この先の音楽のあり方を見据えた “FOURTH WAVE”
音楽レーベル『FOURTH WAVE RECORD FACTORY』のお披露目を目的に所属アーティストが一堂に介したイベント『Fourth Wave Pop』が6月23日に渋谷PLEASURE PLEASUREで行われた。出演アーティストは、伊藤銀次、杉真理、五十嵐浩晃、ダイアモンド☆ユカイ、ジャンク フジヤマの5名。2026年にソロデビュー50周年を迎える伊藤銀次をはじめ、日本の音楽シーンを鮮やかに彩ってきたミュージシャンが集結した。
このイベントがなんとも意義深かったのは、各々のアーティストがそれまでに名刺代わりとなっていた楽曲をプレイするのではなく、新曲中心のセットリストが組まれたことだった。たとえば、伊藤銀次の「BABY BLUE」でもなく、杉真理の「バカンスはいつも雨」でもない。長きに渡るキャリアを重ねたアーティストたちの現在進行形の姿を確かめることができた。これは、主催側からアーティストへの最大限のリスペクトだ。さらに『FOURTH WAVE RECORD FACTORY』の理念にも合致している。
レーベルの名称にある “FOURTH WAVE”(第4の波)とは、この先の音楽のあり方を見据えたネーミングだ。レコード、カセットまでのアナログ全盛期を第1波、CD、MDなどのデジタル勃興期を第2波、サブスプリクション・サービスを中心としたデジタル席巻期を第3波と分類した場合、アナログレコードの復権を踏まえ、第4の波を起こすべく立ち上がったレーベルだ。そしてここに集結するアーティストもまた、音楽を懐かしさで語るのではなく、新たな時代に向けての方法論を模索し、アップデートを重ねている。
ボサノバ的なフィーリングを施した五十嵐浩晃の洒脱さ
イベントのMCは演出家、プロデューサーでもある西田二郎が軽妙な関西弁で務める。西田のコールで最初にステージに上がったのは五十嵐浩晃だった。1曲目は弾き語りでデビュー曲の「愛は風まかせ」を。空を突き抜けるような高音がまったく衰えていない。しかし、それだけではなかった。
女性コーラスを従え2曲目、3曲目に奏でられた新曲「Never Knew〜なにもしらないで」「PAPAPA」はボサノバ的なフィーリングを施した洒脱さが斬新だ。1980年代のはじめ、当時大きな盛り上がりを見せていたニューミュージックの中核にいた印象の五十嵐だったが、そこから45年以上歌い続けたキャリアに裏打ちされた歌手としての矜持、そして時代に即した柔軟な変化から今も現在進行形であることを強くアピールしていた。
Photo:HIROSHI KAWASAKI
ダイアモンド☆ユカイのエンタテインメント性が開花
続いて登場したのがダイアモンド☆ユカイ。専用の赤いマイクスタンドを掲げて登場したロックスター然とした佇まいは、やはり華がある。オープニングの1曲は、今年配信がスタートしたソロ名義の新曲「愛と調和のシンフォニー」だった。キーボードとコーラスを兼ねたバイオリン、さらにバックトラックを加えた演奏形態。ユカイはグラムロック的なゴージャスさを全面に打ち出した彼らしい世界観を描く。
そして続く「ニューシネマパラディソ」では、ヨーロピアンテイストな曲調から哀愁を醸し出す。ここでは、今年デビュー40周年で大きな盛り上がりを見せているRED WARRIORSのボーカリストとは違った繊細さを強く感じさせてくれた。さらにラストに奏でられた「ブラックジャックウーマン(モモのようだぜピーチパイ)」は、かつて全米を熱狂させたディスコチューン「プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」を想起させるようなアレンジ。ステージを縦横無尽に動き回りながら観客の心をガッチリ掴む。そう、ダイアモンド☆ユカイのエンタテインメント性が開花したその新境地をたっぷりと楽しむことができた。
Photo:HIROSHI KAWASAKI
現在のシティポップを象徴するジャンク フジヤマ「Fragile Heart」
