【②からの続き】横浜銀蝿は、1980年デビュー時に3つの公約を掲げた。
■ シングル1位
■ アルバム1位
■ 武道館コンサート満タン
キングレコードのお偉いさんを前に、リーダーの嵐は、「俺たち、金のにおいがしませんか!?」と言い、この公約を描いた模造紙をメンバーに広げさせた。そして「この3つを2年間で達成して完全燃焼して解散します!」と言い放ったという。いかにもロックンロールっぽいギミックにも聞こえる。しかし嵐は、「あれは本気だった」と語る。
「この不良たちをまとめられるのは2年が精いっぱい。不良ってさ、目的が決まると走れるんだよ」
結果2年間でシングル1位は達成できず延長されて3年間3か月となったものの、この公約はすべて実現された。解散時嵐は、「解散した後でも、一日一日、俺たちはツッパって生きてるに違いないよ、めいめい」と言っていた。
それから36年以上を経て、再び目の前に揃って現れた4人。その間、嵐は参院選に出たり、脳梗塞で倒れたり、翔はタレント活動をしたり、覚せい剤で逮捕されたり、TAKU はミュージシャンに曲提供したり、ディレクターを務めたり、Johnnyは経営者になったり…。4人はそれぞれ “大人” として色々な人生を生き、数々の大変なこともあった。
私は個人的に「再結成」バンドから漂いがちな、「青い気持ちが蘇る」とか、「青春を再び」「○○完全再現!」… みたいなにおいや仕掛けが苦手なのだが、彼らからは不思議なほど「古き良きあの頃」「かつてツッパリだった俺達」みたいな、ノスタルジックなものが漂ってこない。それは彼らの体現してきたこと=「ツッパリ」が単なるスタイルではなく、人生哲学としてしみこんだいまだ「リアルタイム」のものでもあるからではないかと感じた。
かつて翔はインタビューで「ナリや外見だけで、ツッパリとは言わない。もっと内面的で精神的なもん」「自分で決めたことをやり通すのがツッパリだ」と言っていた。そんな翔はデビュー前に、「ロックを歌うにはもっとハスキーじゃなきゃいけない」と事務所社長に言われ、毎日夜中に口にタオルを当て血が出るまで大声を出して喉をつぶして、声を仕上げた。年齢と共に更にツヤも増した、そのハスキーな声は健在だ。
「それがツッパリなんですよ!人が求める以上のことを『この野郎!』って思ってやる」
と、Johnnyも言う。昨年はツッパリ漫画『今日から俺は!!』がドラマ化、その中で自身が作詞・作曲した「男の勲章」がカバーされ、リバイバルヒットした。その気持ちを聞いた時にも、
「昔の作品が、今の若い子たちに受け容れられるのはやっぱり嬉しい。『ツッパる』ってことは、『決めたことは最後までやる』ってことなんで、この歌で歌われているのはいつの時代にも受け容れられる、人間の基本的なことだと思います」
と言っていた。ベースの TAKU はかつてのインタビューで「ツッパリ方は様々。俺のツッパリはこうだ、というものを持つことが、大事」と言っていた。
そんな TAKU によると嵐は最近「もうツッパリは疲れるから『うっちゃり』に変えようかな」と言っていたそうだ。しかしあくまでも「勝ち」にこだわっている時点で、嵐もまだまだツッパリなのだろう。いつもカッコよくいたいし、人に見られるので、駅では鼻をかまないと言う。
今回、横浜銀蝿のインタビューを通して彼らの体現する「ツッパリ」のキーワードを色々集めた。
■ 内面的
■ 精神的
■ この野郎と思ってやる
■ 決めたことを最後までやる
■ 普遍的
■ 「俺のツッパリ」を持つ
■ 勝ちにこだわる
■ カッコよくいる
…など、どれも心に響くが、
このコラムの第1回目でも紹介した翔の言葉に尽きる気もする。
「背伸びしようとか、わざとどうしようかとかではなく、精一杯。なんでも精一杯」
「ツッパリ」は状態ではなく、現在進行形のアクションだ。目の前のこと、自分ができることを、ただひたすら精一杯全力でやる。それが私が見つけた「ツッパリ」の答えであり、なぜ今改めて横浜銀蝿に魅かれて、「横浜銀蝿40th」としての彼らの活動にワクワクするのかの、理由だと思った。
脳内のカーステで、横浜銀蝿が6枚目にしてやっと第1位を獲得したあの歌を響かせ、この連載は終わり。
一度しかない人生さ
あせかきベソかき
Rock’n Roll run
死にもの狂いで行くだけさ
息をきらして Ah ha ha
歌詞引用:
横浜銀蝿 / あせかきベソかきRock'n Roll run
2019.10.06