ロックにおける2枚組のオリジナルアルバムは、60年代のボブ・ディラン『ブロンド・オン・ブロンド』、クリーム『クリームの素晴らしき世界』(Wheels of Fire)、ジミ・ヘンドリックス『エレクトリック・レディランド』、ビートルズ『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』など数多く名盤が存在する。70年代以降でもローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』やザ・フー『四重人格』、全世界で3,000万枚を売ったピンク・フロイド『ザ・ウォール』などやはり名盤揃い。他にもあげればキリがない。
まず、先行シングルとしてリリースされた「Don’t Leave Me」が、複雑な構成を持ったスケールの大きなハードロックナンバーだった。これに加え、冒頭に配された「LOVE IS DEAD」は、電話のコールと会話で始まるファンクナンバー。数原晋やジェイク・H・コンセプションら生のブラスセクションに加え、間奏の松本のギターもかなりハードなプレイを聴かせる。
さらに「Sweet Lit’ Devil」ではレッド・ツェッペリンの「ハートブレイカー」の間奏が現れたり、「SLAVE THE NIGHT」の間奏ではジミ・ヘンドリックス「リトル・ウイング」のイントロが演奏され、「farewell song」ではブラスのイントロに始まり、コーダではビートルズ「ヘイ・ジュード」を意識したフレーズが登場したりと、明確に松本が影響を受けた洋楽ロックが随所に挟み込まれている。
「LADY NAVIGATION」をはじめとするリメイク作品に注目
そして、彼らの意欲を強く感じさせるナンバーが、リメイク作品。まず「SLAVE TO THE NIGHT」だが、これは彼らのデビューシングル「だからその手を離して」のカップリングに収録された「ハートも濡れるナンバー〜stay tonight〜」の全英語詞バージョン。曲の構成も大幅に変更され、ブルース色の強い演奏になっている。
この曲も一度、91年5月に発売されたミニアルバム『MARS』で「LADY NAVIGATION〜Cookie & Car Stereo Style〜」としてリメイク、ここですでに英語詞バージョンに変貌しているが、今回曲構成を変えたことで、元の曲にあった陽キャ感は後退し、ブルージーなロッカバラードに大胆な変貌を遂げている。エンディングで、アコギがサビのフレーズの一節を弾いて終わるのもスマートでかっこいい。
実験性という意味では、6分近い長尺のギター・インストゥルメンタル「Strings of My Soul」も印象深い。さらに、詞も曲も過激で攻撃的なハードロックチューン「JAP THE RIPPER」は、ある意味シングル曲「Don’t Leave Me」と対をなす実験作だろう。
次のステップに進んでいこうとする明確な意志表明
稲葉浩志の歌詞にも変化が見られる。それまでのぶっ飛んだ奔放な詞作とは異なり、ブルージーな曲調に応えるかのように、内省的な作品が目立つ。「LOVE IS DEAD」や「MY SAD LOVE」では失恋を引きずる男の心情を描き、「未成年」では大人の世界に馴染めない少年の悶々を歌い、「春」では禁断の恋をテーマにした。
実際、本アルバムを経て、96年には松本がROCK'N ROLL STANDARD CLUB BAND 名義のアルバム『Rock’n Roll Standard Club』を発表。ここでは、ホワイトスネイクやマイケル・シェンカー・グループ、ゲイリー・ムーアなど、80年代に一時代を極めたハードロック系バンドの作品や、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリン、ジェフ・ベックら60〜70年代のレジェンドたちの楽曲をカバー。これも『THE 7th Blues』あっての展開だったと振り返って理解できる。