昔は、海外のアーティストのパフォーマンスを見るためには、極端に言ってしまえば来日公演を切望する以外ありませんでした。
ミュージックビデオが流行した80年代に1曲のパフォーマンスは見られてもライヴをまるまるテレビで見ることはなかなか叶わず、ラインナップ的には乏しいライヴ作品の VHS やレーザーディスクを高価で購入するくらいしか道はなかったのです。
それでも見たい長尺の海外アーティストのパフォーマンス。そうだ、音楽映画ならレンタルビデオで見られる!
ということで、『ウッドストック』やザ・バンドの『ラスト・ワルツ』、ストーンズの『レッツ・スぺンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』、ウイングスの『ロック・ショウ』などなど、いろいろ借りてきて観たもんです。そんな音楽映画のなかで私が衝撃を受けた1本。それが、トーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』です。
85年の日本公開時はミニシアター中心でのロードショー。中学生だった私はまだミニシアターなどよくわからず、映画館での鑑賞を逃し、レンタルリリースを待ち続けなんとか観ることができました。「ライヴ映画が見たい」という気持ちが強すぎてトーキング・ヘッズというバンドもあまり知らなかったという「順番が違うだろ」というツッコミを受けそうな状況下での視聴。
トーキング・ヘッズといえば実際、日本ではまだそれほど知名度は高くなく、この『ストップ・メイキング・センス』以降、CM(サントリー ヨーハイ)に出演したりして広まったように記憶しています。私も『ストップ・メイキング・センス』と次作のアルバム『リトル・クリーチャーズ』で完全にファンとなりました。
で、肝心の映画の中身のほうですが、もう強烈な印象。ここで繰り広げられるパフォーマンスは、私がそれまでに知っていたコンサートの概念には全くあてはまらないものだったのです。
監督は『羊たちの沈黙』『フィラデルフィア』で知られるジョナサン・デミ。トーキング・ヘッズのライヴを見て衝撃を受けたジョナサン・デミが、ミュージカルなどが行われるハリウッドの劇場を使って収録しました。
ちなみにジョナサン・デミは音楽関連では、ニール・ヤングのドキュメンタリーやニュー・オーダーの『パーフェクト・キッス』のMVなどを手掛けたりもしています。また、70年代には『刑事コロンボ』で1本監督しています(美食の報酬、というエピソードでコロンボ・ファンからはそんなに支持されてませんが、けっこう私は好き)。
それでは、本題。
後から知った情報も踏まえて、「ストップ・メイキング・センス」の凄さをいくつかのポイントで私なりにまとめてみました。
❶まず、オープニングのクレジットのタイポグラフィー(字のデザイン)がスタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情」風。ていうかまんま。
❷デヴィッド・バーンがひとりで登場するのですが、ステージの照明が明るいまま。いわゆるピンスポを中心とした照明ではない。劇場のステージ裏そのものをわざと見せるセット。
❸ラジカセのリズムトラックをバックに、デヴィッド・バーン一人のアコギ弾き語り「サイコ・キラー」でスタート。デッキシューズにスーツのデヴィッド・バーンとラジカセを置いてリズムをとる足元のショットが異様にかっこいい。
❹1曲ずつバンドメンバーと楽器が加わっていくという演出。スタッフがドラムセットをレールに乗せて動かすさまも撮影。
❺そうしてサポートメンバーも含めて9人揃うのですが、パーラメントのバーニー・ウォーレル、ブラザーズ・ジョンソンのアレックス・ウィアーなどファンク系のサポートが鉄壁。
❻シェードランプをマイクスタンドに見立てたり、メンバーがステージを駆け回ったりと振り付け、アクションが個性的かつアクティヴ。
❼そんなステージアクションの中でもひときわ強烈なのが「ワンス・イン・ア・ライフタイム」でのデヴィッド・バーンの痙攣アクション。ジョナサン・デミ監督による影の使い方と長回しも印象的。
❽デヴィッド・バーンを除くメンバーでトム・トム・クラブ「悪魔のラヴ・ソング(Genius Of Love)」のパフォーマンス。ティナ・ウェイマスのガニ股ダンスがキュート。
❾「ガールフレンド・イズ・ベター」でのデヴィッド・バーンのぶかぶかスーツ。この映画とトーキング・ヘッズを世に知らしめたシーンでしょう。今見ても目を奪われます。
❿ライヴのエンディングとともに映画が終了。MC らしい MC もインタビューも台詞も一切なかったことに気付きます。それでもちゃんと映画を1本観終わった感覚。
これら以外にもいろんなネタとアイデアが詰まっていますが、多すぎるので割愛。とにかく見ごたえは充分です。ライヴ作品というより映画として観ていただきたいので部屋を暗くして DVD を観ていただくことをおススメします。
劇場公開の7年後、ジョナサン・デミ監督が “サイコキラー(猟奇殺人鬼)” を扱った「羊たちの沈黙」で名声を広げることになるのは偶然なのでしょうか…。いずれにせよ、私にとっては「羊たちの沈黙」以上の衝撃をすでに受けていたというわけです。
※2017年3月20日、21日に掲載された前・後編の記事を一本化しアップデート
2019.04.24
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