6月19日

80年代は洋楽黄金時代【カバー曲 TOP10】一粒で二度おいしいのがポップスの基本?

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マイケル・ボルトンのアルバム『ソウル・プロヴァイダー』がリリースされた日(ウィズアウト・ユー 収録)
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ポップミュージックの歴史で重要な役割を担っていたカバー曲


これまでに僕は、1980年代に日本の国外でヒットした楽曲について、ギターリフ、ドラムイントロ、ベースライン、ピアノ曲、ボーカルイントロ、シンセリフのようにテーマを絞り、勝手にランキングを決めて、その都度リマインダーの中で発表させてもらってきた。だが、このように楽器のパートごとに見ていくのは、そろそろかなり網羅できたと思うので、今回は趣向をガラッと変えて「カバー曲」をテーマにしてみたい。

カバー曲とは、過去に他のアーティストが発表した楽曲をリメイクして、演奏・歌唱して、リリースした作品のことである。ここには、聴き手に “新たな解釈を提示” するという意味合いがあるが、ビジネス的に考えると “一粒で二度おいしい(場合によっては三度も四度もおいしい)” 訳で、資産の有効活用の観点から完全に経済合理性に適っていると言える。こういう背景もあって、ポップミュージックの世界では、古今東西様々なカバー曲が生み出されてきた。

一つ例を挙げると、米国最大の黒人音楽レーベルであったモータウンは、1960年代から70年代前半にかけて、自社作品をカバーして大成功を収めた。当時、1つの楽曲を複数のアーティストに録音させるのは珍しいことではなかったし、有名アーティストどうしが互いにカバーし合ったものである。

もちろん、モータウン楽曲をカバーしたのはモータウンのアーティストに限った話ではない。シュープリームスは、1964~69年の5年間に12曲の全米1位を記録したが、そのうちの7曲が他のアーティストでリバイバルヒットした。天下のザ・ビートルズですら、「マネー」「プリーズ・ミスター・ポストマン」「ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー」というモータウンソング3曲をリリースしている。もちろん、そんな彼ら自身が、多くのアーティストにカバーの対象にされてきたのは、言うまでもない。

とにかく、カバー曲が、ポップミュージックの歴史の中で、とても重要な役割を担ってきたということなのだ。もちろん1980年代も例外ではなく、例えば以下の楽曲は全て全米シングルチャート(The Billboard Hot 100)でNo.1を獲得したが、実は全部カバー曲である。原曲があまり有名ではないので、気づいていない人が多いかもしれない。

■ ドナ・サマー / マッカーサー・パーク
■ バーブラ・ストライサンド&ニール・ダイアモンド / 愛のたそがれ(You Don't Bring Me Flowers)
■ ブロンディ / 夢みるNo.1(The Tide Is High)
■ キム・カーンズ / ベティ・デイビスの瞳(Bette Davis Eyes)
■ ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ / アイ・ラヴ・ロックン・ロール
■ トニー・バジル / ミッキー
■ ポール・ヤング / エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ
■ ディオンヌ&フレンズ / 愛のハーモニー(That's What Friends Are For)
■ ハート / アローン
■ ジョージ・ハリスン / セット・オン・ユー(Got My Mind Set On You)
■ ベット・ミドラー / 愛は翼にのって(Wind Beneath My Wings)
■ リンダ・ロンシュタット / ドント・ノウ・マッチ(デュエット:アーロン・ネヴィル)
■ シンニード・オコナー / 愛の哀しみ(Nothing Compares 2 U)

ということで、今回は1978~91年にリリースされたカバー曲の中から、オリジナル版とリメイク版の両方がヒットした作品を、毎度ながら勝手に選んでみようと思う。ヒットの基準は全米シングルチャート(Billboard Hot 100)で最高位40位以内、または全英(Official Singles Chart Top 100)で20位以内とした。ただ、これだけ限定しても10曲に絞り込むのはなかなか難しかったので、次点・次々点を加えた全12曲を紹介したい。

【次々点】ボーイズ・タウン・ギャング / 君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)


アルバム『君の瞳に恋してる~ディスク・チャージ』に収録。この曲はフォー・シーズンズのリードボーカルとして一世風靡したフランキー・ヴァリによって全米2位を記録した名曲として知られるが、何故か日本ではボーイズ・タウン・ギャングのバージョンが1980年代最大のディスコヒットとなり、オリジナルを完全に凌駕した。その頃、ディスコのダンスフロアのみならず、TV、ラジオ、有線でこの曲が死ぬほど流れていたのを、当時を知る皆さんならきっと覚えているはずだ。

【次点】デイヴィッド・リー・ロス / カリフォルニア・ガール


ミニアルバム『クレイジー・フロム・ザ・ヒート』に収録。それまでヴァン・ヘイレンのリードボーカルとして活躍していたが、本作リリース後に脱退した(2007年に復帰)。この曲のオリジナルはビーチ・ボーイズの1965年のヒット曲だが、デイヴィッド・リー・ロスのおバカ加減満載のミュージックビデオを観ると、まるで原曲を冒涜しているかのように感じなくもない。でも、コーラスにカール・ウィルソンを招いたところを見ても、これが彼なりのリスペクトの表現なのだろう。

