ツッパリ漫画の金字塔が『ビー・バップ・ハイスクール』であるならば、その面白さは暴力、刹那、そして即物的ともいえるエナジーをコミカルに描いたところにある。不良少年である矜持やそこに属する意味合いなどを描く隙もないほどのリアルさ、そしてアクロバティックな作風が大きな共感を呼び大ヒットに至った。 これと共通した世界観を醸し出しているのが、横浜銀蝿の一連のヒットナンバーだ。彼らがブレイクするきっかけとなったセカンドシングル「ツッパリHigh School Rock’n Roll(登校編)」や、これに続きリリースされた「羯徒毘璐薫’狼琉」は、「真夏の夜にバリバリ」といった歌詞からもわかる通り、ツッパリ少年たちの一夜の享楽だったり、理由なき日常だったりがリアルに描かれ、そこからヤンキーカルチャーのひな形が作り出されたわけだ。 横浜銀蝿の一連のシングルヒットの多くを作詞しているのが、ヴォーカルの翔だ。類い稀な彼のコピーライティングのセンスが、後に「お前サラサラサーファー・ガールおいらテカテカロックン・ローラー」や「おまえにピタッ!」といったキャッチーな名曲を世に浸透させていくことになる。 そんな横浜銀蝿にちょっとした変化が起こったのは、81年11月8日のことだ。「土曜の夜のハイウェイダンサー」の異名を持つリードギター、Johnny のソロデビューである。デビュー曲は「ジェームス・ディーンのように」。 いつも俺たち キズだらけ 汗にまみれて 陽がくれる だけどハートは ジミーのように とびきりいかした Lonely angel 同曲は、ツッパリ少年たちに内包された焦燥感やセンチメンタリズム… そして、彼らが今を生きる理由を見事なまでに具現化して大ヒットを記録した。横浜銀蝿の翔が描く世界が「動」であるとしたならば、Johnny の描いた世界はツッパリ少年が普段見せることのない心の奥に潜んだ「静」の部分であった。 そして、この「ジェームス・ディーンのように」と同じ路線で、よりキャッチーにツッパリ少年たちの燻ったハートを揺さぶり起こしたのが Johnny 作詞・作曲による、嶋大輔デビュー第2弾「男の勲章」である。 氷のように 冷たい世間の壁が いつもさえぎる 俺たちの前を 胸にえがいた この夢は ハンパじゃないから かじかむこの手 にぎりしめ ガキのころ 赤トンボ 追いかけてた時の 燃えてた瞳は 今でも俺たち忘れちゃいないぜ こうして横浜銀蝿から Johnny へ、動から静へと深化していった物語は、ツッパリ漫画の変遷にも共通する部分がある―― 『ビー・バップ・ハイスクール』連載から5年後、88年に『今日から俺は!』の連載が始まる。「増刊少年サンデー」で人気を得ると、その後、掲載紙を「週刊少年サンデー」に変え、現在(2018年)は日本テレビ系列でドラマ放映されている。 『ビー・バップ・ハイスクール』と相反して、リアリティのある暴力描写をこの漫画は売りにしていない。ギャグ漫画でありながら、少年誌らしく爽快感を醸し出す作風だ。転校をきっかけに「今日からツッパる」と決意した主人公、三橋貴志と、その相棒、伊藤真司の友情や不良として生きる彼らのモチベーションを軸に物語は描かれていく。けしてメッセージ性の強い作品とは言えない。 だが、登場人物たちの矜持や、心に秘めた思いはまさに、Johnny が「男の勲章」で描いた世界そのものではないか。 つっぱることが男の たった一つの勲章だって この胸に信じて生きてきた 現在放映中のドラマでは、この「男の勲章」が主題歌となり、メインキャストたちが組んだ「今日俺バンド」がカバーしている。 また劇中において、80年代のヤンキーファッションが再現され、短ランや長ランなどの改造学生服、女子生徒のレイヤードカットなどは、僕らにしてみれば、確かに郷愁を誘うものだ。これが、今の若者たちにどのように映るのかは分からないが、おそらくコミカルな視点で捉えることだろう。 しかし、時は流れ、若者のスタイル、価値観が変貌していった今も「男の勲章」で描かれた普遍的なハングリーさは、今の十代にも突き刺さるのではないだろうか。
2018.11.18
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