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福山雅治のシングル「IT'S ONLY LOVE / SORRY BABY」発売日
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1994年のコラム
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リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.７
福山雅治 / IT'S ONLY LOVE
作詞：福山雅治
作曲：福山雅治
編曲：斎藤誠
発売：1994年３月24日
売上枚数：117.6万枚
福山雅治の「IT'S ONLY LOVE / SORRY BABY」がリリースされたのは1994年３月24日。この曲は福山が初めてオリコンシングルチャートの１位を獲得し、同時に初のミリオンセラーを記録した楽曲である。
歌詞は、永遠だと思っていた愛が破局を迎え、ひとり海を訪れた青年のハートブレイクが謳われている。ただ、恋人の死 ＝ 永遠の別れにも聴こえる内容のため、2011年の東日本大震災後にこの曲を歌う際は、歌詞を一部変えて歌っている。
タイトルはザ・ビートルズの「イッツ・オンリー・ラヴ 」から拝借したそうだが、ビートルズへのオマージュを思わせる曲調でもなく、ミディアムテンポのウエストコースト風フォークロック。イントロからＡメロまではフィル・スペクター風サウンドの香りも漂い、大らかな曲調と、わかりやすいメロディーは初期の福山らしい持ち味だ。
奇をてらったコード進行や音の運びもなく、本人の音域に則して、無理なく滑らかに曲が流れていく。編曲の斎藤誠から「歌番組でいつもきつそうに歌っているので、楽に歌える曲を作ろう」という発想が持ちかけられ、それが具現化されたものだった。
福山の楽曲において、「IT’S ONLY LOVE」はメジャーアーティストとしての確固たる地位を築いた１曲だ。これはその２作前、93年６月にリリースされた「MELODY」のヒットが大きく影響しているのではないか。
「MELODY」は、福山が出演したフジテレビ系ドラマ『ひとつ屋根の下』の放送中にリリースされ、ドラマの大ヒットとも重なり、福山が音楽面でもブレイクを果たした楽曲でもあった。この曲で福山は初めて「売れるシングルを作りたい」と思って曲作りに挑んだという。前作「約束の丘」のセールスが本人的には今ひとつだったこと、また自身のポリシーに沿ったロックが今ひとつ届かなかったという反省を受けてのものだろう。
ドラマを見て福山のファンになったリスナーに、ストレートに届いた最初の楽曲でもあり、言い換えれば爽やかで男前、その実、骨太で芯のある青年という俳優・福山雅治のパブリックイメージと、シンガーソングライター福山雅治の作り出す楽曲が、ここでようやく合致したのだ。「MELODY」から「All My Loving」「IT’S ONLY LOVE」、そして「HELLO」と93年から95年の間に連打されたシングル曲は、誰にでも親しみやすいメロディーと、多くの人々に共感できる歌詞をもっている。
この音楽的な方向転換が、福山をメジャーアーティストにした最大の要因だ。
“天は二物を与えず” などと言われるが、天から二物も三物も与えられてしまったのが福山雅治という男。だが、それゆえ初期は、見た目で損をしていた部分も少なからずあった。ルックスの良さから俳優業のオファーが多く、なるべく演技の仕事は断り続けていたというが、結果としてそちらで先にブレイクしてしまったこともあり、一般的には俳優としての認知度と人気が先行していたことは否めない。
福山雅治は元々、ミュージシャンになりたくて故郷・長崎から有り金はたいて上京してきた男だった。その音楽的ルーツはTHE MODSやARBなどに大きな影響を受け、特にSIONをデビュー当時から敬愛していることは有名だ。
そのファーストアルバム『伝言』は、本人の希望で元ARBのギタリスト白浜久を迎えて制作。基本的に自身の音楽ルーツに忠実な骨太のロックを指向していたが、シングルは３作目、アルバムは次の『LION』までオリコンTOP100にチャートインしていない。
