3月21日

尾崎豊「十七歳の地図」社会の価値観が大きく変わっていく中で生まれた新人類の叫び

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日本のポップス史における忘れられてはならない名盤「十七歳の地図」


「十七歳の地図」は、1983年12月にリリースされた尾崎豊のファーストアルバムのタイトルナンバーであり、アルバムがリリースされてから3月後の1984年3月にアルバムからの2枚目のシングルカット曲として発表された。ただし、シングル化にあたってアルバムのバージョンとはミックスなどを変えてより聴きやすいテイクになっている。

「十七歳の地図」は、アルバム『十七歳の地図』を制作する中で最後に近いタイミングで作られた曲だという。尾崎豊のデビューに向けて共同作業をしていたプロデューサーの須藤晃は、アルバムタイトルを『十七歳の地図』にすると決めて、そのタイトルで曲を書くように尾崎に依頼した。そして書かれた歌詞を見た須藤は「これだよ」と叫び、アルバムのレコーディングを始めることを尾崎に告げたという。

ともあれ、この「十七歳の地図」、さらにはアルバムからのファーストシングルとなった「15の夜」、今も多くの人に愛されているバラードの名曲「I LOVE YOU」などが、尾崎が17歳の時にレコーディングされ、18歳になってすぐにリリースされたファーストアルバムに収められていたということには改めて感心する。アルバム『十七歳の地図』も日本のポップス史における忘れられてはならない名盤の1枚だろう。



社会の価値観も大きな変革期を迎えていた1983年


尾崎豊がデビューした1983年は、いろいろな意味で変わり目の年だった。身近なところでも、浦安に東京ディズニーランドがオープンしたり、前年に東北新幹線が開通するなど、日本人のアウトドア・レジャーの幅が大きく広がっていった時代だった。ファミリーコンピュータ(ファミコン)が登場したのもこの年だったし、CDが発売されたのもこの年と、インドアでの遊び方にも変化が生まれた年だった。

同時に、社会の価値観も大きな変革期を迎えていた。1982年には、俳優の穂積隆信が自らの体験を書いた『積み木くずし』がベストセラーになり、1983年には本間洋平の小説『家族ゲーム』が監督・森田芳光、主演・松田優作で映画化されて大ヒットしたが、これらはそれまでの日本の家族体制が危機に瀕していることに警鐘を鳴らする作品だった。

実は、日本の家族体制の崩壊は1960年代には始まっていた。それまでにも地方の若者が故郷を離れて仕事をするために都会に出ていくということはあった。それがこの時代に大規模な集団就職という形になり、戦後の高度経済成長を支える戦力となっていった。さらに、1960年代の後期から70年代にかけての団塊の世代を中心とした大学進学率の上昇にともなって、都会の大学に進学するために故郷を離れる動きも盛んになっていく。

こうして都会に出た若者たちの中には、故郷には帰らずそのまま都会で新たな世帯をつくる例も多く、その動きがそれまでの『サザエさん』に見られるような親子3世代が同居する大家族の体制にヒビを入れ、親子2世代だけの核家族と呼ばれる家族形態を増やしていくことになる。こうした家族形態の変化、さらには新しい世代と古い世代との結婚観、家族観、さらには社会常識の方換え方の違いが社会的なひずみとして広がっていく。

中学校、高等学校の暴力行為が社会問題に


世代間のライフスタイルや人生観のぶつかりあいは音楽の世界にも大きな影響を与えていく。
その典型が、1960年代後半から70年代に起きた、それまでの歌謡曲に対するフォーク、ロック、そしてニューミュージックへと続く動きだった。改めて当時の曲を振り返ってみれば、フォークやロックに限らず歌謡曲の側にも、時代の流れなかで揺れ動き、必死で頑張る若い世代の心情が感じとれる曲が少なくない。

こうした流れで見ていくと、世代間の価値観の違いがすれ違っていった1960〜70年代から、さらにねじれを大きくしていったのが1980年代と言えるだろう。

上の世代は、なにを考えているか理解できない存在として彼らに “新人類” というレッテルを貼ったけれど、彼らにしてみればどこに価値観を見出せばいいのか暗中模索だったのではないか。だからこそ彼らは “反抗” するしかなかったのではないか。まさに “荒れる学校” と呼ばれる中学校、高等学校の暴力行為が社会問題として取り上げられたのも、ちょうどこの世代がピークだった。

楽曲にリアルなメッセージを込めた若い世代、尾崎豊の登場




1965年に生まれた尾崎豊は、まさにこの世代が抱えざるを得なかった葛藤と真摯に向き合っていった。その想いを音楽に昇華させようと格闘したアーティストだったと言えるだろう。それは彼のデビューまでの経緯やその楽曲に込められた想いを見ても想像できるのだ。

しかし、こうした感想も今の時点で振り返ってみるから強く感じられることなのだろう。当時、「十七歳の地図」をはじめとする尾崎豊の楽曲を聴いた時に強く感じたのは、楽曲にリアルなメッセージを込めたシンガーソングライターの系譜を継ぐ若い世代が現れたという印象だった。

大人たちが決めた価値観に反抗する若い世代の想いが込められた曲は、それこそ1950年代のロックンロール黎明期から作られていた。そして “大人の価値観” に不信感をもった若者たちによって、それぞれの時代に思いをぶつける曲がつくられていった。“新人類” と呼ばれる世代のミュージシャンの中には、そうした時代に対する不信感を “パンク” というスタイルで表現したものもいた。ちなみに、アナーキーがデビューしたのが1980年、1982年にはスターリンがデビューし、有頂天も結成された。そして1983年にはラフィンノーズがインディーズデビューしている。

こうした日本のパンクロック・シーンが大きく盛り上がっていった時代に、尾崎豊は彼らに共通するスピリットを、ブルース・スプリングティーンにも通じるビートサウンドのなかに、フォーキーとも思えるメロディアスな曲調で表現していた。そこが僕にはとても興味深かった。

確実に同世代、そして続く世代の心を捉えた「十七歳の地図」


尾崎豊の登場を、当時大きく盛り上がっていたアイドルシーンや、コマーシャリズムを意識したポップシーンに対するアンチテーゼとして捉える見方もある。確かにそうした側面もあるとは思う。けれど僕には、尾崎豊はどこからともなく突然登場した未知の才能ではなく、むしろ1960〜70年代のロックビートに乗せて内省的な想いを描いていったシンガーソングライターの再来という感じ方の方が強かった。

1960〜70年代のフォークとロックが決して対立するものではなく、スタイルの違いに過ぎなかったように、尾崎の音楽もまた1980年代の若者による “反抗” をパンクとは異なるスタイルで表現したものなのだと思う。

ファーストアルバムも、シングルとなった「十七歳の地図」も、発表当時は大きなヒットにはならなかった。しかし、そこに描かれたメッセージは、確実に同世代、そして続く世代の心を捉えていき、発売されて10年後にアルバム『十七歳の地図』はミリオンセラーになっていた。

今を真剣に生きている人たちに、時代や世代を越えて届くリアリティ


「十七歳の地図」の “歌詞” には、自分が置かれた状況に対する “反抗” の叫びだけではなかった。それでも生きていくために必要な希望を探そうする意思も感じられる。

そんな、時代に対峙しながらも前向きになろうとする姿勢こそ、“今を真剣に生きている人たちに” 時代や世代を越えて届くリアリティだったのだと思う。そして、今聴いても彼の歌声には、その言葉を聴き手の心にストレートに届ける力を感じる。それこそが尾崎豊の稀有な才能なのだと思う。

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2024.03.21
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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