永遠の名曲「見つめていたい(Every Breath You Take)」が収録されたポリスのアルバム『シンクロニシティー』。
「見つめていたい」だけでなく素晴らしい楽曲が満載の80年代を代表する名盤ですよね。このアルバムからは3本のミュージックビデオが制作され、その3本全てが80年代を代表するといっても過言ではないほどのクオリティでした。そういった意味でも私にとっては存在感が別次元のアルバムなのです。
そのミュージックビデオ、すべてのディレクティングを託されたのがゴドレイ&クレーム。
以前モーフィングの項で紹介させていただいた元10ccのデュオで、ミュージックビデオの名ディレクターチームです。
83年にリリースされた『シンクロニシティー』はポリスにとって最後のアルバムでした。シングル「見つめていたい」は全米、全英ともに1位(全米では年間でも1位)と爆発的に大ヒット、その翌月リリースされたアルバム自体もあっという間に両国で1位を獲得します。
そんな商業的成功やアルバムの超のつくほどの完成度の高さを見ていると、なんだかバンドの最後を予見していたかのような「ふっきれて作っちゃいました」的なようなものを私は感じざるを得ませんでした。そう、ビートルズが『アビイ・ロード』を作った時のような…。
そしてその『シンクロニシティー』の成功に華を添えるように次々に名作ミュージックビデオが制作されていくのでした。
前置きが長くなりましたが、1本ずつ紹介していきましょう。まずは「見つめていたい」。デビューからシングル曲のほとんどはミュージックビデオが制作されましたが、演奏シーンやロケのおふざけシーンなどこれといって特筆されるべき作品はありませんでした。ポリスとしてはアーティストとディレクターが本腰を入れて取り組んだ作品が「見つめていたい」と言えるでしょう。
モノクロ映像のカッコ良さを存分に活かし、ノスタルジックな雰囲気を醸しつつも流麗なカメラワークと現代的なコラージュを駆使したまさに芸術的な内容。
これを制作するにあたり参考にされた一つの作品があります。『LIFE』誌のカメラマンで20世紀の偉大な写真家のひとりとして知られるジョン・ミリがレスター・ヤングらのジャズセッションを撮影したショートフィルム『ジャミン・ザ・ブルース』(1944年)。まさにこれがお手本だったわけです。
煙草の煙がくゆる灰皿のショットがスネアにオーバーラップしていく「見つめていたい」の冒頭シーンも素晴らしいですが、ハットのアップから始まるこちらも素敵です。ここでもやっぱり煙草の煙が効いてますね。連続写真を得意としたジョン・ミリによるアーティストの重ね写しなど当時としては斬新な技法も用いられてますが、何より構図が素晴らしすぎる。現在においてもすべてのミュージックビデオのお手本として絶対見逃せない作品のひとつでしょう。
さて「見つめていたい」ですが、第1コーラスのサビに差しかかる時、カーテンが開きピアノと奏者が出現するところが一つ目のハイライトと言えるでしょう。
黒が支配していた白黒映像が一瞬だけ白の支配に逆転します。サビになると元の黒中心に戻りますが、サビが終わると再び白の支配。窓では清掃人が窓拭きをしてますが、ピアノはもうなくなっていて、さりげなくドラムが鎮座してます。
ここでのドラムのバスドラに注目しておいてください。この段階ではバスドラに演出はありません。そして曲の終盤、再び同じ構図になるのですが、ここでのバスドラは明らかに「白い円」を意識させます。窓枠の「白い円」と対比させながらさらに窓枠の方をオーバーラップ、さらにスネアにオーバーラップ、そして最後には灰皿に戻るという強引かつ圧倒されるエンディング。
わざとゆっくりではなく灰皿の映像をポートレイトのように置き換えるような切り替え方。そしてズームアウト。
うーん。溜息が出ますね。
この作品で撮影のダニエル・パールが第1回MTVミュージックビデオアワーズの撮影賞を受賞、既にミュージックビデオ監督として評価されていたゴドレイ&クレームも更にその地位を強固なものとしました。マイケル・ジャクソンのエンターテインメント性が高いミュージックビデオも素晴らしいですが、このような決して派手ではないけれども芸術性の高いミュージックビデオにもやっぱり魅了されます。
勿論楽曲だけでも満足する作品ではありますが、私にとってやっぱりこの映像抜きでは成立しないですね。ライヴでこの曲を演奏する時でも、スティングにはウッドベースを抱えながら歌って欲しいもんです(笑)。
後編に続く
2018.01.17