秘宝の名にふさわしいお宝チャンネル、「昭和レトロ 歌謡秘宝館」
『昭和レトロ 歌謡秘宝館』というYouTubeチャンネルがある。クラウンレコード(現:日本クラウン)の膨大な楽曲アーカイブの中から、主に1960年代後半から1970年代初頭の激レア楽曲を厳選した、まさに秘宝の名にふさわしい お宝チャンネルだ。今回は復刻プロジェクト『昭和歌謡復刻シリーズ』の第8弾として、沢リリ子「たわむれないで」、八汐みどり「ひとり夜な夜な」、中山丈二「星の舞踏会」など、全24作品が新たに配信された。
こうした楽曲を実際に掘り起こしてみると、第8弾で配信された曲の中にも、今なら企画が通りにくそうなテーマの楽曲がいくつもあった。今回は、解禁された楽曲の中から、え、こんなのアリ? と思わず声が出てしまう歌詞とテーマ設定の楽曲たちを紹介したい。
一抹の悲壮感がにじんでいる、八汐みどり「がめつい奴」
“がめつい” というパンチの効いたタイトルにいきなり面食らう。てっきり “あいつは金にがめつい男だけど、どこか憎めない” みたいな歌なのかと思いきや、何やら様相が違う。なんと「♪がめつい奴と言われようと 私はけちんぼな金の虫」という、まさかの自称ソングだったのだ。
さらに、「♪ああいい気持ち〜」とドスの効いた声で歌い上げるから、まるで “私は私で生きていくんだよ、ああ気持ちいい!ざまあみろ!” と言わんばかりの開き直りに聞こえてくる。ただ、その突き放したような歌詞とは裏腹に、曲調のどこかに一抹の悲壮感がにじんでいるのが、この曲の一筋縄ではいかないところだ。同名のドラマが同年に放送されていることから主題歌・挿入歌として作られたのかもしれないが、現代においてその文脈をふまえて聴くことができる人は限られているだろう。
作詞は星野哲郎、岬エリ「昆虫ブルース」の正体とは?
“昆虫” ってあの昆虫のこと? と二度見してしまうタイトルである。虫の儚い一生になぞらえた歌なのか、それとも虫の生態そのものが歌詞のヒントになっているのか、あるいは単にコミカルな内容なのか。タイトルだけで想像がどんどん膨らむ。歌詞を聴いてみよう。
あたしが花なら 男はみんな
花をかみきる 昆虫さ
女だったら 誰でもいいんでしょ
そうでないとは 云わせない
花を “私” に、次々と花をかじって渡り歩く昆虫を “男たち” にたとえた一節。そう、これが「昆虫ブルース」の正体だったのだ。ひとつひとつの花を選んで愛でるのではなく、自分の欲望のままに目についた花を食い散らかしては振り返りもせず次の花へと向かう、非情な男性のふるまいが想像できる。これはなかなかに鋭い比喩表現だ。作詞はなんと星野哲郎である。全4番にわたって、すさんだ女心の痛みがずきずきとにじみ出る構成になっているので、ぜひ通しで聴いてみてほしい。
今ではコンプライアンスに引っかかりそうな、花ひとえ「女はバカ」
これもかなり強烈なタイトルだ。自嘲なのか、開き直りなのか。いずれにしろ断定口調のタイトルは、今、コンプライアンスに引っかかりそうなタイトルNo.1といっても過言ではない。いざ聴いてみると、どうやら “女はバカ” と言い放って捨てていった男への未練を歌っているらしく、そんな非情な振り方をするヤツなんて忘れてしまえ!と、つい現代の感覚で言いたくなる。
「♪バカだからこそ惚れたのよ」と歌い上げ、最後には「♪バカと言われても笑えるようになりました」とこぼしている。惚れた弱みというのは、いつの時代にもあるということなのだろう。B面の「女ごころが燃えました」もまた、切ない女心にフォーカスを当てた1曲。作詞は、島倉千代子の「からたち日記」などで知られる西沢爽である。
日吉まこと「お嫁に行きたい」に感じる主人公のこじらせた熱情
タイトルだけ聞くとどこかメルヘンな響きのこの曲だが、なんと「♪幼い時から今日までの 私の夢はただひとつ あなたのあなたのお嫁さんになって あなたの赤ちゃんを欲しいの」と歌い、強く訴える内容となっている。
そして歌詞をよく聴くと、相手の男性はどうもこちらに興味がなさそうな気配。つまりはなんと、片思いでこの熱量である。日吉まことのかなり癖の効いた歌い方が主人公のこじらせた熱情を引き立てるし、何より3番にわたって「♪あなたの赤ちゃんを欲しいの〜」と歌い上げる様子には、その歌唱力の高さも相まって思わずブルッとくるものがある。
現代ではなかなかこのテーマの歌は作りにくいだろうが、同じような情念を抱く男女はきっといつの時代にもいるのだろう。ちなみにこの曲はB面収録で、A面はなんと先に紹介した岬エリ「昆虫ブルース」のカバー。あまりにも濃い1枚となっている。
今回紹介した曲を並べてみると、どこか “女の情念" にスポットを当てたものが目立つ。とはいえ、この時代の女性の情念が他の時代より強かった、というわけではないはずだ。そういう流行りがあったのかもしれないし、作詞のほとんどを男性が手がけていたことを考えると、男性側の気持ちの代弁だった可能性もある。いずれにせよ、こうしたテーマは現代ではなかなか歌にされにくい。
だが、その感情自体が今の時代から消えているかどうかは、また別の話だ。当時は昭和歌謡の豊かなムードを借りて表面化できていたが、今は言葉にしにくくなっているのかもしれない。
『昭和レトロ 歌謡秘宝館』では、こうした楽曲が今後も順次配信されていく。気になったタイトルから、ぜひその言葉の世界に耳を澄ませながら、味わってみてほしい。
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2026.07.10