1994年 3月2日

【ミリオンヒッツ1994】B'z「The 7th Blues」人気絶頂期にルーツ回帰した驚異的アルバム!

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リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.6
The 7th Blues(アルバム)/ B'z
▶ 発売:1994年3月2日
▶ 売上枚数:163万枚

前作から1年5ヶ月ぶり。B'z7枚目のオリジナルアルバムは2枚組


今からちょうど30年前にあたる1994年3月2日、B’z 7枚目のオリジナルアルバム『The 7th Blues』がリリースされた。アルバムとしては前作『RUN』から約1年5ヶ月ぶりのリリースとなったが、これまでと異なる点は、2枚組、全20曲というボリュームにある。

ロックにおける2枚組のオリジナルアルバムは、60年代のボブ・ディラン『ブロンド・オン・ブロンド』、クリーム『クリームの素晴らしき世界』(Wheels of Fire)、ジミ・ヘンドリックス『エレクトリック・レディランド』、ビートルズ『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』など数多く名盤が存在する。70年代以降でもローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』やザ・フー『四重人格』、全世界で3,000万枚を売ったピンク・フロイド『ザ・ウォール』などやはり名盤揃い。他にもあげればキリがない。

日本でもサザンオールスターズ『KAMAKURA』、渡辺美里『Lovin’ you』など、2枚組のオリジナルアルバムがヒットしているが、CD時代に突入、1枚に収録される曲数が増えたこともあり、2枚組形式でのリリースは減っていく。その中でのB’z『The 7th Blues』のリリースは、ちょっとしたニュースであった。

松本孝弘と稲葉浩志のコアな部分を軸にしたサウンド作り


それまでシングルのメガヒットを連発してきたB’zが、2枚組アルバムを出す。それは、松本孝弘と稲葉浩志の旺盛な創作意欲が溢れ出て、この曲数になったであろうことがわかる。

また、本作はそれまでのように、ライブツアーなどの合間に制作するのではなく、初めて、レコーディングに専念して作られたアルバムでもある。前年の大ヒットシングル「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」「裸足の女神」が未収録なのも、まずコンセプトありきでアルバム制作に挑んだことが伺えるのだ。

一聴してわかるのは、B’zがそれまでの主流だった、キャッチーなメロディーを持つ打ち込みのダンサブルな楽曲から、ヘビーなサウンドへ舵を切ったこと。明らかにアメリカン・ハードロックの影響下にある、それもブルース要素を強めた重厚なナンバーが並ぶ内容となった。

こういった傾向は、最初にハードロックに接近した92年のアルバム6作目『RUN』の頃から少しずつ見え始めていた。続く『FRIENDS』はストーリー性のあるコンセプト・ミニアルバム。そしてこの『The 7th Blues』へと至る流れは、松本と稲葉の音楽性のコアな部分を軸にしたサウンドを作ろうという意図が感じられる。

従来のB’zの楽曲とは一線を画す手応えの楽曲が並ぶ


まず、先行シングルとしてリリースされた「Don’t Leave Me」が、複雑な構成を持ったスケールの大きなハードロックナンバーだった。これに加え、冒頭に配された「LOVE IS DEAD」は、電話のコールと会話で始まるファンクナンバー。数原晋やジェイク・H・コンセプションら生のブラスセクションに加え、間奏の松本のギターもかなりハードなプレイを聴かせる。

「未成年」のエンディングで見られる、サンプリング・ループの使用や、当時フュージョンバンド “DIMENSION” に在籍していた、小野塚晃によるフリージャズ風のピアノソロも新鮮。ストリングスの長いイントロで始まる「赤い河」や、強力なディストーションギターとハモンドオルガンが印象的な「WILD ROAD」、ブルース進行による関西弁の「もうかりまっか」など、従来のB’zの楽曲とは一線を画す手応えのある作品が並んだ。

さらに「Sweet Lit’ Devil」ではレッド・ツェッペリンの「ハートブレイカー」の間奏が現れたり、「SLAVE THE NIGHT」の間奏ではジミ・ヘンドリックス「リトル・ウイング」のイントロが演奏され、「farewell song」ではブラスのイントロに始まり、コーダではビートルズ「ヘイ・ジュード」を意識したフレーズが登場したりと、明確に松本が影響を受けた洋楽ロックが随所に挟み込まれている。