【第10位】エイミー・スチュワート / ノック・オン・ウッド


デビューアルバム『恋の直撃!(Knock On Wood)』に収録。オリジナルはサザンソウルシンガーのエディ・フロイド。1966年にリリースされてから、オーティス・レディングやデヴィッド・ボウイ等の様々なアーティストにカバーされたが、最もヒットさせたのがエイミー・スチュワートだった。元々ミュージカルの舞台で活動していた彼女は、それまで音楽ファンの間では全くの無名だったが、この曲はディスコブームに乗って世界的ヒットとなった。最近では、ゲイ・アンセム(LGBTコミュニティで愛されている歌)の一つとしても知られている。

【第9位】シンプリー・レッド / 二人の絆(If You Don't Know Me By Now)


初めて全英No.1を獲得したアルバム『ニュー・フレイム』に収録。英国を代表するブルーアイドソウルのバンドだが、実質的にはミック・ハックネルのソロプロジェクトである。この曲のオリジナルはハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツが1972年にリリースしたフィリーソウルの名曲だが、シンプリー・レッドのバージョンを聴くと、ミック・ハックネルがいかにこういう音楽が好きかが伝わってきて、何だか微笑ましい。当時の英国には黒人音楽に傾倒した白人アーティストが山のようにいたが、その中でも彼が頭一つ抜きん出ていたと思う。

【第8位】フィル・コリンズ / 恋はあせらず(You Can't Hurry Love)


ソロ第2弾アルバム『心の扉(Hello, I Must Be Going!)』に収録。オリジナルはもちろんシュープリームスの1966年の作品。フィル・コリンズの80年代の大躍進は、このヒットから始まったと言っても過言ではない。また、モータウンソングのカバーもこの曲以降、デヴィッド・ボウイ&ミック・ジャガー「ダンシング・イン・ザ・ストリート」、キム・ワイルド「キープ・ミー・ハンギン・オン(You Keep Me Hangin' On)」、ロッド・スチュワート「ジス・オールド・ハート・オブ・マイン」、UB40「ザ・ウェイ・ユー・ドゥー(The Way You Do The Things You Do)」と続いた。

【第7位】RUN DMC / ウォーク・ディス・ウェイ


ヒップホップ史上初めてマルチプラチナムを達成したアルバム『レイジング・ヘル』に収録。エアロスミスのヒット曲をそのまま使っただけでなく、スティーヴン・タイラーとジョー・ペリーの二人がレコーディングに参加、ミュージックビデオにも出演して話題となった。この曲はRUN DMCのブレイクのきっかけになっただけでなく、当時低迷期にあったエアロスミスにとっても復活の機会となり、これが第2の黄金期(80年代後半~90年代)に繋がった。まさにカバーした側、カバーされた側の双方が同時にハッピーになった好事例と言えるだろう。

【第6位】バナナラマ / ヴィーナス


アルバム『ヴィーナス~バナナラマ3(True Confessions)』に収録。1980年代ディスコの代表曲の一つである。オリジナルは69年にリリースされたショッキング・ブルーのヒット曲で、オランダ出身アーティストとして初めて全米No.1を獲得した。ところで、この曲がザ・ビートルズ・メドレーとして知られる「ショッキング・ビートルズ45(Stars on 45)」のオープニングに使われていたのを覚えているだろうか。これは81年にオランダで企画されたプロジェクトだが、「ヴィーナス」が天下のザ・ビートルズの前に持って来られるなんて、この曲はもしかして“オランダ版「上を向いて歩こう(Sukiyaki)」”なのかも。

【第5位】アース・ウインド&ファイアー / ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ


1978年に公開されたミュージカル映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・クラブ・バンド』のサウンドトラック盤に収録。この映画ではピーター・フランプトンやビー・ジーズといった当時の売れっ子アーティストがザ・ビートルズ楽曲を歌っていたのに、興行的には大コケした。ザ・ビートルズには無数のカバーが存在するが、このアース・ウインド&ファイアーのバージョンは、スティーヴィー・ワンダー「恋を抱きしめよう(We Can Work It Out)」やエルトン・ジョン「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」なんかと比べても、とても良質なリメイクだと僕は思っている。

【第4位】ティファニー / ふたりの世界(I Think We're Alone Now)


デビューアルバム『TIFFANY』に収録。オリジナルは米国のソフトロックバンド、トミー・ジェイムス&ザ・ションデルズの1967年の同名曲で、「君と僕の世界」という邦題が付けられていた。当時15歳だったティファニーはこの曲で初の全米No.1を獲得し、瞬く間にトップアイドルに上り詰めたが、もともとはカントリー歌手を目指していたらしい。このデビューアルバムには、他にもザ・ビートルズ「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」のカバー「アイ・ソー・ヒム・スタンディング・ゼア」も収められている。

