スターリンのことを初めて知ったのは音楽誌ではなく週刊誌だった。「全裸で絶叫、唾を吐き豚の臓物を客席に投げつける変態ロックバンド」などといった内容でサウンド以外の話題が中心だった。
掲載されている写真も上半身は裸、下半身は観客にジーンズを下ろされたのか自分で下ろしたのか、お尻が丸出しの遠藤ミチロウが、そんな格好でもマイクを握りしめて歌っている姿だった。なんでこんなことになってしまったんだろうかと不思議に思いながらも、その一枚の写真はスターリンのライブの熱気や匂いが強烈に伝わってくるものだった。
自主制作でリリースされた1stアルバム『trash』は1曲目の「解剖室」から聴いたことがない描写が続く。
解剖室は空いたか バラバラになって早く出ろ
ホラホラホラ お前の番だ
※「解剖室」より
冷蔵庫の中の中 開けてみたらば
ブタのキンタマ 牛のクソ 世界の便所
※「冷蔵庫」より
なるほど、これなら下半身丸出しになっていても不思議はないなと思いつつ、でもこのライブはそれなりの覚悟をして行かないといけないなとも思った。汗とツバまみれになるのも避けたいし、離れて見ていても豚の臓物が飛んでくるようだし。ライブは見たいがどうしたものかと思案していた矢先にラッキーなことが起きた。
なんとテレビ埼玉の『ミュージック・ニューウェーブ』という音楽番組でスターリンのスタジオライブが放送されたのだ。流石にテレビなので遠藤ミチロウも下半身丸出しにはならないが、自分の股間に手を突っ込んでモゾモゾしては何かを客席に投げつけている。なにをしてるんだろう?
しばらくその様子を見ているうちに気がついた。陰毛だ。ミチロウは自分の陰毛を毟って客席に投げつけていたのだった。テレビでも分かるぐらいなので1本や2本ではない。ん〜10本単位。投げるのは臓物だけじゃなかったのか!
そして見ている観客はなぜそこに来てしまったのか尋ねたくなるほど場違いな人たちばかり。来るんじゃなかったと言いたげな顔で凍りついたように椅子に座っている。
あの週刊誌の写真とは大違いだ。熱気が全く感じられない。このスタジオが「解剖室」ってやつなのか。ライブの最後にはミチロウが客席に飛び込んでいくのだがこの日は受け止めてくれる人もなく、まるでアンガールズの田中のように客席を荒らして行く―― そこに被せるように『ミュージック・ニューウェーブ』の楽しげなロゴが画面に映しだされ、パラパラとした投げやりな拍手で番組は終わる。
何もかもが噛み合わない放送事故のようなスタジオライブだった。でもミチロウはスタジオやテレビでライブを見ている人にこう言いたかったのだろう。バラバラニナッテデロ!!
歌詞引用:
解剖室 / ザ・スターリン
冷蔵庫 / ザ・スターリン
2018.04.18
YouTube / wa e
YouTube / humBERTO 42
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