北国の田舎者だからか、若い頃は都会的なバンドに憧れを見出したりしていたが、一方では田舎っぽいバンドにシンパシーを覚えることもあった。というわけで、今回は英国の北国、スコットランド出身のバンド、シンプル・マインズのお話。 初めてシンプル・マインズの曲を耳にしたのは、1982年、アルバム『黄金伝説(New Gold Dream)』からシングルカットされた「さらば夏の日(Someone Somewhere in Summertime)」。ずいぶんとアンニュイなニューウェーヴだなあ… と思ったのを今覚えている。 しかし、次のアルバム『スパークル・イン・ザ・レイン』で、このバンドは文字通り “スパークル(火花)” のごとく弾けた。メロディの切なさを残しつつ、アンニュイ色は消え去っていた。 このアルバムの何がすごいって、残響が力強いことだ。この頃から売れっ子プロデューサーとなるスティーヴ・リリーホワイトのグッドジョブでもあるけれど、ギターの音も鍵盤の音も、ズルズルとあとに引く見事なエコー処理。ドラマーが二人いるんじゃないかと思えるほどリズムも迫力満点で、当時高校3年だった自分はとにかく圧倒された。一曲目の「アップ・オン・ザ・キャットウォーク」からして、押せ押せだ。 これをステップにして、シンプル・マインズは「ドント・ユー?(Don't you forget about me)」を全米シングルチャートのナンバーワンに送り込み、続くアルバム『ワンス・アポン・ア・タイム』も大ヒットさせる。そんな成功の勢いに乗って、実現した1986年の来日公演は、音の渦に巻き込まれるようで、すごく高揚した。 しかし、である。ボーカルのジム・カーがMCで何を言っているのか、まったくわからない。テレビでインタビュー映像を見たりもしたが、他のアーティストの発音と比べても、やっぱり聞き取れない。で、ふと気づいた。“あ、この人も訛ってるな” と…。田舎者としては共感せざるをえないじゃないか。 この時をピークにしてシンプル・マインズはキャリアの安定期に入るのだが、安定してしまった田舎者は、とかくかっこ悪く映りがち。 1995年に発刊され、映画化もされたニック・ホーンビィの小説『ハイ・フィデリティ』には、若くて尖った趣味を持つレコ屋の店員が、恋人に “シンプル・マインズなんか、聴いちゃいけないんだよ” と諭す場面があった。つまり、この頃の若者には、彼らはダサいバンドと受け止められていたのだ。嗚呼…。 とはいえ、ダサかろうがそうでなかろうが、一度好きになったモノに入れ込み続けるのも田舎者の特性だ。一昨年リリースされた『スパークル・イン・ザ・レイン』のリマスター箱を買って、改めて聴いたら高校時代に体験したあの興奮が甦ってきた。 今年の夏、とあるクラブイベントに行ったら、『スパークル~』の収録曲「ウォーターフロント」が大音響で鳴り響き、我を忘れて踊り狂ったさあ。好きな曲の渦に巻き込まれたら、やっぱり高揚するべ?
2017.10.18
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YouTube / SimpleMindsVEVO
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