少年隊「まいったネ 今夜」伝説のスーパーグループに欠かせない植草克秀の“キセキ”とは？

少年隊における植草克秀の存在感

7月24日は、少年隊・植草克秀の56回目となる誕生日だ。少年隊は、2022年現在活動休止となっているが、今でも邦楽ヒットの歴史や、ボーイズグループのダンスの軌跡を語る上で、必ず取り上げられるほどのスーパーグループでもある。

ただ、筆者個人としては、植草自身の魅力が今一つ正確に伝わっていないのではと思うことがある。現代のようにダンスが注目されるずっと前からハイレベルなパフォーマンスをしてきた錦織一清、スタイルの良さとストイックな努力によりその存在感を高めていった東山紀之… といった二人の評価には当然ながら何の異論もない。他方、植草については「笑顔が可愛い」「長寿ドラマに出ていた」といった点や、錦織や東山が発した悪友ならではのジョーク（パフォーマンス中の失敗談など）を真に受けたイジリなどが中心で、アーティスト単体としてはあまり触れられていない気がするのだ。

しかし、彼らのファンなら勿論、歌謡曲からJ-POPをこよなく愛するリスナーならお分かりのように、歌もダンスもハイレベルな少年隊の歌唱においては、間違いなく植草の存在が大きいだろう。意外だと思われた方は、試しに少年隊の楽曲を耳だけで楽しんでみれば、特にサビの高音が多くなるにつれて、彼の抜けの良い歌声がハッキリと聞こえてくることだろう。

特に、筒美京平が手がけた楽曲（シングルＡ面曲ならば「仮面舞踏会」「デカメロン伝説」「バラードのように眠れ」「Stripe Blue」「君だけに」「ABC」「じれったいね」）は、メロディーが細かく揺れつつ、明らかに全体の並びから高い音が飛び出すものが多く―― 例えば、「君だけに」なら、「♪君だけに～」の “に”―― これは、おそらく筒美が植草を狙い打ちして作曲したのではないかと筆者は考えている。なぜなら、野口五郎や岩崎宏美、太田裕美、河合奈保子、本田美奈子といった歌唱力に定評のある他の歌手でもこの傾向が見られるからだ。

しかも、少年隊の楽曲は、当時の振り付けを担当したボビー吉野も、楽曲のディレクションを担当した鎌田俊哉も、互いにダンスとボーカルが両立することを考えずに（笑）ひたすらハイレベルを極めたものを創り上げているので、人々はそれを目と耳で体験しては “奇跡の両立” にただただ感動しているのだろう。

植草のボーカルが際立つ「まいったネ 今夜」と愛される理由

特に評判なのが、1989年に発売されたシングル「まいったネ 今夜」だ。こちらは、「ハッとして！Good」や「チャールストンにはまだ早い」など田原俊彦のヒット曲を多数手がけた宮下智の作詞・作曲によるスウィング・ジャズ風に仕上げた歌謡ポップスだが、３人が向かい合って中心に集まったかと思えば、その数秒後にスタジオ空間いっぱいに広がったり… を、歌いながらスマートにやりこなしているのだ。

その様子は、2010年代から国内外で活躍するパフォーマンス・グループのs**t kingz（シットキングス）も、「歌いながら、これをやり遂げていることが凄い」と大絶賛している。その歌を３人が、息切れなく歌ってるのが見事なのだが、特に大サビの「♪Ah 夜更けのダンステリアで レイザリアム浴びながら～」以降で、植草のボーカルがより際立っている。

また本作は、「銀色のリムジン」「華やかなドレス」「夜更けのダンステリア」といった煌びやかな歌詞に加え、ゴージャスな曲調やパーフェクトに決める踊りなど、ともすれば “お芝居の中の1曲” のようになりそうなところ、ヒットソングの範ちゅうに絶妙に収めているのは、植草のキレの良さと愛嬌の良さ―― すなわちアーティスト性とアイドル性を兼ね備えた歌声ゆえの奇跡のバランスと言えるだろう。

なお、筆者が以前植草にインタビューした際、“自身がジョークのネタになっても、笑って許されますよね？（ファンは「本当はそうじゃないのに」と歯がゆいのでは？）” と尋ねたところ、

「それを聞いたみなさんが笑ってくれれば、いいんです。そこで怒り出したら、それはエンタテインメントじゃないんですよ」

… と、明るく返された。そんな二枚目半なキャラを演じつつ、パフォーマンスではカッコよく決めるというギャップも、今なおファンに愛され続ける大きな理由なのだろう。

記憶に新しい錦織一清とのサプライズ共演

そんな植草は、2020年にジャニーズ事務所を退所後、2021年の後半にランチタイム＆ディナーショー、2022年前半には、全国ツアーと続けざまに開催し、かつて少年隊の３人で歌い踊った楽曲を、若いダンサーたちを従えながら披露している。なお、2021年12月12日というデビュー記念日には、錦織とのサプライズ共演が新たな奇跡を生んだ。

３人で１曲歌い踊るにもハイカロリーな楽曲群を、たった１人で歌いきるだけでも凄いが、それを何曲も連ねてノンストップで歌い、さらには昼夜公演ではあえてセットリストをガラリと替えるなど、その更なる高みを目指す様子は、「ちょっとサービス過剰では…」とこちらが心配になるほどだ。しかも、その難易度の高い楽曲を50代半ばで、２時間以上歌い踊るわけだから、見ている方も大いに勇気づけられるはず。これもまた55歳（この7月24日で56歳）の奇跡だろう。

かっちゃんのボーカル力を深掘りしたいなら、この３曲がオススメ！

退所後の2021年には、YouTube（錦織と共同の「ニッキとかっちゃんねる」）、Twitter、Instagramと次々にSNSを始め、常にファンの反応をうかがってはセットリストや演出、時にはヘアスタイルの改善に取り組むなど、実に愛に溢れたコミュニティが形成されており、それもまた植草克秀という人柄なのだろうと肯ける。錦織は “踊れる演出家” やソロ歌手として、東山は役者やニュースキャスターとして、それぞれの道なき道を果敢に開拓しており、“ジャニー喜多川が手がけた最高傑作” の少年隊は、今なお最高な３人でいようと奇跡の軌跡を進化させ続けている。

なお、余談だが、7月24日は、植草の他にも久保田利伸(1962年)、河合奈保子（1963年）、20th Centuryの坂本昌行（1971年）なども誕生日であり、いずれも歌唱力に定評のあるアーティストばかりだ。しかも、植草同様に明るいキャラを見せつつも、歌ってみると予想を遥かに超えて上手いという点も共通している。この “歌うまの日” に生まれた人が知り合いや好きなタレントにいる場合は、要注目だ。

また、植草のボーカル力を少年隊のコアな楽曲から深掘りしたい方には、「Season Of Love」（アルバム『Prism』、発売中）、「氷の国」（アルバム『Heart to Heart 5years 少年隊…そして1991』収録、こちらは廃盤）、「My Little Simple Words」(アルバム『Wonderland』収録、こちらも廃盤）の３曲をおススメしたい。


Song Data
■ まいったネ 今夜 / 少年隊
■ 作詞：宮下智
■ 作曲：宮下智
■ 編曲：石田勝範
■ リリース日：1989年６月19日
■ オリコン最高位：１位
■ 推定売上枚数：19.9万枚
■ 100位内登場週数：12週

▶ 少年隊のコラム一覧はこちら！

2022.07.24