7月10日

今すぐ観なさい!SF映画の金字塔「ブレードランナー」の哲学は今も古びることはない

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公開40周年、ハリソン・フォード主演「ブレードランナー」


2022年に、公開から40周年を迎えるSF映画の金字塔『ブレードランナー』。きっとあなたも大好きだろう。…え? 観たことがない!? 今すぐ観なさい! 原作はSF小説の大家フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。監督は『エイリアン』でもおなじみ、『グラディエーター』をアカデミー賞受賞作品に押し上げ、最近も『ハウス・オブ・グッチ』などの意欲作を放っているリドリー・スコット。そして、主演はハン=ソロ、もしくはインディ・ジョーンズこと、ハリソン・フォード。この顔触れが揃っただけでも、一度は観る価値があるってもんだ。

舞台は2019年(映画の製作は1982年なので、近未来設定です。念のため)、酸性雨が降りしきるロサンゼルス。レプリカントと呼ばれる人造人間が労働力として使用されている世界だ。しかし、レプリカントが感情に目覚め出したことから、人間に反旗を翻す事件が頻発する。

“ブレードランナー” とは、そんな反乱レプリカントを取り締まる捜査官のこと。ハリソン・フォード扮するブレードランナー、デッカードは、反乱レプリカントのリーダーを追ううちに、ハイテクノロジーの世界の暗部に切り込んでいくことになる。

日本では「E.T.」に先駆けて夏休み映画に!


そんな『ブレードランナー』だが、1982年の公開の時点では決して評価は高くなかった。なにしろ、アメリカでの公開時は、同じSFジャンルの『E.T.』が一大旋風を巻き起こしていた時期。子どもとエイリアンの友情を描く、わかりやすい感動作であった同作に比べれば、『ブレードランナー』の世界観は陰鬱で理解しにくい。派手なサマームービーに集中する時期に公開するには、ふさわしくなかった…… とも言える。

日本でも扱い的には同様だった。『E.T.』の日本公開はこの年の暮れに設定され、夏休み映画の中にはSFのライバルはいない。そこで宣伝側は、“この夏いちばんのSF大作” であることをアピール。これが結果的に裏目に出てしまう。確かに、映像は凄い。大金が費やされているのは近未来都市のビジュアルからも一目瞭然だ。が、同じハリソン・フォードが出演した『スター・ウォーズ』とは、内容があまりにもかけ離れていた。クラかった、のだ。

ちなみに1982年の日本の夏休み映画の中で、もっともヒットしたのは近藤真彦主演の『ハイティーン・ブギ』で、配給収入は18億円。洋画では『ロッキー3』で、16億円の配給収入を計上した。対して『ブレードランナー』は2億7千万円の配給収入に止まり、興行的に大失敗を喫してしまう。

しかし、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコのアルバムが発売時まったく売れなかったが、今では名盤と謳われているように、芯の通った映画はヒットせずとも評価を高め、名作へと上り詰めていく。ロードショー公開を終えた『ブレードランナー』は名画座で上映されるようになってから、その魅力が口コミでジワジワと広がっていった。

ジョン・ライドンは最高評価!


1983年の夏ごろのミュージックライフ誌に載っていたP.I.L.(パブリック・イメージ・リミテッド)時代のジョン・ライドンの来日直前インタビューで、最近見た映画の中では『ブレードランナー』が面白かった…… 的に語っていたのを今でも覚えている。当時マナブはド田舎で暮らす高校2年生。東京でコケた映画は、田舎では100%上映されないので、『ブレードランナー』は観ていない。VHSビデオが一般化するのは、まだ先のことだ。しかしセックス・ピストルズのフロントマンが “最高” と言っているのだから、これは観ないといけない!

というわけで、1986年、東京暮らしを始めてからひと月も経たない4月29日、名画座、飯田橋ギンレイホールへと足を運んだ。日にちや映画館をはっきり記すことができたのは、当時付けていた映画鑑賞ノートのおかげだ。そして、当時二十歳のマナブがどんな感想を書いていたかというと……「今ひとつピンとこなかった~テンポが悪すぎる(特に前半)~全体的にしまりがない」

名画座はだいたい2、3本立てだ。この日、マナブは『ブレードランナー』の前に、同時上映の『フライトナイト』を見ていた。こちらは「案外楽しめた。登場人物のシチュエーションが面白いので、これからどうなるのかドキドキしながら見た」と記している。こういうわかりやすい娯楽映画を観た後では、『ブレードランナー』はヘビー過ぎたのだ…… と、とりあえず言い訳をしておく。

東京国際映画祭で思い知った「ブレードランナー」の深み


ともかく当時のマナブには『ブレードランナー』は “過大評価されている映画” に過ぎなかったのだが、1992年11月の東京国際映画祭、渋谷パンテオンの大スクリーンでディレクターズカット・バージョンにふれて、反省をすることになる。

悪すぎるテンポには理由があった。しまりがないと思えたディテールにも意味が含まれている。ラストのユニコーンには背筋がゾクゾクした。

この頃にはミニシアター映画を浴びるように見ていたし、考えながら見る映画の楽しみも身に付けていた。過大評価と決めつけて、ゴメンナサイ。26歳となったマナブは、ようやく『ブレードランナー』の深みを知ることになった。

印象的な音楽を付けたヴァンゲリス


2022年5月17日、『ブレードランナー』に印象的な音楽を付けたミュージシャン、ヴァンゲリスが79歳で世を去った。この映画のサントラは、初めて映画を見たときから大好きで、当時の映画鑑賞ノートにも「ヴァンゲリスの音楽は良かった」と記してある。あのシンセサイザーの切ないフレーズの意味を、もう少し早く理解しておくべきだったかもしれない。

そんな映画修行の日々も懐かしい50代の現在ではあるが、自分が何者であるのかを問いかけ、突きつけてくるような『ブレードランナー』の哲学は今も古びることはない。やはり、今すぐ観なさい!なのだ。

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2022.07.10
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カタリベ
1966年生まれ
ソウママナブ
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