イギリスでは 12月25日を過ぎてもクリスマス
このコラムが出るころにはもう、世間は年末年始ムード一色だろう。おせちとかテレビの特別番組とか、そんなことで皆さんも頭がいっぱいなのでは。
しかし英国では、12月25日を過ぎてもまだクリスマス。翌26日は “ボクシング・デイ” と呼ばれ、この日もクリスマスを祝うことになっている。
そして1982年の12月26日は、アニメーション作品『スノーマン』が初めて英国のテレビでオンエアされた日だそうだ。
人々に愛されるレイモンド・ブリッグズの「スノーマン」
原作は1978年に出版された、英国人イラストレーター、レイモンド・ブリッグズによる絵本で、男の子が作った雪だるまが夜に動き出し、その子と一晩中遊んだけれど、翌朝溶けてなくなっていたという、夢の世界から強引に現実に引き戻されるような内容だ。
初放送の翌年にはアカデミー短編アニメ賞にもノミネートされるほどの人気作品となり、日本の中学生か高校生だった私も、断片的だがよくテレビで見かけたものだ。主題歌の「ウォーキング・イン・ジ・エアー」も、壮大なオーケストラに乗せたボーイソプラノが非常に印象的で、手をつないで空を飛ぶスノーマンと男の子の映像とセットになって、脳内に焼きつけられた。
イギリス人、どんだけ「スノーマン」好きなの?
時は流れて1998年のクリスマス。学生として英国に滞在していた私は、部屋で一人飲み食いしながらテレビを見て過ごしていた。そこに現われたのは『スノーマン』。「あらー、懐かしい!」と見入っていたのだが、最後に雪だるまが溶けているシーンで涙腺が決壊してしまったのだ。
実は、英国では1982年以来、毎年クリスマスに『スノーマン』がテレビで放映されているそうだ。
「イギリス人、どんだけスノーマン好きなの…?」
この国では日本人の私が思う以上に『スノーマン』が愛されているということを、テレビの画面に向かって号泣しながら、私は知った。
国民的アニメ「スノーマン」とデヴィッド・ボウイの関係
このように、国民的アニメとなった『スノーマン』。ファンなら既知の事実だが、このアニメの導入部分でデヴィッド・ボウイが登場するバージョンがある。最初の2年は、原作者のブリッグズが登場する映像が使われていたという。しかし、米国で売るためにはこれを作り替え、「ビッグネームを使おう」という話になり、白羽の矢が立ったのがボウイだったそうだ。
ボウイはもともとブリッグズのファンで、彼の作品『風が吹くとき』がのちにアニメ化されたときにも主題歌を担当している。このバージョンでは、アニメ本編に出てくる、スノーマンの模様が入ったかわいいマフラーを着けたボウイさんが堪能できるので、機会があればぜひご覧いただきたい。最高に尊いので。
そして、ボーイソプラノで歌い上げられる主題歌の「ウォーキング・イン・ジ・エアー」。アニメの本編で歌っているのは少年聖歌隊のメンバーだったピーター・オーティーで、同様に聖歌隊にいたアレッド・ジョーンズがカバーした1985年のバージョンは、全英5位を記録している。日本でなじみ深いのは、おそらくCMでも使われた後者の方だろう。
二人とも今では歌手として活躍する、アラフィフのいいオッさんである。当たり前だが、あの声はもう出ない。
そもそも「スノーマン」のテーマはクリスマスじゃなくて…
しかし、ブリッグズ本人の話では、『スノーマン』のテーマはそもそもクリスマスではなく、“死” だったという。言われてみれば確かに… “死” ネタに弱い私は泣くしかない。楽しいクリスマスなのに、こんな悲しい話を何度も何度も見たくなるのは、どういう心理なんだろう?
いろいろと意見はあると思うが、内容的には老若男女を問わず共感できるものだし、クリスマスのような家族が集まる時期にみんなで見るには最高のコンテンツじゃないかと思う。
このアニメは、作者の意に反してクリスマスの定番となってしまったが、家族や大切な人といっしょに、暖かい部屋でこれを見ながら(そしてワインでもひっかけながら)、いろいろと思いを馳せるのもいいだろう。雪だるまがいつか溶けてしまうように、永久不変のものなどないのだから。
このコラムを書くにあたり、久しぶりにアニメ本編を見てみた。始まった瞬間涙腺が決壊したのは年のせいなのか、感性にみずみずしさが残っているのか…。
どっちでもいい。今年も『スノーマン』に泣かされてやるわ。
2019.12.26