「LADY NAVIGATION」をはじめとするリメイク作品に注目


そして、彼らの意欲を強く感じさせるナンバーが、リメイク作品。まず「SLAVE TO THE NIGHT」だが、これは彼らのデビューシングル「だからその手を離して」のカップリングに収録された「ハートも濡れるナンバー〜stay tonight〜」の全英語詞バージョン。曲の構成も大幅に変更され、ブルース色の強い演奏になっている。

元々は、92年のコンサートツアー『B’z LIVE-GYM Pleasure ’92 "TIME" 』で披露された別バージョン「STAY TONIGHT」のアレンジをベースにしたもので、そちらは音源化されていないが、翌年のツアーでも演奏され、その際のツアーをソフト化した『LIVE RIPPER』に、演奏の一部が収録されている。

もう1曲、1991年3月にリリースされた8作目のシングル「LADY NAVIGATION」のリメイクバージョンも収録。初のミリオンを達成したシングルだが、元の打ち込みによるダンスビートを、アコースティック編成に変え、スローナンバーとして生まれ変わった。

この曲も一度、91年5月に発売されたミニアルバム『MARS』で「LADY NAVIGATION〜Cookie & Car Stereo Style〜」としてリメイク、ここですでに英語詞バージョンに変貌しているが、今回曲構成を変えたことで、元の曲にあった陽キャ感は後退し、ブルージーなロッカバラードに大胆な変貌を遂げている。エンディングで、アコギがサビのフレーズの一節を弾いて終わるのもスマートでかっこいい。



実験性という意味では、6分近い長尺のギター・インストゥルメンタル「Strings of My Soul」も印象深い。さらに、詞も曲も過激で攻撃的なハードロックチューン「JAP THE RIPPER」は、ある意味シングル曲「Don’t Leave Me」と対をなす実験作だろう。

次のステップに進んでいこうとする明確な意志表明


稲葉浩志の歌詞にも変化が見られる。それまでのぶっ飛んだ奔放な詞作とは異なり、ブルージーな曲調に応えるかのように、内省的な作品が目立つ。「LOVE IS DEAD」や「MY SAD LOVE」では失恋を引きずる男の心情を描き、「未成年」では大人の世界に馴染めない少年の悶々を歌い、「春」では禁断の恋をテーマにした。

もちろん、従来のキャッチーなメロディー+陽気な歌詞、という点では「おでかけしましょ」や「ヒミツなふたり」で、遊び心満載の稲葉節が炸裂。さらに「破れぬ夢をひきずって」や「farewell song」には、次のステップに進んでいこうとする明確な意志表明が感じられるのだ。

実際、本アルバムを経て、96年には松本がROCK'N ROLL STANDARD CLUB BAND
名義のアルバム『Rock’n Roll Standard Club』を発表。ここでは、ホワイトスネイクやマイケル・シェンカー・グループ、ゲイリー・ムーアなど、80年代に一時代を極めたハードロック系バンドの作品や、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリン、ジェフ・ベックら60〜70年代のレジェンドたちの楽曲をカバー。これも『THE 7th Blues』あっての展開だったと振り返って理解できる。

実験と原点回帰とセールス面を全て成功させたアルバム


言うなれば『The 7th Blues』は、松本と稲葉の、ルーツ開示的なアルバムなのである。日本のロックは、必ず洋楽のロックをベースにした音作りが基本にあり、それがアーティストやバンドの音楽的ルーツを知る上でも重要な要素である。

だが、B’zの場合、これまであまりルーツ的な部分は開示されておらず、その意味でも本作が新たなスタート地点である、という印象も受けた。ただ、影響を受けた洋楽が割とわかりやすい形で引用されているため、洋楽ファンからは否定的な意見もあったものの、特に松本のギタープレイがどのあたりに由来しているのか、何に影響を受けていたのかが、明確な形でわかる作品群でもあった。

当然、それまでのキャッチーでダンサブルな打ち込み系ロックに慣れ親しんだファンからは戸惑いの声もあった。しかし、サウンド面での変貌はあったものの、曲調のキャッチーさ、掴みのフレーズの上手さに関しては、それ以前と変わらぬ魅力がある。結果は2枚組ながら160万枚以上を売るビッグセールスを記録。人気絶頂期に敢えて自分たちのルーツ音楽に回帰する、という冒険をやってのけたB’zの試みは成功を収めた。

振り返れば、本作が現在に至るまでの大きな転機だったと言えるだろう。実験とルーツ回帰とセールス面を全て成功させた、驚異的なアルバムであったのだ。

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2024.03.14
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