10月

失恋袋小路「ハートエイク・アベニュー」晴れてばかりじゃ虹もみられない

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下町の路地裏。

偶然にもずっと空き家になっていた近所の木造建築がふたつ、取り壊され始めた。

片手間とは言わないが、想像よりもずっとのんびりペースの取り壊しだったので、その工程を密かに観察していた。

空き家というのはなかなか魅力的だ。誰も住んでいない家。それが独特な雰囲気を持つ。

誰も住んでないけれど、何かいるんじゃないか? いや、知らない間に誰か(何か)が住み着いているかもしれない。そして、誰も住まなくなって朽ちていくその様子はとてもたくさんの物語を孕んでいる気にさせられる。

たまに見かけるのは窓の空いた空き家。これはかなり妄想度が高い物件となる。中には揺れるカーテンが外にはためいている窓もあり、「どうして」「誰が」「いつから」… などと果てしなく湧いてくる疑問に溺れる。その空き家が少しずつ壊され、露わになっていく。

ショベルカーで壁と一階の天井が取り払われた姿を見た瞬間、私は “からっぽ” には “からっぽ” という匂いがあることに、はっとさせられた。

淋しいようで懐かしいようで清々しいようで、でも一言で言うと “からっぽ” なのだ。

これまで幾度か自分がからっぽだと感じることがあったけれど、多分そんな匂いを体のどこかで感じていた気がする。

本当にそんな匂いがあるのか?

常々私は、香りは実際に香っているものだけではないと感じているのだけれど、“からっぽ” もそんな匂い。鼻腔の中だけに存在する不思議な香り。普段は閉じている脳みそのどこかの扉の鍵が開けられたとき、それは香る。

“からっぽ” や “空き家” が私にとって極めて魅力的なのは、そこに無限の “未知” を感じるからだろう。それが実のところナニモノでなくても、私にとっては最高のオカズなのだ。白飯などいらないほどだ。

さて、その反対に「胃もたれな家」の歌がある―― メゾネッツの「ハートエイク・アベニュー」(1982)

失恋したので、もうみんな放っておいてくれ。誰にも会いたくない。そんな気持ちがオールディーズ調のメロディに乗せられ歌われている。

悲しみをたくさん抱え込んでしまった家。涙とためいきで湿り気一杯。とはいえ、この歌は失恋に囚われた心をなかなかさらっとかっこよく歌っている。日本語で言うところの失恋袋小路がハートエイク・アベニューというところもなんだかオシャレだ。じめっとした雨の季節にもイケる一曲です。

どこにも出たくないくらい辛い失恋も、どこにも出たくない雨の日も、いつかやってくる晴れ晴れとした日を受け入れようとも受け入れなくとも、その瞬間の未知に溺れているのはこの世の醍醐味のひとつだよなあ。

晴れてばかりじゃ虹もみられないわけだしね!

2018.06.26
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カタリベ
1969年生まれ
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