高1の時友人が、ある男子校でバンドをやっていたイチロー君を紹介してくれた。彼はライブで対バンできる高校生を探していた。バンドを始めたばかりだったが、すぐに会った。
彼はボーカルで、日本のパンクバンドのコピーをやっていた。私もラフィン・ノーズやブルー・ハーツが大好きだったので意気投合、すぐにつきあい始めた。
彼とは、放課後に御茶ノ水で会うことが多かった。駿河台下の「ジャニス」という貸しレコード屋を教えてくれて一緒に行った。御茶ノ水は定期券内だったので、デートがない日もジャニスに通った。ジャニスには、今思えばびっくりするようなパンクのレア盤のレコードがレンタル品としてぽんぽんおいてあった。
そこで見つけたのがKENZIのLP、『BRAVO JOHNNYは今夜もHAPPY END』だった。ぬいぐるみを片手に持った、破れたジーンズをはいたイカレた目つきの男がこっちを見て笑っていた。少しイチロー君にも似ていた。すぐに借りた。
けたたましく
ブラボー!!!!
と叫び、
ジョにぃぃぃぃぃ~
と始まる。
一曲目の『BRAVO JOHNNYは今夜もHAPPY』は衝撃的で、「ふざけているのか?」と最初思った。しかし、明るく能天気なだけじゃない。
許されないことはないのさ
正義はいつでもエコヒイキ
というすさまじい宣戦布告のような歌詞に圧倒された。他の歌もそうだが、衝動で歌っているのかと思いきや、日本語歌詞の内容や構成、メロディーへの乗せ方が天才技だった。聞いたことのあるような陳腐なメッセージではなく、心から絞り出された「宣言」を歌っていた。
イチロー君に話すと、ちょうど彼のバンドのギターのアキラ君がKENZIに夢中で、今コピーしていると言う。アキラ君はお金持ちで他のKENZIのレコードも持っていた。それをイチロー君がダビングしたカセットを、私がまたダビングして聞いた。
KENZIは、「パンクなバンドマン」である前に「パンクスタイルの詩人」だと私は思った。当時はKENZIの生い立ちやキャリアなど何も知らなかった。学校や社会に対する強い鬱憤を叫び、気がふれたかと思うほど明るくまき散らしていた、その表現の姿そのものに、釘づけになった。
社会に対しては、
歪んでる何もかも 真っ暗闇だ世の中
『裏切りのうた』
イカサマ デタラメ
ブタ野郎はいつも
終わるその日を夢見て全てを決め
『HOTニキメチマエ』
と毒づきつつも、
正義と希望を楔のように打ち込む。
そうさ キエナイゼ未来は
HOTニキメチマエ
(同)
LEADERをつぶせ 王様はいらネェ
嵌められた 首輪を引き千切れ
『LEADERをつぶせ』
口先で歌うシンガーというより預言者のようだった。ライブでも見たが、楽しそうに跳ねながら、笑いながら、怒りや救いの言葉を叫んでいた。
KENZIを知って少したった頃。イチロー君のバンドのライブでは、ダイエースプレーで髪を立たせたイチロー君もアキラ君も叫んでいた。
ワオー!ワオー!
ワオー!ワオー!ワオー!!
ブラボージョニーは今夜もハッピー!!!
KENZIがやるみたいに手を上げて客を煽っていた。彼らの友達のパンクスもヤンキーも柔道部も、もみくちゃになって叫んでいた。私もモッシュの中で叫びながら、本当にハッピーだと思った。
その後KENZIは公式サイトで「ブラボージョニー」のことを「全ての理不尽・不条理をテーマにした曲。言ってみりゃ正義の味方の曲だ!!」と説明していた。世の中いつでも真っ暗闇、理不尽・不条理は今もまったく消えていない。
でも「正義の味方」は確実にいる。そして未来をHOTにキメたくなる希望を持てるか持てないかは、自分次第の問題なんだと、KENZIを聞くたびに思い、いまだに励まされる。「さらばできない青春の光」である。
2017.05.12
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