ヒット曲 “イントロ秒数徹底調査” 1989年のシングルTOP100篇リマインダーで取り上げている1978年~1991年までの14年分を、1年ごとに年間シングルランキングTOP100のイントロ平均秒数を調査し、その結果を紹介していく連載企画。
1989年シングルTOP100のイントロ秒数は?
今回は、“1989年” を調査します。その年間ランキングTOP10のラインナップと調査結果がこちら。
1位 Diamonds / プリンセス・プリンセス(17秒)
2位 世界でいちばん熱い夏 / プリンセス プリンセス(3秒)
3位 とんぼ / 長渕剛(34秒)
4位 太陽がいっぱい / 光GENJI(20秒)
5位 愛が止まらない ~Turn it into love~ / Wink(18秒)
6位 恋一夜 / 工藤静香(19秒)
7位 淋しい熱帯魚 / Wink(32秒)
8位 嵐の素顔 / 工藤静香(1秒)
9位 黄砂に吹かれて / 工藤静香(19秒)
10位 涙をみせないで ~Boys Don't Cry~ / Wink(20秒)
※(カッコ)の数字はイントロの秒数
調査方法は、年間シングルランキングTOP100にランクインした曲のイントロ秒数を、0秒、1~2秒、3~10秒、11~20秒、21~30秒、31~40秒、40秒以上… の7つの長さに分けて集計していきます。1989年の結果をグラフにすると、こうなります!
平均秒数は21.6秒。前年の1988年の平均が21.8秒。先に調べていた次の年の1990年の平均秒数は22.3秒なので、1988年から3年連続で20秒超え。
近年のイントロ秒数を調査しnoteに掲載しているのですが、2021年の平均は10.1秒。約30年で平均秒数は半分以下になっているという衝撃の結果に。1988年の調査でイントロ秒数が40秒以上の曲はほぼ演歌だったのですが、1989年は、
43位 17才 / 森高千里(42秒)
53位 I MISSED “THE SHOCK” / 中森明菜(41秒)
74位 紅 / X(44秒)
73位 One More Kiss / レベッカ(46秒)
78位 GET WILD '89 / TM NETWORK(93秒)
83位 JUST ONE VICTORY / TM NETWORK(41秒)
アイドル的な活動からアーティスト活動へと変化していった森高千里や中森明菜、X、レベッカ、TM NETWORKといったロックバンドが占める結果に。
この背景には、ヤマハのシンセサイザー「DXシリーズ」が進化(1987年には、ヤマハ創業100周年記念モデルとして鍵盤数を61鍵から76鍵にした「DX7II Centennial」を発売)したことで、楽曲で表現できるサウンドが飛躍的に広がったこと。それに伴い、1曲の演奏時間が長くなったことによる、『ザ・ベストテン』をはじめとする歌番組の終了(最終回は1989年9月28日)などが挙げられると思います。
1988年以降、“イントロ” 平均秒数が20秒を超えたことは、ヒットソングが制作され、世の中に広まっていく流れが変わっていったことと密接に関係しているのです。
「恋一夜」作詞は松井五郎。工藤静香が歌い切った“情熱的で切ないラブソング”
今回、取り上げるのは年間シングルチャート6位の、工藤静香「恋一夜(こいひとよ)」。
箱根・彫刻の森美術館ピカソ館「ジャクリーヌの肖像」のイメージソングに起用されたこの曲の作詞を担当したのは松井五郎。恋人のことを好きになればなるほど、
わからない わからない どうなるのか
… と、より深い愛になることに思い悩む情熱的で切ないラブソングを、当時18歳だった工藤静香が見事に歌い切ったことで、幅広い世代に “歌い手” としての認識が一気に広まりました。
作曲は後藤次利。嵐の素顔、黄砂に吹かれて…への布石?
イントロ一音目から、きりがない儚さ、そしてまるで青い炎がしとやかに燃えるようなシンセとベースが響く… そんな作曲と編曲を担当したのが後藤次利。
一つ前のシングル「MUGO・ん…色っぽい」の明るく艶やかな雰囲気から一変、リアルな深い恋愛を彩ったサウンドは、その次のシングル「嵐の素顔」「黄砂に吹かれて」へと続いていく布石だったのかもしれません。
サビのキーが非常に高く、下げるか悩んでいたのですが、プロデューサーの渡辺有三から「そのキーで歌うことが狂おしさを見事に演出している! その声がいいんだよ」と説得されキーを下げずに歌い、「恋一夜」は、80年代にリリースしたシングルで最大の60万枚のヒットを記録。工藤静香は、指示通り歌ったことを今でも感謝していると、渡辺有三の弔辞で語っています。
令和の時代も、夜の街のカラオケで、サビラストを眉間にしわを寄せながら気合いを入れて歌う姿が見られるスタンダードナンバーは、1989年1月8日、元号が昭和から平成となってから最初の週間ランキングで1位を獲得。この平成初のシングルチャート1位という「記録」を持っていることも、これからもっと語っていきたいです。
連載「80年代ヒット曲 "イントロ秒数徹底調査" 198X年のシングルTOP100」
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2022.07.06