1994年 3月5日

永瀬正敏「私立探偵 濱マイク」は 松田優作の工藤俊作であり 萩原健一の木暮修である

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映画「我が人生最悪の時 THE MOST TERRIBLE TIME IN MY LIFE」公開日

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第6回東京国際映画祭で上映された「我が人生最悪の時」


1993年9月24日から渋谷東急文化村で行われた第6回東京国際映画祭。国際色に富んだ新進気鋭の有望作品が数多く上映される中、永瀬正敏主演『我が人生最悪の時 THE MOST TERRIBLE TIME IN MY LIFE』は、アジア秀作映画週間の中で特別上映された(公開は1994年3月5日)。

後に1995年公開『遥かな時代の階段を The Stairway to the Distant Past』、1996年公開『罠 THE TRAP』と併せて永瀬の代表作となる私立探偵 濱マイクシリーズの起点だ。2002年から放送されたテレビシリーズでは全12話で毎回異なる監督を迎え入れ1話完結のスタイルで放送。テレビドラマとしては異例の16ミリフィルムでの撮影が行われ、映画人永瀬正敏の美学が貫かれた。

『我が人生最悪の時』は日活映画のオマージュとも感じられるモノクロ、シネマスコープサイズでの上映、笑いあり涙ありの無国籍痛快娯楽アクション巨編だ。立体感が際立つモノクロの映像の中で悩み、時には傷つき、暴れ回る濱マイクを演じる永瀬は当時27歳。往年の日活スターさながらの躍動感が漲っていた。

後々のテレビシリーズでは革のコートにサングラス、ラバーソウルといったスタイルで定着していくが、こういった部分のこだわりも永瀬ならではのものだろう。ディティールにこだわり、パーソナルな部分を明確に打ち出すことにより、役者としてのスタンスを少しずつ確立させていく。

ロックンロール黎明期のオマージュ溢れるジム・ジャームッシュ監督作『ミステリー・トレイン』への出演、山田洋次監督作『息子』では、T-REXのTシャツを着て、自室を映すワンシーンではRCサクセションやクラッシュのレコードが小道具として使われた。こういった場面にも自身の音楽的価値観を打ち出すことで役者としての唯一無二の個性を際立たせてくれた。

永瀬正敏自身がリリックを紡いだ主題歌「キネマの屋根裏」


そんなこだわりがシンガーとしても色濃く打ち出されているのが、この『我が人生最悪の時』であり、自身が歌う主題歌「キネマの屋根裏」も自らでリリックを紡ぎ、彼が敬愛するミュージシャンを集結させ、レコーディングに望んだ。

「キネマの屋根裏」は1993年6月23日にリリースされたアルバム『CONEY ISLAND JELLYFISH』に収録されている。作詞:MASATOSHI “EARL” NAGASE(永瀬正敏) 、作曲:森山達也(THE MODS) 演奏:ザ・ヴィンセンツ。ヴィンセンツは元ヒルビリー・バップスの川上剛を中心に結成された新進気鋭のロカビリーバンドだった。



元々、ヒルビリー・バップスは永瀬のバックバンドを探していたキティ・レコードのスタッフの目に留まりデビューに至ったという経緯がある。永瀬も出演作である国民的映画『男はつらいよ 寅次郎の青春』の中で彼らの楽曲、「ビシバシ純情」を歌うワンシーンが設けられた。

永瀬の盟友とも言える川上は当時の状況について次のように述懐する。

「初めてリハに入った日に永瀬はすでに歌詞を作ってきていた。彼の歌う歌詞の世界観がすんなりと頭に入ってきて、アレンジもスムーズに組み立てることができた」

―― と。その歌詞の世界観こそが、スクリーンの中で暴れ回る濱マイクそのものだった。レトロ感溢れる映画館の2階に事務所を構え、自らのアイデンティティのように家族、友人を愛し、トラブル続きの毎日のキツさを雨で洗い流し、金や名声ではないプライドを持って生きていくという濱マイクそのものだった。

等身大の人物として濱マイクを演じていこうとする意気込み


歌詞の中にある――

 ソーダ水の中でハジケ合う
 希望と欲望と絶望
 あの娘を透かしたグラスの向こう
 ブリキの指輪が光った

―― という一節にもそんな映画の世界観が凝縮されていた。それだけ永瀬がこの映画に入れ込んでいたことが分るし、等身大の人物として濱マイクを演じていこうとする意気込みも感じられた。しかし、その後濱マイクが独り歩きを始め、自身の代表作とも言えるスタンスで今なお多くのファンに愛されるキャラクターになることを永瀬は予測していたのだろうか…。

『我が人生最悪の時』東京国際映画祭で特別上映されたあの日、僕も偶然その会場に居合わせた。エンドロールが流れ始めると客席からは拍手喝采が巻き起こった。理屈抜きに、魂を揺さぶる映画って本当に素晴らしい! と思ったに違いないだろう。

この瞬間、作品の中の濱マイクは観客ひとりひとりの心の中で歩み始めた。あれから30年。濱マイクは、ショーケンが『傷だらけの天使』の中で演じる木暮修のように、松田優作が『探偵物語』の中で演じる工藤俊作のように、時を経ても色褪せないヒーローのひとりとして僕の心の中にも生き続けている。

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2023.07.15
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カタリベ
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