2022年 12月21日

過去最大の意欲作!工藤静香の35周年ライブはこれまでのヒット曲をゼロから再構築

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工藤静香の映像作品「Shizuka Kudo 35h Anniversary Tour 2022 ~感受~」がリリースされた日
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35周年記念のセルフカバーアルバム「感受」をベースとしたライブの全貌


2022年12月21日、工藤静香のBlu-ray&DVD『工藤静香 35th Anniversary Tour 2022〜 感受〜』がリリースとなった。本作は、同年8月31日に行われた全国ツアーのファイナルとなる東京・日本青年館ホールでの公演が収録されている。映像ではサプライズで1コーラスずつ歌った「雪・月・花」「きらら」やMCも含め全121分間、ライブがほぼ全編見られるので、チケット争奪戦やコロナ禍などの事情で行けなかった人にも存分に楽しめることだろう。

本公演は、同年7月20日にリリースされた35周年記念のセルフカバーアルバム『感受』がベースとなっている。同作中の本編15曲に、完全受注生産盤のみ収録されていたコアファン向けの人気曲5曲を “全曲” ライブで歌うというボリューム感がまず凄い。さらに、この全20曲は、オリジナルのアレンジをほぼゼロから再構築して、今の工藤静香が歌い直しているのだ。以前から彼女は、ベストアルバムで “すでに同じ曲を持っている人のために” と、ヒット曲をあえて英語バージョンで新録したり、ディナーショーでもMCの時間にプログラムから外れた楽曲をファンのリクエストに応じてアカペラで歌ったり、とにかくコアファン向けにサービスを徹底する性格なので(それゆえ熱心な女性ファンが多い)、今回のセルフカバーを “全曲リアレンジ、全曲新録音” とするのも、ある意味彼女らしいとも思った。



今の“工藤静香”の確かな歌唱力


しかし、実際にライブで聴いてみると、それはとても勇気のいる決断だったと強く感じた。なぜなら、工藤静香のようなヒット曲が多いアーティストの場合、イントロが数秒鳴り始めただけで歓声が沸くものが実に多いからだ。過去のライブでも、「慟哭」の♪チャラララ~、チャラララララ、チャララチャンチャチャーン~というサックス演奏や、「禁断のテレパシー」の♪Tell me why,Tell me why,chu chu Tell me why~という女性コーラスなどが始まった途端、会場中が熱狂の渦に包まれていたし、カラオケで彼女の曲を歌ったことがある方なら、これに似た経験をしているはずだ。「Blue Rose」や「Blue Velvet」などセルフプロデュース期にもこの傾向はあるが、とりわけ1987年から1993年のほとんどの作編曲を手掛けてきた後藤次利の偉大さにあらためて気付かされた。つまり、イントロから既にヒット曲仕様なのだ。

そんな重大要素を封印してもなお、いや、封印したからこそ、『感受』は、今の “工藤静香” の確かな歌唱力が存分に発揮された作品になっていると言えるだろう。そして、ライブでも、その揺るぎないウタヂカラは、再現率100%(もしくはそれ以上)で実践されている。本公演の1曲目は、いつもなら終盤で歌われる「慟哭」だったが、シンフォニックなアレンジの中を凛とした佇まいで歌っているのが厳かで、確かに幕開けにふさわしい仕上がりに。その様子は、大切な人と離れ、荒野の中を突き進んでいく女性騎士のように感じた。

その後も、知っていたはずの楽曲にワクワクさせられっぱなしになる。スパニッシュギターから始まり、ラテンのリズムに乗って歌う「激情」は、ほとばしる情熱に身を任せる様子が原曲以上にリアルだし、テンポを落としたボサノバ調の「MUGO・ん…色っぽい」は、大人の色気がさりげなく感じられるし、ビッグバンド風のサウンドの中で恋の駆け引きが歌われる「Blue Rose」にいたっては、海外のスパイ系アクション映画に出てきそうなほど緊張が走る雰囲気の中を、しなやかに駆け抜けていくような歌唱が即興のフェイクも相まって心地よい。



全身全霊の熱唱、貫禄あるパフォーマンス


最も驚いたのは、限定盤のみ収録の「証拠をみせて」だろうか。原曲は、アルバム『静香』収録ながらイントロのシンセサイザー5音だけで大歓声が沸くほどの定番曲だが(「証拠をみせて」については、筆者の記事『工藤静香×中島みゆき×後藤次利、三位一体で燦然と輝く「証拠をみせて」』を参照)、終始ギターが暴れまくるハードロック調の中を、がむしゃらに生き抜くような力強いボーカルで、その演奏と歌唱が対峙しつつも最終的に融合していく様子に圧倒された。通常盤を購入し本作を聞いていなかった人は度肝を抜かれたのではないだろうか。

また、衣装でも短い黒のパンツとシースルーのドレスを組み合わせたり、右肩を出した紫系のロングドレスでセクシーに歌い上げたり、とても1970年生まれとは思えないほどのプロポーションを惜しげもなく披露する。料理や運動など、こだわりのライフスタイルをSNSに投稿するたびにネットニュースで賛否両論が起こるが、こうして歌唱や容姿に結果が伴っているのだから、その強靭な精神力には頭が下がる思いだ。

そして、本編ラストの「抱いてくれたらいいのに」や、アンコールで歌った最新曲の「島より」では、今なお歌えているという感謝からなのか、両手を広げての全身全霊の熱唱に、会場からは、深いため息が方々から聞こえていた。強いまなざしで遠くを見やりながら歌う姿は、「島より」の詞曲を提供した中島みゆきへのリスペクトゆえに影響を受けているようにも見え、その貫禄あるパフォーマンスに35年という月日も、ファンからの想いも、無駄にしないという決意を感じさせた。

それでいて、MCに入ると、いつものフニャ〜っとしたトークになって場を和ませたり、アンコールの拍手が申し訳ないからとすぐに出てきたりと、人間味ある部分は以前と変わらない。ラストに、「また、お会いできるよう40周年、45周年頑張ります」という言葉を力強く言いつつ笑顔でステージを終えたが、その言葉は決して美辞麗句にならないと確信した。何か勝負事に挑む時や、はたまた避けられないトラブルに立ち向かう時、このライブ映像は、きっとあなたの大きな励みになることだろう。





Song Data
■ 工藤静香 / Shizuka Kudo 35h Anniversary Tour 2022 ~感受~
■ リリース日:2022年12月21日

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カタリベ
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