デビュー時の逸話で気になるのが、デビューが遅れた理由として、本人のキーに合わない曲を歌い続けたため声帯にポリープを患ってしまい、デビューが延期になったというエピソードである。本人のキーと合わない曲、というのは明らかに高いキーで歌っていたということだろう。
「IT’S ONLY LOVE」の曲作りの際、斎藤誠から「いつも歌いにくそうにしている」と指摘されたこととも合致する。ご存知の通り福山の地声は低く渋いため、歌やラジオを聴いている限り、爽やかなルックスとはややかけ離れた印象を持ってしまう。今では “イケボ” と呼ばれるタイプの声だが、若い頃、それもデビュー時はルックスと声のギャップを一致させる必要があったのかもしれない。
本人のやりたい方向性と、アーティスト、ソングライターとしての資質や可能性など、あらゆることがバラバラだった初期の活動を少しずつ修正し、あるべき方向に進めていったのがようやく実を結んだのが４枚目のアルバム『BOOTS』の頃。これ以降の楽曲と福山の低い地声は絶妙に合致し、男性の優しさや愛情表現の上で抜群の効果を発揮している。あの声を活かす曲調と言葉がようやく出来上がるようになったのだ。
メロディー制作に関しては、前述の斎藤誠ら先輩ミュージシャンたちのサポートやプロデュースも大きいだろう。そして作詞面では、あくまで想像だが、俳優としてドラマに出演することで、人間関係の機微や恋愛のリアリティを獲得していき、それが歌詞面にも反映していったように思える。
こういった成長のプロセスは、音楽ジャンルは異なるものの、尾崎豊や吉川晃司、あるいは森高千里のキャリアに近いものを感じさせる。音楽的なルーツはそれぞれ違うが、作曲面の肉付けや方向転換をデビューしてから行っていくことで、音楽面の幅を広げ、自身の作る楽曲がメジャーの土壌で受け入れられるようになっていくのだ。
ロックの初期衝動を忠実に守っていくこともロッカーとしてのあり方だが、作風を変化させ大衆に支持されて行く方向性もまたロック的である。自身の音楽観に確固たるポリシーがなければ、いかに売れ線を狙ったところで長くは続かないことは歴史が証明している。現在まで大活躍を続ける福山雅治が、大衆と斬り結び、大きな支持を受けた楽曲、それが「IT’S ONLY LOVE」だったのだ。
2024.03.24
福山雅治 / IT'S ONLY LOVE
作詞：福山雅治
作曲：福山雅治
編曲：斎藤誠
発売：1994年３月24日
売上枚数：117.6万枚
大らかな曲調と、わかりやすいメロディーの「IT’S ONLY LOVE」
福山雅治の「IT'S ONLY LOVE / SORRY BABY」がリリースされたのは1994年３月24日。この曲は福山が初めてオリコンシングルチャートの１位を獲得し、同時に初のミリオンセラーを記録した楽曲である。
歌詞は、永遠だと思っていた愛が破局を迎え、ひとり海を訪れた青年のハートブレイクが謳われている。ただ、恋人の死 ＝ 永遠の別れにも聴こえる内容のため、2011年の東日本大震災後にこの曲を歌う際は、歌詞を一部変えて歌っている。
タイトルはザ・ビートルズの「イッツ・オンリー・ラヴ 」から拝借したそうだが、ビートルズへのオマージュを思わせる曲調でもなく、ミディアムテンポのウエストコースト風フォークロック。イントロからＡメロまではフィル・スペクター風サウンドの香りも漂い、大らかな曲調と、わかりやすいメロディーは初期の福山らしい持ち味だ。
奇をてらったコード進行や音の運びもなく、本人の音域に則して、無理なく滑らかに曲が流れていく。編曲の斎藤誠から「歌番組でいつもきつそうに歌っているので、楽に歌える曲を作ろう」という発想が持ちかけられ、それが具現化されたものだった。
福山雅治をメジャーアーティストにした最大の要因は？
福山の楽曲において、「IT’S ONLY LOVE」はメジャーアーティストとしての確固たる地位を築いた１曲だ。これはその２作前、93年６月にリリースされた「MELODY」のヒットが大きく影響しているのではないか。
「MELODY」は、福山が出演したフジテレビ系ドラマ『ひとつ屋根の下』の放送中にリリースされ、ドラマの大ヒットとも重なり、福山が音楽面でもブレイクを果たした楽曲でもあった。この曲で福山は初めて「売れるシングルを作りたい」と思って曲作りに挑んだという。前作「約束の丘」のセールスが本人的には今ひとつだったこと、また自身のポリシーに沿ったロックが今ひとつ届かなかったという反省を受けてのものだろう。
