10月

これが幻のMSG、最高傑作であるからこそ悔やまれる「黙示録」

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マイケル・シェンカー・グループのアルバム「黙示録」がリリースされた日
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photo:FANART.TV  

1982年、僕が高校2年生の時の10月。マイケル・シェンカー・グループ(以下MSG)の3枚目のスタジオアルバム『黙示録(ASSAULT ATTACK)』が発売される。

このアルバムに針を落とした時の衝撃は未だに忘れられない。新しいヴォーカルを得て、まるで水を得た魚の如く、我が神マイケル・シェンカーの泣き叫ぶギターがそこにあった。

不安と期待、感動そして失望。このアルバムは、マイケル・シェンカーの大ファンである僕にとって、発売前から複雑な感情を抱かせる存在だった。それは1981年の終わりから続くメンバーをめぐるゴタゴタ騒ぎ、いわゆる人事異動問題が原因だ。

前作『神話』における、アメリカでのセールスの失敗をヴォーカルの力量不足と考えたマネージャーのピーター・メンチは、MSG初代ヴォーカルのゲイリー・バーデンを脱退へと追い込む。事実上の首だ。

ゲイリーの声域の無さは確かに大問題だ。これは当のマイケルだってわかっている。でも、ここからは僕の想像だけど、自身のソロプロジェクトを始めから支えてきてくれた、いわゆる相棒のゲイリーには、マイケルだってそれなりの愛着があったはず。

事実、ピーターのゲイリー切りを黙認はするものの、後任のヴォーカル探しをマイケル自身は行っていない。これは、より力量のある新ヴォーカルへの期待はあるものの、相棒の首を切ったピーターへの静かなる反抗ではなかったか。

僕もまた不思議とゲイリーには愛着を感じていた。「ドクター・ドクター」や「ロック・ボトム」など、マイケルのUFO時代の名曲をオリジナルキーで歌えないゲイリーの声域に不満はあるものの、ゲイリーがヴォーカルでなくなると、MSGがMSGで無くなってしまうのではないか、そんな不安を感じていたと思う。

でも期待も同時に存在していた。それは新しいヴォーカルがグラハム・ボネットだったからだ。どこまでも伸びる歌唱力を持ったグラハムの実力はレインボー時代からよく知っていた。その髪型やファッションから、いまいち好きなヴォーカリストとは言い難い存在だったけど、その声域の広さは疑う余地がない。

グラハムを迎えた新生MSGは、いったいどんなことになるのだろう。スコーピオンズ時代のクラウス・マイネ、UFO時代のフィル・モグなど、一流のヴォーカリストとプレーする時のマイケルの凄まじさを良く知っているだけに、グラハムを迎えたマイケルは、どんなアルバムを作るのか、これが、僕が抱いた期待だ。

その期待が裏切られることは無かった。1曲目、アルバムのタイトルナンバー「アソート・アタック」がスピーカーから流れてきた瞬間、頭の先から爪先まで震えがきたのを覚えている。

まだ3枚目ではあるものの、アルバム全体の完成度において最高傑作であると断言していい、と僕は思った。グラハムにとっても、過去のどの作品より、自身の実力を発揮出来ているのではないだろうか。それほど、グラハムの声域に合わせたマイケルの曲作りは素晴らしい。全曲聴き終わった時、ヴォーカルが違うとこれほどまでに変わるものかという感動に僕は酔いしれたんだ。

そして、感動と同時にすぐに失望がやってくる。最高なアルバムだからこそ悔やまれる現実。グラハム・ボネットは、このアルバムの発売を前にMSGを脱退してしまうのである。

グラハムをMSGに引っ張って来たのは、ドラマーのコージー・パウエルだ。レインボーで一緒にプレーしていたコージーの誘いに、グラハムは二つ返事でMSGの加入を決めたという。

しかし、コージーはこのアルバムの制作を待たずにホワイト・スネイクに移籍してしまうのだ。コージー脱退の理由は未だに良くわかっていないが、グラハムにしてみれば、そりゃないよ、だったに違いない。

さらに、アルバム完成後、新布陣のお披露目となる予定だったレディング・フェスティバルを2日後に控え、リハーサルとして開いたコンサートで、マイケルとグラハムが激しい口論となり、グラハムはそのまま脱退してしまうのである。

一説によると選曲で揉めたらしく、このアルバム中心の選曲にしたかったグラハムに対し、マイケルは過去の曲中心の選曲に拘ったとか。

この説が本当だとすると、そりゃないよ、マイケル、と僕も思う。グラハムは過去の曲も覚えなきゃならないわけだし、実際に時間が無くて覚えらなかったので、グラハムが逆切れしたんじゃないかとか、もしかして、マイケルはグラハムを追い出したかったのかな、とも勘ぐってしまう。

結局、MSGは、ゲイリー・バーデンを呼び戻し、たった1日のリハーサルでレディング・フェスティバルに臨んでいる。このアルバムからシングルカットされた「ダンサー」のPVもヴォーカルはゲイリー・バーデンで制作されていて、グラハムが歌う映像は公式には残されていない。PVを観ればわかるが、やはり、ゲイリーではこのアルバムの曲を歌いこなすのは無理だ。ゴメンね、ゲイリー。

グラハム・ボネットをヴォーカルに迎えたMSGは、このアルバムの中にしか存在しない。悔やまれて仕方がないけど、幻だからこそ価値があるのかもしれない。

いやはやHR/HM業界の人事異動には困ったもんだ。でもこの人事異動のゴタゴタこそが面白さでもあるんだけどね。

2017.08.01
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カタリベ
1965年生まれ
藤澤一雅
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