12月21日

メタリカが導き出した最適解、懐かしむより超えていけ!

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メタリカのアルバム「ライド・ザ・ライトニング」が日本でリリースされた日
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photo:UNIVERSAL MUSIC  

2018年12月26日はメタリカのドラマー、ラーズ・ウルリッヒの55歳の誕生日。

一聴してわかるアタックを効かせた跳ねたリズムとグルーヴによる独特のドラミングは、メタリカらしさを創り出す根幹だ。ドラムキット越しからの圧倒的な存在感で屋台骨を支え続ける。

メタリカの作品売上げの累計は約1億1千万枚にも及び、86年発表の名作『メタル・マスター(Master of Puppets)』が、2016年にアメリカ議会図書館の国家保存重要録音作品に初のメタル系として選ばれている。スラッシュメタルの先駆者である彼らが世界的なモンスターバンドに君臨するとは、80年代のデビュー当時、誰一人予想できなかっただろう。

メタリカとは伊藤政則さんの『ROCK TODAY』(ラジオ日本)を通じて出会った。北九州在住だった僕は、番組が九州でネットされていなかったため、関門海峡を隔てたお隣の山口放送からくる電波で毎週聞いていたが、さすがに電波が弱く、雑音の方が大きいことが常々だった。

番組でメタリカを初めて聴いた時も曲名すらまともに聞き取れなかった。そんな雑音の隙間を縫うように流れてきた静かで短いイントロが一転し、歪みきったギターの刻みから激速リズムが走り出した途端、僕は心臓がバクバクする胸の高鳴りを覚えた。

どこがリズムの頭かも分からないほどのスピード、不穏な旋律を叩きつけるように歌うヴォーカル。真夜中だったことも相まって、僕は部屋のラジオから吐き出される地鳴りのような音に何だか恐怖すら感じていた。

「あの曲がもう一度聴きたい!」

その日以来、僕の頭の中から「メタリカ」の4文字が離れなくなり、すぐさま音楽誌の広告で見つけた84年5月発売の日本盤『キル・エム・オール』を手に入れた。それから十数年後に、僕がいた会社の上司となるディレクター氏が『血染めの鉄槌(ハンマー)』とジャケットを見たまま付けた凄い邦題のアルバムを一気に聴いたものの、最後まで「あの曲」は出てこなかった。

それもそのはず! 番組でオンエアされたのは、ほぼ同時期(84年7月)に海外で発売された次作『ライド・ザ・ライトニング』の収録曲だったのだ。なんとも間抜けな勘違いをしてしまった失意の中、『ライド・ザ・ライトニング』も海外に遅れながら84年末に日本盤が発売されることを知る。

あいにく LP を買える持ち合わせがなかった僕は、それでも「あの曲」が聴きたくて友人と某レコード店に向かった。実はその店の大きなカウンターには何台かプレーヤーが置いてあり、買いたいレコードであれば店員の前で試聴可能だった。僕らは LP盤を見つけると棚から取り出し、早速店員に掛けてもらった。ヘッドホンからすぐに流れてきた1曲目こそ、まさに「あの曲」だった。

―― 抑えきれない興奮を隠し、初めてクリアな音で聴いた「ファイト・ファイアー・ウィズ・ファイアー」は言葉を失うほど、ただひたすらに格好良かった。

しかし、試聴を終えた僕達はレコードを買えないだけにバツが悪く、逃げるように店を後にする。それから程無くして、その時の友人が学校の音楽室用の資料音源を選ぶ係に抜てきされ『ライド・ザ・ライトニング』を選ぶという荒業に出る。おかげで僕はそれを借りてアルバム全編を無事聴くことができたのだった。

その後、80年代後半はクリフ・バートンの死に打ちひしがれながらも、『メタル・マスター』『メタル・ジャスティス (...And Justice For All)』の2連打で、僕のメタリカ熱は高まり続けた。初来日こそ残念ながら地方にいて見逃したが、念願のライヴは89年大阪での2日間の公演を初体験した。凄まじい熱演に客電が消えても誰も席から離れず、メタリカコールが何十分も鳴り止まなかった。そして、その忘れがたい瞬間は、僕の心がメタリカに最接近した最後の記憶になった。

90年代に突入し、最大のヒット作『メタリカ』を聴いた時、スピードを抑えスラッシュから完全に脱却したメジャー感溢れる音像に、もはや胸が高鳴ることはなかった。それ以降、彼らがモンスターバンドに成長するのと反比例するかのように、僕の心は彼らから急速に離れていく。

だが、そんな僕でさえ久々に溜飲を下げたのが目下の最新作『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』だ。理由は明快、そこには80年代をリスペクトし原点回帰を図りながらも、ノスタルジーに浸るのではなく、全ての時代を通過して導き出した最適解の音が呈示されていたからだ。Re:minder が掲げるサイトのスローガン「懐かしむより超えていけ!」―― 偶然にもその言葉がまるでメタリカが導き出した今を現しているようではないか。

2018年末、現在敢行中のワールドツアーでも彼らは未だに「ファイト・ファイアー・ウィズ・ファイアー」を演奏している。どんなに大きな存在になっても初期衝動を忘れずに、メタルの旗を高らかに掲げ続けていることを誇らしく思う。

2018.12.26
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