くべし。
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2021.11.04