ラジオ全盛期の80年代においても、ロックギターのラジオ講座番組は実にユニークな試みだった。
82年から91年にかけて、文化放送から全国ネットされた『パープルエクスプレス』は、HM/HR ギタリストを志す多くのギターキッズに影響を与えた番組で、かくいう僕もある日の深夜、AM ラジオを流している時に偶然その存在を知り、以来、毎週愛聴して練習に励んだ一人だ。
パーソナリティでギター講師は Dr.シーゲルこと成毛滋さん。60年代から活動し、70年代には、つのだ☆ひろ、高中正義らと伝説のハードロックバンド、フライド・エッグ等で活躍。その後、柳ジョージと渡英しロンドンに身を置いて本場のロックを実体験するなど、日本のロックギタリストの草分けといえるレジェンドだ。また、グレコのレスポールの製作や教則音源に携わるなど、70~80年代のギターキッズにとってはお馴染みの存在だろう。
番組では、成毛さんがヴァン・ヘイレン、ナイト・レンジャー等、誰もが弾きたいと憧れる HM/HR の楽曲の数々を、実演を交えながら歯切れの良い口調で解説していく。アシスタントはジューシィ・フルーツのイリアや SHOW-YA の五十嵐美貴らが歴代務め、彼女たちが成毛さんの指導を受けて懸命にフレーズを弾く様子はどこか微笑ましかった。
成毛さんはそれまでギター雑誌等では知り得なかったことを僕達に啓蒙していった。まず指摘したのはギターの選び方についてだ。日本人は欧米人に比べて手が小さく指も短いので「ネックが長めなロングスケールのギターを使うべきでない」と説いた。さらに、それを解決するためにネックが短めで幅も細いミディアムスケールのストラトキャスターをフェンダージャパンと製作。後に僕も手に入れたけど、確かに自分の小さな手でも、たいそう弾きやすかった。
当時、誰もが当たり前に使っていたトランジスタアンプのことも指摘した。「ギターが上達するには、ピッキングのニュアンスがわかる真空管アンプで弾くべきだ」とし、今度は安価で自宅でも弾きやすい小型の真空管アンプをグヤトーンと製作。これがミディアムスケールのギター同様に大ヒットし、全国のギターキッズに普及していった。
そして、最も印象的だったのがピッキングについての解説だった。日本人のプロで巧くピッキング出来る人は殆どいないと実名まで挙げながら指摘し、欧米の一流ギタリストがどうやって弾いて何が違うのかを理路整然と解説した。
その歯に衣着せぬ物言いに賛否両論あったが、いち早く海外に渡り欧米のギタリストのレベルを体感した成毛さんだからこそ説得力があり、聞いていて実に痛快だった。それも今思えば、これから海外で勝負すべき日本人ギタリストへの成毛さん流の叱咤激励だったのだろう。
番組では、僕と同世代のリスナーの中から、優れたプレイヤーが紹介されていった。中でも師範代で後にレギュラー出演する古川博之さんが番組に送った音源は衝撃的だった。何せ自分が手も足も出なかったイングヴェイ・マルムスティーンの難曲をいとも完璧に弾きこなしているではないか! 同世代にこんな凄い人がいるなんて… それは僕がプロになる夢を諦める決定打にもなった。
ちなみに古川さんは番組発のソロアルバムまでリリースした。その後、僕がレコード会社にいた時に古川さんの新しい音源を出したいという思いから(残念ながら実現しなかったけれど)、直接お会いした時のこともよく覚えている。
僕が成毛さんに共感できたのは、「今時の若手は速弾きやテクニックに走り過ぎだ! 昔のギタリストの方がよかった」などと決して言わなかったからだ。例えば、ジミー・ペイジがいかに優れているかも丁寧に解説してくれたが、イングヴェイ、ポール・ギルバート、クリス・インペリテリといった新世代のギタリストの凄さを積極的に語ってくれた。そして何より驚いたのは、成毛さんが自ら新世代のギターテクニックをコピーして、見事にマスターしている点だった。
自身の永いキャリアに甘んじず、常に新しいことにチャレンジし続けた姿勢には敬服するしかない。番組終了後は表立った活動も減っていき、2007年に60歳という若さでこの世を去ってしまったことは、本当に惜しまれる…。
だが、番組等を通じて成毛さんから学び、現在プロのギタリストとして活躍している方々は実に多い。彼らは今の若いギタリスト達に自分が学んできたことを伝承している。
情報の少なかった80年代に、ラジオを通じて成毛さんが発信し続けたことは大切に、そして脈々と受け継がれているのだ。
2018.12.04
YouTube / Guitar Lesson 314
YouTube / larzgallows
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