岡村靖幸の魅力、それは終わらない思春期
岡村靖幸の音楽の魅力は何かと言われたら、私は「終わらない思春期」だと答える。
「だいすき」「カルアミルク」「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」… 数ある岡村靖幸の代表作の中で、私が最も好きなのは「SUPER GIRL」だ。
まず、MVがすごい。
直視できない…
カッコよすぎてではない…
恥ずかしすぎてだ…
なんであんなに脇が開いてるタンクトップを着られるのだろう。デニムとデニムを組み合わせたコーディネート。ピタピタのジーパンについ目がいってしまう。キョロキョロと動く目には、一体何が見えてるのだろう。陶酔したダンスと表情は、観ているうちに笑いがこみ上げる。
しかし、「この人大丈夫かな…」という気持ちを掻き立てながらも、聴く者のハートをしっかり掴む歌詞とメロディー、そして歌声。一度観たら忘れられない魅力を私たちに植え付ける。そんな「SUPER GIRL」の歌詞にはカッコ悪くて、最高にカッコいい、岡村靖幸のキャラクター性が色濃く滲み出している。
過剰な自信と強さに心惹かれる「SUPER GIRL」
売れない女優の女の子につれない態度をとられている岡村ちゃん。全く相手にされていないものの、その過剰なまでの自信と、強さに、聴いている私たちは次第に心惹かれていく。
DARLING 呼び出せど
いつもオーディションの日
歌い出しから早速振られる岡村ちゃん。
まるで順位だけ競うフェイダナウェイ
夕飯も食べずにダイエットフード
彼女もダイエットには励んではいるものの、健全な状態とはいえない雰囲気。しかし岡村ちゃんはめげないのだ。
DARLING 好きなのは
俺のほうじゃないのかい
君とウェディングベル鳴らしたい奴は
有名な俳優じゃなきゃダメ?
歌い出しで、誘いに乗ってくれないと言ったばかりなのに、早速、好きなのは俺の方じゃないのかい? と自己アピールがすごい。その自信はどこから湧いてくるのだろう。それに畳み掛けるように続くのはこのフレーズ。
Baby まだ君は本当の男というものを
(don't you know my love)
Baby 俺ほどの男はそうはないはずさ
強い… 強すぎる…「こんなフレーズを言える男は、あんたしかいないよ!」という気持ちになる。しかもこのフレーズの時のダンスが筋肉ムキムキみたいなポーズなのが特にやばい(笑)。
その時点で、岡村靖幸ほどの男はそういないかもしれない… 私は本当の男というものをまだ知らないのかもしれない… と思えてくるから不思議だ。そして曲はサビへと向かう。
Don't you Don't you know わかってよ
ちょっと勉強すりゃ解るよ
Baby I got 愛が人生の Motion
14回もしょげずに
本当の Dance Chance Romance は
自分しだいだぜ
ここのメロディラインと岡村靖幸の声、身振りの親和性は、この曲の醍醐味だと思う。14回もしょげずにという部分からは涙ぐましいチャレンジの数々が眼に浮かぶ。
そして最後に、「♪ 本当の Dance Chance Romance は自分しだいだぜ」というフレーズが強く響く。彼と一緒なら、なんだか幸せになれそうな気がする。その過剰で無鉄砲な自信に、私たちは心惹かれていくのだ。きっと夕飯抜きでダイエットフードを食べてるあの娘のハートも少しずつ動いてるに違いない。
今なお現在進行形、岡村靖幸の青春と思春期
岡村靖幸の純粋さが私は好きだ。青くてイタくて、彼はいつも思春期にいる。誰もが通るであろう、過剰なる自意識の暴走と恋心。
私が中学生の頃、お昼休みに、好きな彼にあう前に、ほんのり色のつくリップを塗っていたこと。美人ばかりと付き合う彼に、私と付き合ってくれたら、すっごく大事にするんだけどな、などと思いながら何度も鏡を見たこと。似合わないツインテールの髪型と、可愛く思われたくて必死で着てた不自然にフリフリな私服。通学カバンにつけてた大きなテディベア。
イタくて、愛しくて、恥ずかしい日々…
そんな気持ちを必死に綴った当時の日記なんて見ると死にたいと思う。だけどあの時の私は真剣で、ひたむきで、それはそれで格好悪くてとても素敵だったんじゃないかとも思う。
そうした誰もが通り、忘れゆく、生々しくて、いっぱいいっぱいの、思春期に訪れる異性に向ける興味と愛情。そういうものが彼の音楽にはずっとあって、多分、だから心の中に消化できなかった思春期を抱えている人は、彼の魅力に囚われてしまうんだと思う。
不恰好でも、ちょっと笑っちゃうようなダンスでも、真剣に真っ正直に、全力で歌い切り、踊り切る。そんな彼と手を取れば何処へだって行けそうな気がする。そんな思春期の力強さや、エネルギーはそこにしか宿らない。
2019年1月に岡村靖幸が出したシングルのタイトルは「少年サタデー」。
岡村靖幸の青春と思春期は、今もなお現在進行形のようだ。
※2019年4月20日に掲載された記事をアップデート
2020.08.14