中川勝彦とCharがコラボレートしたクリスマスソング
クリスマスが近づくと街は煌びやかなイルミネーションの世界に彩られる。音楽だってそうだ。この時期はキラキラしたクリスマスソングがあちこちから聞こえてくる。そうした華やかさとは一線を画したクリスマスソングがある。
1986年11月28日にリリースされた中川勝彦の「ラスト・ウィッシュ ―同じ色のクリスマス―」だ。
光に溢れたクリスマスに、モノクロームの世界。そんなコントラストが実に見事な楽曲だ。中川勝彦とギタリストのCharによって作られたこの曲は、中川のハイトーンボイスとCharのせつないギターの音色が心に響き、温かさと優しさで包んでくれる。
私たち中川勝彦ファンは毎年、この曲でかっちゃんと共にクリスマスを過ごす。この曲の中に宿る息遣いに触れるたび、かっちゃんが心の中で息づいていることを強く想う。
初めて聴いた86年から現在に至るまで、私のクリスマスソングといえばこの曲以外にはありえない。最近になってこの曲を聴くためにレコードプレイヤーも新調した。アナログ盤で聴くと、さらに素晴らしさが際立つ曲なのだ。針を落とした瞬間、たちまちそこはセピア色の世界。イルミネーションなんてどこにもない…もっと静かで、もっと厳かで、雪だけが街を彩る神聖な世界が広がっていく。曲いっぱいに愛が溢れて思わず胸が熱くなる。
ギタリストCharとの出会いから生れた名曲
前述した通り、この曲でギターを担当し、作曲・アレンジも手掛けたのがギタリストのCharだ。偶然の出会いから交流が始まったCharと中川は、1986年に錚々たる顔ぶれのメンバーを集結させ、MAJI-MAGICと命名したバンドを組む。この曲はそのときに作られたクリスマスソングだ。
1984年に「してみたい」でデビューを果たした中川にとってCharと出会うまでの2年間は、ソロシンガーとしてポップチューンをのびのびと歌い上げてはいたものの、ここではない何かを模索しているようにも感じられていた。そんな彼がCharと出会い、「MAJI-MAGIC」を結成すると、まるで水を得た魚のようにイキイキと輝きを放ち始めた。元々バンド志向が強かったこともあって、テレビ番組でもCharやバンドの話をするときは心から楽しそうにキラキラ瞳を輝かせ、いつも以上に饒舌になって…その姿はまるで少年のようだった。見ている私たちにもその充実感と音作りの楽しさが伝わってくるようだった。
父から娘へ… 中川翔子が継承した「ラストウィッシュ―同じ色のクリスマス」の魅力
さてそんな名曲「ラスト・ウィッシュ ―同じ色のクリスマス―」が現代に甦っていることをご存じだろうか?中川勝彦の愛娘・中川翔子サンが、2014年リリースのアルバム『9lives』のボーナストラックとしてこの曲をカバーしているのだ。しかも、Charがギタリストとしてレコーディングに参加しているというのだから、当時のファンからすると胸熱だ。曲のアレンジは当時よりもよりポップに、翔子サンのイメージにぴったりの楽曲に仕上がっている。
父・勝彦氏のロックチューンとはイメージが少し違うが、中川翔子バージョンを聴いたとき私はとても驚いた。歌声は女性と男性で全然違うのは当たり前だし、それまで翔子サンの声を聴いても「お父さんに似てるなぁ」なんて思ったことは一度もなかった。それなのに、息遣いというのだろうか… 声の雰囲気がそっくりなのだ。リズムの取り方、言葉の乗せ方、呼吸の一つひとつに、かっちゃんの顔が浮かんでくるではないですか――。
翔子サンの曲の解釈もとても素晴らしく、それは歌声に表われていた。いつも翔子サンが大切にしてきたポップスや歌謡曲としての歌い方ではなく、原曲に忠実でありながらも、自分らしさを忘れずに歌うその表現力。翔子サン流の賛美歌のようでもある。そしてそこには翔子さんを通して、まるで、かっちゃんがいるようで…そう思ったのは、きっと私だけではないはずだ。
また、レコーディングの裏話として、父・勝彦氏がcharによく帽子をプレゼントしていたとのことから、そのお返しとしてCharが翔子サンに帽子をプレゼントしてくれたのだそう。時を経て、なんという感動的なエピソード! さすがChar! 素敵すぎる。
時代を超えて父から娘へ歌い継がれていくクリスマスの奇跡
以前、インタビューでCharが語っていた言葉をふと思いだした。
「これまで数々のギタリストとやってきたけれど、不思議と息の合い方、間の取り方がぴったりと合うのが息子のJESSEなんだ」
まさに、翔子サンの歌もそれと同じ感覚のような気がした。私たち、かっちゃんファンにとって、この曲を歌う翔子サンの歌声や息遣い、間の取り方のそこかしこに、かっちゃんが息づいているのだ。かっちゃんが生きていれば、どう感じただろうか。
リリースから28年の時を経て、父から娘へと歌い継がれていく「ラストウィッシュ ―同じ色のクリスマス―」。こんなに素晴らしいことがあるだろうか。まさにクリスマスの奇跡だ。32歳という若さで旅立ってしまったかっちゃんにもしっかり届いているだろう。ぜひ、かっちゃんバージョンと翔子サンのバージョン、どちらも聴いてみてほしい。染み渡るような温もり溢れる素敵なクリスマスになること間違いない。
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2022.12.20