11月28日

依頼は突然やってくる。山下達郎サンへの質問、考えてみない?

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photo:Warner Music Japan  
photo:Smile Company  

「山下達郎サンへの質問、考えてみない?」

仕事の依頼はいつも突然やってくる。電話の相手は、B誌のN編集長だ。昔から懇意にして頂いているので、何かお願いされたら、地球の裏側にでもいない限り、はせ参じることにしている。

話というのは、山下達郎サンの2018年のコンサートツアーのパンフレットに載せる「Q&Aコーナー」に、50個ほど質問を考えてほしいということ。同コーナーは、これまでもファンクラブの会報誌や『ぴあ』の特集などに度々お目見えした名物企画。硬軟織り交ぜた質問に答える達郎サンの軽妙洒脱な語り口が持ち味で、ファンの人たちには人気の企画らしい。

それが、なぜN編集長経由で僕に話が来たかというと、今年2月、B誌がラジオ番組『山下達郎のサンデー・ソングブック』の放送25周年を受けて特集を組んだところ、ご本人がいたく誌面を気に入られて、その流れでパンフの相談も事務所から編集部に持ち込まれたという。そこで面白そうな質問を考えそうなヤツは―― とN編集長が思いを巡らせ、僕の顔が浮かんだ次第。

「ぜひ、やらせてください。ただ、1つだけ問題が…」

「何よ」

「僕、山下達郎さんのコンサートに行ったことがないんです」

「あ、その辺は大丈夫」

聞けば、プロの音楽ライターとかではなく、むしろフラットな立場から質問してくれる人がいいという話だった。但し、ただ質問を考えればいいワケではなく、そこにインテリジェンスが欲しいと。ウィットやユーモアを入れてほしいと――。

「そういうのを考えさせたら、君が一番、適任だと思ってね」

「お任せください」

―― 困った。ハードルが上がった。むしろ音楽ライター目線でディープな質問を考えるほうがラクかもしれない。僕に求められたのは、“面白い質問” という極めて曖昧な感性なのだ。

こういう時、僕にできることは2つしかない。1つは “リサーチ”。幸い、N編集長が先方の事務所の担当の方に話をつけてくれて、過去の「Q&A」の資料を全てお借りできたので、まずはこれを読み込むことにした。極力、ネタかぶりは避け、達郎サンの地雷も回避して、なるべくご本人が饒舌になりそうな質問の傾向と対策を構築する。

そして、もう1つが―― “自分に寄せる”。そう、僕のエリアに、達郎さんのQ&Aコーナーを引き寄せるのだ。具体的には、僕が持ってるネタのストックから使えそうなヤツを抽出して、それを強引にQ&Aに当てはめる――。

かくして、50個の質問のアウトラインが固まった。


①ツアーパンフだけに、ライブネタを入れる

②僕の持ってる鉄板ネタを強引にQ&Aに加工してねじ込む

③時事ネタと絡めて、思い出話を語ってもらうロジックに

④レイ・ブラッドベリと岩谷時子に関する質問を入れる

⑤食べものネタは割とノッてくれるので、そこそこツッコむ

⑥無人島ネタ(無人島に何を持っていく?系)は地雷っぽいので避ける

⑦「クリスマス・イブ」に関する質問をする


―― 正直、⑦に関しては少し冒険だった。というのも、達郎サンはご自身の楽曲に順位や優劣をつけることを好まれず、その手の質問は過去のQ&Aでも、ことごとく撃沈していたからだ。でも、僕はどうしても「クリスマス・イブ」が山下達郎史上最高傑作であるという “言質” が欲しかった。どうしたら、その言葉を引き出せるだろう?―― と。

少々前置きが長くなったが、今日はクリスマス・イブです。イブと言えば、もちろん山下達郎サンの「クリスマス・イブ」。

そこで、今回はひょんなことから達郎サンのツアーパンフのお手伝いをさせてもらった僕の話を交えつつ、かの名曲について語りたいと思います。


 雨は夜更け過ぎに
 雪へと変わるだろう
 Silent night, Holy night
 きっと君は来ない
 ひとりきりのクリスマス・イブ
 Silent night, Holy night


結局、僕は予備も入れて60個の質問を考え、事務所に送った。間もなくして担当者の方から「面白いです!」と返事が来た。ホッとした。ただ、その直後の言葉が僕を少し不安にさせた。「これからレコーディングの合間を見て、タイミングを計って本人に渡します」

どうしよう―― レコーディングの調子が上がらず、機嫌の悪い時にふざけた質問を見せられ、キレたりはしないだろうか。

2週間後、ゲラが上がってきた。僕の質問は52問が採用され、全てに達郎サンが手書きで答えてくれていた。くだらない質問にもちゃんとリアクションがある。読んでいると、段々と達郎さん本人が喋っているような感覚になった。そう、いつもの「サンソン」で聴く、あの噺家のような喋りだ。

6月29日、NHK ホール。僕は事務所の御好意で、山下達郎サンのコンサートに招待された。初めて観るステージは圧巻だった。次から次へと繰り出されるお馴染みの名曲たち。その一方で、シュガー・ベイブ時代のお宝曲を披露したりと、“超常連” へのサービスも忘れない。一見と常連、双方が楽しめるセットリストは、さながらミシュランの名店を思わせた。そして時おり入る MC が饒舌で、面白いこと!

ステージも中盤に差し掛かり、不意に幻想的なライティングに変わった。あの前奏だ。そう―― クリスマス・イブ。レコードや CD で聴いたあの名曲が生で聴けるなんて! しかも、達郎サンはオリジナルに忠実に歌ってくれる。誰かみたいに変にアレンジしたりしない。あぁ、いい人だ。


 心深く 秘めた想い
 叶えられそうもない
 必ず今夜なら
 言えそうな気がした
 Silent night, Holy night


NHK ホールのおかげか、この日の達郎サンはとても饒舌で、終始楽しそうだった。客層もよかったのだろう。40代から60代がメインながら、20代のカップルや親子連れの姿もチラホラ見かけた。全体的にアットホームな雰囲気で、ある種の同窓会のようでもあった。


閉演後、楽屋にお邪魔した。

近くで見る達郎サンはイメージしていたよりずっとお若くて、いい意味でやんちゃさを残されていた。これが音楽の力か。ふと達郎サンの横を見ると、やけに綺麗な女の人が立っている。スラリと背が高く、上品な笑みを浮かべ――

竹内まりやサンだった。ちょ待てよ、聞いてないよ!

そして、僕は達郎サンに握手させていただいた。

「質問を考えた者です」

「君かぁー!」

ニコッと笑みを浮かべた達郎サンが、横のまりやサンにいたずらっ子のように話しかける。

「ほら、例のおかしな質問の…」

「あぁ、あの……!」

まりやサンもめっちゃ笑っている。正直、ド緊張して、この後、お二人と何を話したのか覚えていない。

ちなみに、例の「Q&Aコーナー」の「クリスマス・イブ」に関する質問は、次のような文章にさせてもらった。

『クリエイターにとって最も売れた作品が必ずしも最高傑作とは限らないと言われる中、「クリスマス・イブ」で両方を叶えられた達郎さんは幸せかと存じます。そこで伺います。ご自身の曲で、2番目の傑作は何でしょう?』

それに対する達郎サンの答えはシンプルだった。

――『そんなの人が決めること。』

撃沈――。

まぁ、気を取り直して、メリー・クリスマス!
山下達郎・竹内まりやご夫妻に乾杯!

2018.12.24
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カタリベ
1967年生まれ
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