今ではあまり使う人もいなくなったが、江ノ電には「タンコロ」という愛称がある。昭和初期に一両編成でコロコロと運行していたのがその語源だ。今年で創業117年を迎える江ノ電は、今では市民の足として、また観光名物の一つとして活躍しているが、一時期は廃線の噂もあった。
その廃線危機を救ったのが1976年に放映された勝野洋主演のドラマ「俺たちの朝」と言われている。特にドラマの主人公が住んでいた「極楽寺駅」には連日ファンが押し寄せて、江ノ電を全国区の乗り物に押し上げてくれた。
鎌倉から藤沢までの営業距離はわずか10キロだが、民家の間をスレスレに走ったり、江ノ島付近で路面電車となったり、稲村ヶ崎から腰越までは海と134号線を見ながら走行したりと様々な顔を持つ電車である。季節によって変わる車窓を楽しみにしているファンも多いだろう。
通常は四両編成で運行しているのだが、腰越駅ではホームの長さが足りず、三両分のドアしか開かない。それを知らない観光客が同駅で下車できずに慌てる姿が見られるが、そういう所も面白さの一つだろう。
さて、そんな江ノ電であるが以外と “江ノ電” というフレーズが入っている楽曲は少ない。その少ない中で、私が選ぶのはやはりサザンオールスターズが1985年に発表した「鎌倉物語」だろう。原坊のアンニュイな歌い方が曲とうまくシンクロしている。
歌詞には「あの日の思い出溢れる江ノ電見つめて」とある。
個人的な感想だが、私は普通の電車を見つめて想い出が溢れるという感覚はあまり持っていない。だが、江ノ電にはそのフレーズがピタリとはまる。それはきっと他の電車と違い、走るスピード、沿線に咲く四季折々の花、点在する神社仏閣、レトロなフォルム、潮の香り、134号線を走る車のテールランプなど、すべての鎌倉風土を一身に背負っている電車だからではないだろうか。
初めてのデート、気の合う仲間との海水浴、寺院巡り、古民家カフェでのゆったりとした時間、それら「鎌倉」での思い出が江ノ電に投影されるのだろう。
鎌倉海浜公園に「タンコロ」が常設展示されている。一度足を運んでみては如何だろうか。
鎌倉物語 / サザンオールスターズ
作詞・作曲:桑田佳祐
編曲:サザンオールスターズ
発売日:1985年(昭和60年)9月15日
アルバム『KAMAKURA』収録
2017.03.25
YouTube / beglialcell2(鎌倉物語は10:40〜)
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