【第3位】ウィル・トゥ・パワー / フリー・ベイビー(Baby, I Love Your Way/Freebird Medley)




デビューアルバム『ウィル・トゥ・パワー』に収録。1970年代の2つのヒット曲、ピーター・フランプトン「君を求めて(Baby, I Love Your Way)」とレーナード・スキナード「フリー・バード」をメドレー形式で繋いでおり、単純なカバーではない。あまりにも2曲がスムーズに合体しているので、ちょっとマッシュアップ(複数の曲を合成して1つの曲にする手法)っぽいかも。サウンドにもウィル・トゥ・パワーの出身地であるマイアミの雰囲気が感じられて、とても心地よい。なお、このヒットをきっかけにピーター・フランプトンが活動再開したそうな。

【第2位】ホイットニー・ヒューストン / グレイテスト・ラヴ・オブ・オール




通算14週に渡って全米1位を記録した衝撃のデビューアルバム『そよ風の贈りもの(Whitney Houston)』に収録。オリジナルはジョージ・ベンソンの1977年の楽曲で、「愛は偉大なもの」という邦題が付けられている。ホイットニー・ヒューストンはもともとカバーが多いシンガーで、全11曲の全米No.1の中で「すべてをあなたに(Saving All My Love For You)」「この愛にかけて(All The Man That I Need)」「オールウェイズ・ラヴ・ユー(I Will Always Love You)」とこの曲の4作品が他アーティストのリメイクである。

【第1位】マイケル・ボルトン / ウイズアウト・ユー(How Am I Supposed To Live Without You)


アルバム『ソウル・プロヴァイダー』に収録。この曲はもともとマイケル・ボルトンが書いて、ローラ・ブラニガンに提供したものである。彼女は1983年にこの曲をシングルとしてリリースし(邦題は「愛を知って」)、89年には彼自身がセルフカバーした。どちらのバージョンも全米No.1を獲得したが、80年代の10年の間に複数回ヒットしたのは、多分この曲だけじゃないかと思う。僕はこの手の甘ったるいバラードは好きではないが、何度も売れるということは、これこそが80年代っぽい楽曲、80年代っぽいサウンドということなのだろう。


Billboard Hot 100/Official Singles Chart Top 100
■ Got To Get You Into My Life / Earth, Wind & Fire(1978年9月16日 全米9位、10月28日 全英33位)
■ Knock On Wood / Amii Stewart(1979年4月21日 全米1位、5月19日 全英6位)
■ Can't Take My Eyes Off You / Boys Town Gang(1982年8月28日 全英4位)
■ You Can't Hurry Love / Phil Collins(1983年1月15日 全英1位、2月5日 全米10位)
■ California Girls / David Lee Roth(1985年3月2日 全米3位、全英68位)
■ Greatest Love Of All / Whitney Houston(1986年5月17日 全米1位、全英8位)
■ Venus / Bananarama(1986年9月6日 全米1位、12月7日 全英8位)
■ Walk This Way / Run-D.M.C.(1986年9月27日 全米4位、全英8位)
■ I Think We're Alone Now / Tiffany(1987年11月7日 全米1位、88年1月30日 全英1位)
■ Baby, I Love Your Way/Freebird Medley / Will To Power(1988年12月3日 全米1位、89年1月21日 全英6位)
■ If You Don't Know Me By Now / Simply Red(1989年4月15日 全英2位、7月15日 全米1位)
■ How Am I Supposed To Live Without You / Michael Bolton(1990年1月20日 全米1位、3月3日 全英3位)

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2022.05.30
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おすすめのボイス≫
1965年生まれ
中川 肇
Top12の各楽曲のミュージックビデオです↓

[1位] Michael Bolton - How Am I Supposed To Live Without You
https://youtu.be/YFood_bTOX4
[2位] Whitney Houston - Greatest Love Of All
https://youtu.be/IYzlVDlE72w
[3位] Will To Power - Baby, I Love Your Way/Freebird Medley
https://youtu.be/79r_XaUU7yE
[4位] Tiffany - I Think We're Alone Now
https://youtu.be/w6Q3mHyzn78
[5位] Earth, Wind & Fire - Got To Get You Into My Life
https://youtu.be/MKskYvTGEHE
[6位] Bananarama - Venus
https://youtu.be/d4-1ASpdT1Y
[7位] Run-D.M.C. - Walk This Way
https://youtu.be/4B_UYYPb-Gk
[8位] Phil Collins - You Can't Hurry Love
https://youtu.be/C9IwBJYTwQ0
[9位] Simply Red - If You Don't Know Me By Now
https://youtu.be/zTcu7MCtuTs
[10位] Amii Stewart - Knock On Wood
https://youtu.be/vZV9pDeoajA
[11位] David Lee Roth - California Girls
https://youtu.be/nQAuo2SGJuA
[12位] Boys Town Gang - Can't Take My Eyes Off You
https://youtu.be/hvNdWwsAMzI
2022/05/30 09:47
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