そして、ジャンク フジヤマが登場。ここからバッキングにドラム、ベース、ギター、キーボードを従えたバンド編成に。1曲目に放たれたのは彼の代表曲「Morning Kiss」だった。ファンキーなギターカッティングを主軸とした綿密なサウンドはシティポップという枠を超えた力強さを感じる。それはジャンク フジヤマの圧倒的な声量に依る部分も大きい。
2曲目でアコースティックギターに持ち替え、今年の2月に配信がスタートしたミディアムナンバー「Fragile Heart」へ。同曲のオーガニックなテイストは、現在のシティポップを象徴するナンバーだろう。そして名曲「あの空の向こうがわへ」と続く。曲の後半では「君は天然色」「ガッツだぜ!!」「SHAKE」というヒット曲のフレーズを散りばめ、会場を大いに沸かせていた。わずか3曲の演奏だったが先人たちをリスペクトしつつ、緻密に自らの音楽性を高めてきたジャンク フジヤマの魅力をしっかり感じ取ることができるステージだった。
Photo:HIROSHI KAWASAKI
世界発信を視野に入れた伊藤銀次の極上ポップチューン
イベントは後半に進み、ここで今年ソロデビュー55周年を迎えた伊藤銀次が登場。“過去の自分には興味がない” と断言し、“今まで聴いたことのない新しい音楽がやりたい” とMCで語っていた伊藤は、昨年12月より毎月1曲のペースでデジタル配信を行ってきた『銀次のPOP FILE NEXT』シリーズを中心に4曲を披露。
1曲目のオリエンタルな雰囲気を醸し出す「Good Night Bangkok」はまさに世界発信を視野に入れた極上のポップチューン。ストラトキャスターを抱え、疾走感溢れるメロディーを奏でる伊藤は、ナイアガラ・トライアングル時代も、アルバム『BABY BLUE』から始まる1980年代のソロ時代、そして今に至るまで変わらない魅力がある。それはスイートでキラキラしたポップミュージックの素晴らしさを常に体現しているということだ。そして最近配信された楽曲には、このような魅力を踏まえながら、日本発、世界標準のポップミュージックを作り上げようとする気概すら感じる。
ギターを手放し、踊りながら披露した2曲目の「Thank U for the Good Time」では、会場を大きく沸かせた。今年76歳になるという伊藤だが、年齢は単なる記号だと思わずにいられない現役感がある。続く「April Dancer」、ラストの「サヨナラのあとがき」にしても、MCで言った通り “今まで聴いたことのない新しい音楽” であることは確かだった。誰にとっても親しみやすいが、どこにもなかった音楽。そんな音を伊藤がクリエイトしていることがリアルに伝わるステージだった。
Photo:HIROSHI KAWASAKI
優しさと力強さが共存していた杉真理の歌声
そしてトリに登場したのが、ポップマエストロの異名を持つ杉真理。この日の会場で無料配布された7インチアナログ盤「HUMAN DISTANCE」をはじめ4曲を披露。同曲はコロナ禍のもどかしさを歌詞にしたもので、ゆったりチルアウトしたメロディーが特徴だ。しかし「♪手を取り合って かた寄せ合って 僕らは命繋いでく」と語るように歌う杉の声には優しさと力強さが共存していた。
それは素直に “明日も頑張ろう” と思わせてくれる音楽の力だ。ラストの大団円でこの日の出演アーティスト全員がステージに集結して奏でられた「It's Show Time」でも同様だった。“大谷選手勝手に応援ソング” だとMCでも語っていた同曲も限りなくポジティブ。これは、音楽を信じて現在までポップミュージックを開拓し続けてきた杉の強さだろう。そのパワーを「HUMAN DISTANCE」や「It's Show Time」で感じることができたのだ。
今回のライブ『Fourth Wave Pop』は世界標準を視野に入れた和製ポップミュージックの現在地だった。しっかりとした軌跡を歩んできたアーティストたちが、現在進行形を貫き、新しいスタイルを模索していく。そして懐かしさを語るのではなく、未来に向けての音楽が日本から羽ばたいていく。そんな予感に満ち溢れた夜だった。
Photo:HIROSHI KAWASAKI
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2026.07.07