Just The Two Of Us / Grover Washington,Jr. with Bill Withers あだ花的なヒット曲?「クリスタルの恋人たち」
80年代前半の洋楽シーンを表現するキーワードはというと、ニューウェーヴ、第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン、ブラコン、フュージョン、AOR、ダンスクラシックス、LAメタル…
なんとなく来たるバブル期を匂わせるような、そしてビジュアリズムあふれる、まさしく(それが良いのか悪いのかは別として当時のフジテレビが標榜した)軽薄短小を想起させるような、今思えばきわめて80年代を象徴させる作品が1980~81年にすでに多く出現していた。
80年代に9番目に誕生したナンバー2ソング、グローヴァー・ワシントンJr.の「クリスタルの恋人たち(Just The Two Of Us)」は、来たる80年代洋楽バブルを予見させるような、実にあだ花的なヒット曲だったのかもしれない。
この作品がビルボードチャートで1位になっていなかったことに驚きを隠せないアラフィフ世代も多いと予想できるほどに、日本における認知度は意外に高く、並み居るナンバーワンソングにも引けを取らない共有感を誇る。
グローヴァー・ワシントンJr.とビル・ウィザーズ
グローヴァー・ワシントンJr.はそもそもジャズ畑のサックス奏者で、いわゆるシングルヒットとは無縁のアーティスト(事実、本作以外にトップ40ヒットはない)。
おそらくクルセイダーズやジョージ・ベンソンあたりのボーカルシングル・ヒットソングに倣っていたのは明らかで、「クリスタルの恋人たち」にはクルセイダーズ「ソウル・シャドウズ」(1980年)に客演していたR&Bシンガー、ビル・ウィザーズを迎えていたのが何をかいわんやだ。―― 「ソウル・シャドウズ」自体もランディ・クロフォードをフィーチャーした「ストリート・ライフ」(1979年)の2匹目のドジョウではあったが。
このビル・ウィザーズという人選は今考えれば実に絶妙だったわけで、70年代前半に全米1位となった「リーン・オン・ミー」(1972年)を筆頭にいくつかの大ヒットを持つビッグネーム、かつ汗臭いシャウトを身上としないいわゆるポピュラー系シンガーだったことが、ブラコン要素が台頭してきた80年前後のソウルシーンに実にマッチしていた。―― この流れはこの直後、1981年秋にソロリリースしたルーサー・ヴァンドロスの「ネヴァー・トゥー・マッチ」が決定打となる。
計算し尽されたメインストリーム・ミュージック潮流
ブラコン / フュージョンのムーヴメントがピークを迎えつつ、AORも定着しだし、80年代ファンクを中心とするブラックソウル系にも配慮しながら、後にシャカタク等がけん引するカフェミュージックまでをも内包。本格的ブリティッシュ・インヴェイジョンの直前だったというこの時期(1981年前半)だったからこそ、このタイミングでしか成し得なかったヒット曲だったと言えよう。
日本語タイトルの「クリスタルの恋人たち」 … これは歌詞や曲内容とは全く関係ないもので、もちろん前年に大ベストセラーとなった田中康夫著『なんとなくクリスタル』(1980年)からいただいた邦題。
考えれば考えるほどに、ちょっと浮かれたこのタイミング、そして計算し尽されたメインストリーム・ミュージック潮流の絶妙な採り入れ方、あらためて「Just The Two Of Us」に脱帽せざるを得ない。
※2016年11月1日に掲載された記事をアップデート
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2022.04.20