音楽業界で一番スーツが似合うアーティストは誰か?
様々な意見があるだろう。僕は断然ニック・ケイヴを推す。
デヴィッド・ボウイや全盛期のミッシェル・ガン・エレファントのスーツ姿の方が似合ってるだろ? いやいや、セルジュ・ゲンズブールの着崩しがとか、jazz menのコンポラスーツが最高だとか様々な意見があるだろう。
何故、ニック・ケイヴなのか? 個人的な意見ではあるがデビュー以来一貫してスーツ姿を貫いている点を真っ先にあげたい。様々なバリエーションのスーツとシャツ、ネクタイを着ているがダサいスーツ姿を一度も見た事がない。
ヴェム・ヴェンダース監督作品『ベルリン・天使の詩』では、如何なくその着こなしのセンスが発揮されている。
公開当時、洒落た人達の間で絶賛されていた映画なので観た方も多いだろう。僕は物語の終盤、地下のライブハウスで唄うニック・ケイヴのシーンでやっと目を覚ました。
堕天使が空中ブランコ乗りに恋をした話で、東西に分断されたベルリンの壁の境界線が曖昧になってきたころの物語。その物語も現実と幻想の世界を行ったり来たりしていた様な気がする。
本人役で登場するニック・ケイヴはラスボスの様な存在感と歌唱で物語に存在感を与えた。そして何より僕に取って印象的だったのはステージで着用している赤シャツであった。「フロム・ハ―・トゥ・エタニティ」の演奏シーンではジャケットもタイも無し。代わりにベストを着用したスタイル。これが吟遊詩人のスタイルだ!って宣言しているかの様だった。
「お前は俺の様に自由か? 俺の様に語るべき物語を持っているのか?」演奏シーンの間、ずっと問いかけられている気がした。
88年に日本公開されたこの映画が色褪せない理由の一つにあの短い登場シーンで鮮やかに表現されたニック・ケイヴの時代に左右されないスタイルや歌唱法があり、またジェイムズ・エルロイに心酔している文学的背景があるのではないかと思う。そして、この人ほどスーツを着ても普通の会社員に見えない人も珍しい。
「ストレイト・トゥ・ユー」のPVでニックはスーツ七変化を見せる。何色のスーツでも軽々と着こなしてしまうスタイルの良さとセンスを兼ね備え、さらに脚の長さ、手の長さもスーツの魅力を倍増させている。
オーダーメイド製作とは思うが、別に奇抜なデザインのスーツを着ている訳ではないのにこの存在感とオーラは60歳になっても変わらない。
60歳のニック・ケイヴも赤シャツを着用してボビー・ギレスピーと写真に収まっている。
スーツを着る時はいつも彼をイメージして着用しているが『ニック・ケイヴみたいだね!』と言われた事はこの20年間一度もなく、きっとこれからもないだろう。
2017.10.20
YouTube / The Great Falloni
YouTube / JeffStephen02
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