1981年5月10日。あれは日曜の静かな午後のひと時だったと思う。隣の家の縁側では親父さんがステテコ姿で気持ち良く昼寝をし、猫があくびをしているような時間帯。そんなほのぼのとした日常が突然雷のような音で一気に覆された。
事件の発端は、原宿にあったビクター音産ビルの屋上で行われた楽曲の放送禁止を抗議するサザンオールスターズのゲリラライブ。最初のうちはジューシーフルーツなどの曲が聞こえてきたのだが、そこに突然ほぼ神宮前全域に響き渡るような強烈な音。ドカンと爆弾が落ちたような爆音めいたビートと共に「勝手にシンドバッド」が響き渡った。
昼寝をしていた隣の親父さんは驚いて飛び起きると「母さん、警察呼べ、警察~!」と絶叫。近所中の人が家からわらわらと外に次々と飛び出してくる。あの時の状況は先の震災で大きな揺れが収まった後、建物の外に何が起こったのかを知るために出てきた人々の姿ととても似ていた。この辺りで休日に音がするとすればメーデーなどのデモぐらいだったし、当時は鉄筋作りの家も少なく多くが木造か木造モルタルだったので家屋の中まで音が響きわたったのだろう。
サザンが歌っていると知って喜んでいたのは私たち子供たちばかり。もちろん我が家も原宿警察に通報。それ以後、家ではしばらく「勝手にシンドバッド」を歌うのは暗黙の了解で禁止。パニックだったのはゲリラライブの現場だけではなく、あの日、街丸ごとがパニックだった。
こうして警察が出動し「引き上げないと逮捕すると言っています。原宿のお巡りさんバンザーイ」という桑田さんの言葉に繋がるのです。
勝手にシンドバッド
作詞・作曲:桑田佳祐
編曲:斉藤ノブ/サザンオールスターズ
発売:1978年(昭和53年)6月25日
2016.01.02
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