ドラマを見て福山のファンになったリスナーに、ストレートに届いた最初の楽曲でもあり、言い換えれば爽やかで男前、その実、骨太で芯のある青年という俳優・福山雅治のパブリックイメージと、シンガーソングライター福山雅治の作り出す楽曲が、ここでようやく合致したのだ。「MELODY」から「All My Loving」「IT’S ONLY LOVE」、そして「HELLO」と93年から95年の間に連打されたシングル曲は、誰にでも親しみやすいメロディーと、多くの人々に共感できる歌詞をもっている。
この音楽的な方向転換が、福山をメジャーアーティストにした最大の要因だ。
福山雅治の音楽的ルーツはTHE MODSやARB、そしてSION
“天は二物を与えず” などと言われるが、天から二物も三物も与えられてしまったのが福山雅治という男。だが、それゆえ初期は、見た目で損をしていた部分も少なからずあった。ルックスの良さから俳優業のオファーが多く、なるべく演技の仕事は断り続けていたというが、結果としてそちらで先にブレイクしてしまったこともあり、一般的には俳優としての認知度と人気が先行していたことは否めない。
福山雅治は元々、ミュージシャンになりたくて故郷・長崎から有り金はたいて上京してきた男だった。その音楽的ルーツはTHE MODSやARBなどに大きな影響を受け、特にSIONをデビュー当時から敬愛していることは有名だ。
そのファーストアルバム『伝言』は、本人の希望で元ARBのギタリスト白浜久を迎えて制作。基本的に自身の音楽ルーツに忠実な骨太のロックを指向していたが、シングルは３作目、アルバムは次の『LION』までオリコンTOP100にチャートインしていない。
福山雅治の方向性が実を結んだ４枚目のアルバム「BOOTS」
デビュー時の逸話で気になるのが、デビューが遅れた理由として、本人のキーに合わない曲を歌い続けたため声帯にポリープを患ってしまい、デビューが延期になったというエピソードである。本人のキーと合わない曲、というのは明らかに高いキーで歌っていたということだろう。
「IT’S ONLY LOVE」の曲作りの際、斎藤誠から「いつも歌いにくそうにしている」と指摘されたこととも合致する。ご存知の通り福山の地声は低く渋いため、歌やラジオを聴いている限り、爽やかなルックスとはややかけ離れた印象を持ってしまう。今では “イケボ” と呼ばれるタイプの声だが、若い頃、それもデビュー時はルックスと声のギャップを一致させる必要があったのかもしれない。
本人のやりたい方向性と、アーティスト、ソングライターとしての資質や可能性など、あらゆることがバラバラだった初期の活動を少しずつ修正し、あるべき方向に進めていったのがようやく実を結んだのが４枚目のアルバム『BOOTS』の頃。これ以降の楽曲と福山の低い地声は絶妙に合致し、男性の優しさや愛情表現の上で抜群の効果を発揮している。あの声を活かす曲調と言葉がようやく出来上がるようになったのだ。
メロディー制作に関しては、前述の斎藤誠ら先輩ミュージシャンたちのサポートやプロデュースも大きいだろう。そして作詞面では、あくまで想像だが、俳優としてドラマに出演することで、人間関係の機微や恋愛のリアリティを獲得していき、それが歌詞面にも反映していったように思える。
大衆と斬り結び、大きな支持を受けた「IT’S ONLY LOVE」
こういった成長のプロセスは、音楽ジャンルは異なるものの、尾崎豊や吉川晃司、あるいは森高千里のキャリアに近いものを感じさせる。音楽的なルーツはそれぞれ違うが、作曲面の肉付けや方向転換をデビューしてから行っていくことで、音楽面の幅を広げ、自身の作る楽曲がメジャーの土壌で受け入れられるようになっていくのだ。
ロックの初期衝動を忠実に守っていくこともロッカーとしてのあり方だが、作風を変化させ大衆に支持されて行く方向性もまたロック的である。自身の音楽観に確固たるポリシーがなければ、いかに売れ線を狙ったところで長くは続かないことは歴史が証明している。現在まで大活躍を続ける福山雅治が、大衆と斬り結び、大きな支持を受けた楽曲、それが「IT’S ONLY LOVE」だったのだ。
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